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99話.アーネストとの修行

「「「「「はぁっはぁっはぁっ……」」」」」

「はい、それじゃ一旦休憩ね。各自少し休んで良いよー」


 その言葉と同時に、皆地面へとへたり込む。

 女性陣も体面を気にせず寝転がってるよ。


 皆は今私の創り出した影の魔物と戦っていた。

 アーネストが使う魔術、『幻影創兵術』に近い。

 これはソウルの特殊能力で、解放段階が上がった為特殊能力が増えた。

 照矢君達と一緒にダンジョンで魔物をたくさん倒したのは無駄じゃなかったんだよね。


 その特殊能力の一つが、魔物創造。

 倒した魔物を創り出す能力だ。

 召喚と違う点は送還が無い点と、一度創り出せば後は継続魔力が必要無い点だね。


 召喚は呼び出すときに魔力が大量に必要で、その後も魔力のバイパスが繋がっている為、送還するまで維持にも魔力が必要になる。

 けれど、この特殊能力で創る魔物は最初に魔力こそ必要なものの、その後は何も要らないので手軽なんだよね。

 創り出せる魔物は、ソウルが血を吸った相手限定だけど。


 で、今回私はあのダンジョンで戦った結構強めのモンスターを数体創り出して、皆に相手してもらった。

 召喚した魔物達は命令に従順なので、言った通りに動くんだけど……なんと知性もあるようで、戦闘の駆け引きが人間相手と変わらないのが面白い。

 通常魔物と人間の戦いって、力では劣っていても、武器や道具を使い、戦術等で覆して勝つのが人間の戦い方だ。

 なのに、それを魔物も同じ行動を取ってくる……となれば、中々に厳しい戦いになる。


「へぇ、こいつら結構やるじゃん。学園の奴らより上じゃね?」

「お前もそう思うかアーネスト」

「おう。少なくとも、生徒会任せたあいつらよりも上だな」


 アーネストはニヤリと笑いながらそう言う。

 こういう時、こいつは戦いたくてウズウズしてるんだよなぁ。


「「アーネスト様」」


 そんな会話をしていると、珍しくカレンとアニスがアーネストに声を掛けた。 


「おう?」


 怪訝な顔をするアーネストに、二人は続けた。


「宜しければ、私共と戦っては頂けませんか?」

「です」


 二人が真剣な表情でアーネストの瞳を見据える。

 地面にへたり込んでいた皆も、こちらに注目している。


「蓮華じゃなく、俺とか?」

「「はい」」


 その疑問はもっともだけど、二人の気持ちは理解できる。

 私とは時々戦っているけど……アーネストと戦った事は一度もない。

 そして……私がこの世で一番信頼しているのがアーネストだ。

 それを知っている二人は、より強くアーネストとの戦いを望んでいるように思う。

 ちらりと私を見てくるアーネストに、頷いて返す。


「……よっしゃ、良いぜ! 俺もお前らとは戦って見たかったしな。一対一を二回すっか? それとも、まとめてくるか?」


 これは、別に二人を舐めて言っているわけじゃない。

 アーネストなりに、二人の戦術を考えて提案しているだけだ。

 それが分かっているのか、二人も顔色を変えたりはしない。


「一緒に、でお願い致しますわ」

「です!」

「オーケー」


 カレンとアニスはアーネストと少し間合いを取り、そのレイピアのような剣と、大鎌を構えた。

 アーネストもまた、双剣を取り出す。


「油断するなよアーネスト。二人はユグドラシル解放状態じゃない私とほぼ互角に戦えるからな」

「おま、そういう情報はもう少し早く言えよ!?」

「「行きますっ!」」

「うぉっ!?」


 左右から二人同時に仕掛けるカレンとアニス。

 その攻撃を、アーネストは冷静に捌く。


「本当に一寸の狂いもなく同時だな、こえーこえー」


 ギギギと金属のこすれる音が響く中で、アーネストは笑う。


「けどよ、速さは俺の方が上だなっ!」

「「っ!!」」


 攻めに回った二人が、今度はアーネストの凄まじい連撃で防御に回り、攻勢が入れ替わる。


「くっ……!」

「速い、ですっ……!」


 そう、アーネストは速さで言えば私よりも上だ。

 二人は私の速度にはついてこれるけれど、アーネスト程速い相手は初めてだろう。


「どうしたっ! その程度か!?」


 ギィンッとアーネストの攻撃を防いだ細剣が空へと飛ぶ。


「まだですわっ!」

「仕掛ける、ですっ!」


 カレンが空中へと飛び上がり、細剣を取りに行く。

 その隙を逃さないアーネストじゃない、だけど。


「『アイシクルロード』!」

「うぉっ!? 氷の道、か!?」


 アニスが空中へと氷を張り、その上をローラースケートで滑るように走る。


「そこ、ですっ!」

「チィッ!」


 本来ならあり得ない軌道の攻撃を、アーネストはなんとか避けた。

