96話.ソカリス家へ行こう
アーネストと共に修練をしつつ、過ごしていたある日。
カレンからメッセージが届いた。
内容としては、気軽に遊びに来て欲しいみたいな事だったけれど、あれから皆の練度がどうなったかも気になるし……行くと返信しておいた。
「予定無いし、俺も行って良いか? 家の事情っつうか、なんか機密な話があんなら遠慮しとくけどよ」
「んー、アーネストなら大丈夫だろ、そういう話があっても」
「いや、お前だから話してるって事もあるだろ。俺をお前が信じてくれてるのは嬉しいけどよ、混ぜない方が良いと思うぜ?」
アーネストの言う事は分かるんだけど。
「私の友達に、お前をないがしろにするような人は居ないよ」
「いやそうじゃなくってだな……はぁ、まぁ良いや。俺が線引きはちゃんとしとけば良いか」
よく分からない事を言っているアーネストを無視して、母さんにソカリス家……カレン達に会いに行く事を伝える。
「あー、新しく作ったんだったねー。異例だけど、王から許可が下りてるから何も言えなかったんだろうけど……それを不満に思う貴族も居るだろうし、私も正式訪問を一度しておこうかしら。カレンちゃんとアニスちゃんに、私も行くって伝えておいてくれるかな、レンちゃん」
「りょうかーい」
「おま、あっけらかんと言うな。俺がついていくってのとは全然違げぇんだぞ?」
「?」
よく分からないけれど、母さんも行く事をカレンとアニスにメッセージを送ると、滅茶苦茶慌てた返事が届いた。
カレンにしては珍しく誤字がいっぱいだ。
要約すると、急いで準備するので少しだけゆっくりきて欲しいって事だった。
母さんが行くからって、別に普段通りで良いと思うんだけど。
「こいつ、なんも分かってねぇよ母さん」
「あはは……」
アーネストは呆れ顔で、母さんは苦笑しながら私を見る。
カレンも慌ててたし、どういう事なの?
「そんじゃま、俺も着替えるか。蓮華もその動物パジャマから着替えとけよ? つか、それ何種類あんだよ……」
「十を超えたくらいから数えるの止めた」
「日替わりで着ても一週間全部違うやつになんのかよ……」
だって、アリス姉さんが隙あらば渡してくるんだよ。
毎朝布団に突撃してくるし、一度疲れてそのまま下着で寝てたら悲しい顔されて以来、必ずどれかは着るようにしているんだよね。
冷暖房完備って言い方もおかしいけれど、温度調節してくれるので凄く快適なんだよ。
「それじゃ、私も準備するから、着替え終わったら待っててくれるかな?」
「はーい」
「あいよー」
母さんに返事をしてから、自室へと着替えに戻る。
兄さんから貰った伸縮自在、破れても自動修復可能な服に着替える。
これもまた熱い時は涼しく、寒い時はあったかくなる優れもの。
更に自動洗浄効果もあり、至れり尽くせりでもはや着替えなくて良いレベル。
だけどまぁ、元日本人の習慣というか、そういうのは抜けないもので。
魔法で体も綺麗に出来るんだけど、お風呂に入るのも止められないからなぁ。
お風呂は体を洗う事もそうだけど、つかっていると気持ち良いからだろうね。
そんな事を考えながら着替えも終わり、リビングへと到着した。
すでにアーネストはソファーに座って、タマモを撫でている。
こちらに気付いたタマモは、私の顔へと飛んできて仮面へと変化した。
「おっと、まだ良いんだけどね」
「はは、良く懐いてんな蓮華」
「お前にもかなり懐いてるじゃないか」
「まーな。元居た世界で犬も猫も飼ってたし、基本動物好きだもんな俺、いや俺達」
「だな」
私もアーネストも、元は一人の同じ人間だった。
今でこそ違いは多々あるけれど、根っこの部分は同じままなんだと思う。
二人でソファーに座り、雑談をかわしているうちに母さんが準備を終えてやってきた。
「よっし、行こっかアーちゃん、レンちゃん。アリスとロキには留守番するように言っておいたからねー」
「兄貴はともかく、アリスがよく我慢したな母さん」
母さんは苦笑しているけれど、アリス姉さんはあれで空気の読める人だからね。
きっと快く……
「ねぇマーガリン! 私も本当に行っちゃダメなのー!?」
「さっき説明したでしょ!? 私は特別公爵家当主として行くんだってば!」
「だって折角蓮華さんやアーくんと外に行ける機会なんだよー!?」
うん、全然空気読めてなかった。
流石アリス姉さん、私の予想の上を行くね。
「俺はアリスも来て構わねぇとは思うけど……多分母さんとは別行動になるんだろうし」
え? そうなの?
「そうなんだけどねアーちゃん。だけど、流石に子供全員を連れて行ったら、噂に尾ひれがつきかねないからねー」
「あー、成程。貴族ってめんどくせーもんなぁ」
どうしよう、母さんとアーネストが何を言っているのか分からない。
「むー。分かってるんだけど、そんなの勝手に言わせておけば良いじゃないー」
「それで迷惑を被るのは、私達じゃなくて、ソカリス家当主のカレンちゃんとアニスちゃん達なんだよー?」
「うぐっ……」
成程、全ての国の頂点に立つ特別公爵家当主である母さんが、子供を全員連れて一つの貴族家を訪問する。
それが出来立ての新興貴族であるソカリス家で、インペリアルナイトマスターともなれば……色々と憶測を立てられるんだろうね。
何の企みも無い、ただの親交だとしても。
「貴族ってめんどくさいね」
「「「!?」」」
あれ、なんで三人共驚いた顔をしてこちらを見るんだろう。
「お前本当に蓮華か?」
「ふんっ!」
「ぐふっ! あ、ああ、この威力は本物だわ……」
「あははは! 何やってるんだよーアーくん」
「むしろやられた側なんだけどな……?」
母さんは苦笑しつつ、私とアーネストの肩に手を置いた。
「それじゃ、このまま行きましょうか。認識阻害の魔法はあえて掛けずに、大々的に知らせるように大通りを通って行くよー」
「「ええ!?」」
私とアーネストの驚きの声を無視して、母さんは『ポータル』の魔法を使うのだった。