100話.勢力図?
ソカリス家に招かれた翌日。
泊っていって欲しいと言われたけれど、丁重にお断りして家に帰った。
二人だけじゃなく、皆の邪魔をしたくなかったからね。
今はアーネストと一緒に、母さんからご飯を呼ばれる時間まで部屋でゴロゴロしている所だ。
「なぁ蓮華、やっぱ三国志って良いよな」
「またそれか。お前は三国志っていうか、三国無双が好きなんだろ」
「ぐっ……それは否定しねぇけど」
なんといっても、私とアーネストが……というか、元の私が三国志を知ったきっかけが、元の世界で発売されたゲームである三国無双だったので。
それから小説を読んだりして中身を知って更にハマった事もあった。
映画にもなったからね。
「でよ、この世界も勢力図があるじゃん?」
アーネストが身を起こしてこちらを見てそう言う。
「あったっけ?」
「あるだろ!?」
なんとしても私に答えさせる気か。
はぁ、仕方ないな。
「えーと……地上と魔界と行った事はないけど天上界に冥界に神界とか? あとは妖怪達の国も区分で言えばそうなるかな?」
「いや、そういう見方もできるけどよ……それだと大雑把すぎだろ? なんつーか、もっと小分けな勢力でさ」
「んー、なら地上の中でもそれぞれの国と、魔界で言えばリンスレットさんの勢力とその他みたいな?」
「大分近くなったな、そんな感じだよ」
「それで、それがどうしたんだよ?」
それが一体どうしたというのか。
「いやさ、お前天上界のゼウスに狙われてるじゃん?」
「そうだな」
「それも天上界って括りじゃなくってよ、天上界の一部の勢力なわけじゃん?」
「まぁ、そうだな」
イヴちゃんの身体を乗っ取っていたウルズも、そしてタカヒロさんを乗っ取っていたバルビエルも、ゼウスとは違う勢力だ。
天上界だって一つじゃない。
「魔界はリンスレットさんがほぼ統一してるけどよ、それでもナイトメアみたいな組織はあるじゃん?」
「うん」
「だからよ……俺も勢力を持とうと思うんだよな」
「!!」
それは、意外な話だった。
私はアーネストとのんびりこの世界を生きていくイメージしかなかったから。
アーネストの表情が、先程までと違い真剣なものへと変わる。
「リヴァルさんの未来を見た。ほんの少しのきっかけで、悲惨な未来が来ることがあるんだ。その可能性を少しでも低くする為に……俺は、俺の勢力を持ちてぇんだ」
「……そっか。お前がそこまで考えての事なら、私も協力するぞ?」
「ああ、さんきゅ。なら、どっちの勢力が大きくなるか、勝負だな!」
「……へ?」
え? どういう事? この流れでなんで勝負になるの?
「何鳩が豆鉄砲喰らったような顔してんだよ?」
「え、いやだって。一緒に勢力作るって話じゃないのか?」
「ばーか。一つの勢力に頭は二人要らねぇ。それに、俺はお前とは対等でいてぇ。部下にするのもされるのも嫌なんだよ。だったら、互いにトップに立つしかねぇだろ!」
「……」
凄く良い笑顔でそう言うアーネストに言葉を失ってしまった。
その間にもアーネストは話を続ける。
「ヴィクトリアス学園でさ、タカヒロさんがサビエルに乗っ取られた後に、リンスレットさんに言われた事、覚えてるだろ?」
「……うん、あとバルビエルだからな」
ザビエルってなんだ。
「まぁそれはどうでも良いんだよ。リンスレットさんが言ってたろ、地上は弱いって」
「……うん。だけど、カレンやアニスもそうだけど、少しづつ強くなっていってる」
「そうみてぇだな。けど、それだけじゃダメだと思うんだよな、勘だけどよ」
具体的な理由はないけど、そんな気がするから、か。
普通の人が言ったなら、ハイハイで済んでしまう話だ。
だけど、凄惨な未来を体験してきたアーネストが言うなら話は変わってくる。
「俺は未来で、この後に召喚されてきた奴らとも出会った。そいつらとリヴァルさん、アテナやミレニア、タカヒロさんと一緒に協力して、母さんや兄貴、そしてリンスレットさんやノルンを助け出せた。知ってるか蓮華? 地上と魔界は海で離れてるけど、地上から魔界とは逆方向に行くと、日本みたいな小さな列島があるんだぜ」
「!?」
「その島に、もうあと少しで強力な力を持った転移者が来る。なんせ本人から聞いてるから間違いねぇ」
「もしかして、そういう人達を集めていくのか?」
「おう。そして、新たな勢力として旗挙げをするつもりだぜ! その勢力のトップは、俺だ!」
物凄く生き生きとした、キラキラとした目でそう言うアーネスト。
これはもう、決意は固そうだ。
「そっか」
「ま、俺達に寿命はねぇんだ。少しの間色んな楽しみ方をしても、良いじゃん? 俺とお前はずっと一緒に生きていくんだしよ」
「おお、プロポーズか? 全然響かないけども」
「違げぇよ!? 分かってて言ってんな!?」
「あはは、勿論」
私とアーネストは元は一人の人間だ。
それから二人の存在になって、大抵一緒に居るとはいえ、ずっとじゃないわけで。環境の違いから性格も少しづつ変わっていったと思う。
友達や家族よりも深い所で繋がっていて、魂の繋がりだって感じる時があるくらいだ。
それくらい特別な存在。
「すぐ立つのか?」
「そうだな、今日は家でゆっくりして、明日立つ。しばらくは帰らねぇつもりだ」
「そっか。狙われてるのは私だし、アーネストなら大丈夫だろうけど……気を付けろよ」
「おう。ってもスマホを置いてくわけじゃねぇからな。なんかあったら遠慮なく連絡しろよ? すぐにすっとんで助けに来るからよ!」
「ああ、ありがとな」
話は終わったとばかりに、またごろんと寝転がるアーネスト。
そうか、アーネストも色々と考えていたんだな。
私はこんなのんびりした生活が、ずっと続けば良いと思っていた。
ま、長い生に彩りを添えるのも良いのかもしれないね。
アーネストが勢力を作るというのなら、私も何か考えてみるか――
ちなみに、母さんと兄さんから猛反発を受けてしどろもどろになりながら説得するアーネストに笑ってしまった。
これにて第五章スローライフ編、終了となります。
色々なものを取り入れた結果、各話で話が随分と違いますが、ここまでお読み頂きありがとうございました。
妖怪達を含めたオリンピック(仮)を締めにしても良かったのですが、そちらは今後別の機会に書こうと思っています。
それでは、第六章を期待して頂ければ嬉しいです。
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