 その間にカレンは武器を取り戻し、空中から仕掛けた。


「『ヴァルキュリアストライク』!」


 空中からの流れるような剣閃。けれどその全ての剣閃をアーネストは避ける。


「なっ……!?」

「遅いぜ? 止まって見えるな!」

「危ない、お姉様! ぐぅっ……!」


 地面に着地する僅かな隙を、アーネストは攻撃する。

 それをアニスが庇い、大鎌で受けたアニスは後方へと吹き飛ばされる。


「アニス!」

「余所見してて良いのか?」

「!! ぐぅっ……!」


 カレンもまた、アーネストの追撃によってアニスの元へと吹き飛んだ。

 息をするのも忘れるような、流れるような攻防。

 その光景を見て、周りの皆が息を吞むのが分かる。

 アーネストは強い。それはもう本当に、だ。

 二人は私のユグドラシル解放をしていない状態なら互角に戦える。

 だけどアーネストは、ユグドラシル解放をしていない私には、勝つのだから。


 右手のネセルを肩へとトントンと乗せ、余裕の態度でアーネストは言う。


「どしたい、こんなもんじゃねぇだろ? あの蓮華に互角って言わせるくれぇだ、期待してるぜ?」


 私を上げながらそんな事を言うアーネストに、二人の目に火がついたのを感じる。

 二人は立ち上がりながら、凄まじい魔力を全身にまとわせた。


「流石ですわアーネスト様。それでこそ、蓮華お姉様の隣に立つ者」

「はい、です。そしてその場所は、私達の目指す場所……」

「「負けませんっ!」」


 ゴォォォッ! と魔力の風が吹き荒れる。

 凄まじい熱量の風と、凄まじい冷気の風が入り混じり、バチバチと雷が生じている。


「これはマズイ。結界張るよ」

「おう、頼む蓮華。やっぱこいつらすげぇな!」


 周りに被害が出ないように、周辺に結界を張っておく。

 アーネストは凄く嬉しそうだ。


「「行きますっ!」」

「おうっ!」


 三人の戦いを見ておきたいけど……こちらも大事だからね。


「皆、そろそろ休憩は終わりだよ。カレンとアニスの戦いに見惚れるのも分かるけど、皆も修行しないとだからね?」

「「「「「!!」」」」」


 魔物との戦いで皆の大体の実力は掴めた。

 なら後は、その実力を伸ばしてあげないとね。


「皆がしっかり私の伝えた修練を頑張ってた事は良く分かったからね。ここからは一段階上げるよ。アーネストも戦ってるし、私も皆と戦おっか」

「れ、蓮華様と!?」

「こりゃ気を緩めたら一瞬でやられんな……ミレル、支援頼むぜ」

「うん、お兄ちゃん……! 魔力も少し回復したし、最上級魔法も後3発くらいならいけるよ!」


 その言葉を聞いて、ミレルが忘れている事があるのに気付く。

 教えてあげないとね。


「ミレルは光と闇の魔法、そして魔術が使えたでしょ?」

「え? は、はい蓮華様!」

「なら『マナドレイン』も使えるよね? 魔力はそれで多少回復出来るし、使わないとね?」

「うぇ!? で、でも蓮華様。『マナドレイン』は詠唱時間が凄く長いですし、動いたら発動停止しちゃうし、エンチャント並みに使えない魔法で……」


 あー、うん、普通に使うとそうだけど。


「ミレル、魔法と魔術の大雑把な違いは?」

「え? えっと、魔術には使用回数がある、ですか?」

「それもだけど、もう一つあるよね?」

「もう一つ……? あ……! そうでした、魔術は詠唱が要らない……!」


 そう、正確には魔法名を言う必要が無い。


「そうだね。だから、魔法を唱えながら並列で補助魔術を使うんだ。ミレルなら出来るよ」

「ひー! 蓮華様がなんでもない事のように滅茶苦茶難しい事言ってきますー!?」


 大丈夫大丈夫、これくらい簡単だよ。

 だって私もこの世界に来てすぐに母さんから叩き込まれたもの。

 私は魔術を使えないから、魔法の扱い方を、だけどね。

 お陰で移動しながらでも詠唱短縮で付与魔法も使えるし。

 そういえば、この世界にきてまだ日が浅い頃に、この話をしてシリウスに驚かれたっけ。


「それじゃ、修行開始しよっか。今日はアーネストも居る事だし、交代してやるのも良いね」

「「「「「!!」」」」」


 それから、今日は夕方まで皆の訓練をして過ごした。

 それぞれの課題も見えてきたので、紙にこれからの訓練方法を書いて渡しておこう。

 カレン、アニスと戦ってアーネストも満足したのか、終始上機嫌だったよ。

 まぁ二人はとても悔しそうだったけれどね。

 なんせ一度も勝てなかったからね……。


「次は絶対、絶対に勝ちますわ……」

「です……」


 地面に大の字に倒れながらそう言う二人を見て、苦笑したのは仕方ないと思う。

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