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91話.リンスレットへのプレゼント②(ノルン視点)

読んで頂いてありがとうございます。

今年も宜しくお願い致します。

「もう、いい加減子ども扱いはやめてよね!」


 すでに手遅れな気もしたが、私の頭を撫でるリンスレットの手を払いのける。

 その行為に怒る事もなく、ただ優し気な表情で私を見つめるリンスレット。


「フ……子供はな、いくつになっても子供なのさ。例えお前がどれだけ歳を経ても、子供である事に変わりはないのさ」


 ぐうの根も出ない事を言う。

 でもそうじゃなくて……。


「いや、そう言う意味じゃないだろ」

「いえ、そう言う意味じゃないですよね」


 タカヒロとアスモデウスは分かってくれているようでフォローを入れてくれるが、当のリンスレットは絶対に分かっていない。


「ふむ?」


 凄く真面目な顔で首を傾げるリンスレットに溜息が出る。

 いつもは察しが良すぎて怖いくらいなのに、どうしてこういう場面では発揮されないのか。


「まぁ、良いわ。それで、蓮華から聞いた話でね。誕生日って、パーティーを開く事もあるんですって。だから、その……軽く食事を出来るように準備もしたんだけど……時間がもし取れるなら……」

「ノルンが私の為に?」

「そ、そうだけど……」

「そうか。なら当然参加させてもらおう」


 悩まずにそう言ってくれるリンスレットに、胸が弾む。

 けれど、リンスレットが忙しい身の上なのは、代理を少しの間しただけでも身に染みて分かっている。

 ただでさえ、リンスレット達は帰ってきたばかりで疲れているはずなのに。


「その、私から言っておいてあれだけど、時間は大丈夫なの?」

「そんな事は気にするな。今日から毎年、今日は国民の祝日だからな」

「あれ本気で言ってたの!?」

「そうだが?」

「……」


 絶句するとはこの事か。

 そんな事で国民を巻き込んだ事を決定するなんて……。


「ノルン、別に不思議な事じゃないよ? 私達の元居た世界でも、天皇誕生日は国民の祝日になってたからね」

「そうなの!?」

「そうだぜ。俺達の感覚だと、別に普通の事だな」


 初めて知ったんだけれど!?

 でもそうか、蓮華にアーネストが言うなら、そうなのだろう。


「というわけで、アスモは先に全国民へ通達、これからの時間は仕事は休むように伝えろ。どうしても休めない者達へは代休をやるなどして対処するようにな」

「了解。詳しい制定は後で伝達するようにしますね」

「なら俺は魔法陣を用意しておくか。ゼロ、やり方を見て覚えておけよ。これからはお前も出来るようになってもらうからな」

「分かった、兄さん」


 アスモデウスにタカヒロ、ゼロはこの場から離れて行った。

 まぁ案内なんてしなくても、リンスレットの力を追えばすぐ場所は分かるだろう。


「それじゃ、こっちよリンスレット」

「うむ」


 私が先導し、後にリンスレット、蓮華、アーネストが続く。


「蓮華、アーネスト。お前達がノルンに知恵を授けたのだろう? 長く生きてきたが、これほど嬉しいと感じた事は少ない、感謝する」

「ううん、それは違うよリンスレットさん。一番最初にノルンから提案を受けたんだ」

「そうだぜ。で、パーティーとかするぜって後から話しただけで、誕生日プレゼントについてはノルンの発想なんだぜ」

「ほう……」


 私の後ろでその話を続けないで欲しいのだけど、案内をする立場上後ろを向けない。

 さっさと着くに限ると判断した私は、歩く速度を上げる。


「おお、急に速くなるなノルン」

「これ歩くって速度じゃないよ!?」

「ほぼ走ってるよな!?」


 アー! アー! 聞こえない!

 廊下は走るなって普段なら怒られるけれど、今この場に怒る者が居ない。

 というかリンスレットが居るのに怒れる者なんて居るわけないんだけれど。


「ふぅ、ここよ!」

「ほう……」


 特段豪勢な部屋というわけではない、むしろ王を招くという意味では質素と言えるその部屋で。

 テーブルの上には、色々な料理が並んでいる。

 そして、そんな中で……一番端に、小さな幅に置いている料理、それが私の作った料理だ。


 本当は全て料理長に任せるつもりだった。

 けれど蓮華が、


「下手だって良いんだよ。ノルンが作った、その事を絶対に喜んでくれるから」


 そう言うから。

 昨日に作っておいた料理は、時間の止まる蓋をして置いている。

 私はすっとその場を移動し、蓋を開ける。

 まるで今料理が完成したかのように、湯気が立ち昇る。


「うん? どうしてその料理だけ場所が離れているんだ?」


 目敏く見つけたリンスレットが聞いてくる。

 とても緊張するけれど……プレゼントも受け取ってくれた。

 きっと、食べてくれる。

 勇気を出して、言おう。


「その……手料理を、作ってみたの。最初は本当に下手で、全然上手く作れなかったんだけど……今ではその、食べられる程度には作れてると思うんだけど……」

「……」


 うぅ、リンスレットからの反応が無い。

 怖くてリンスレットの方を見れない。

 数秒が数分に感じる時間、無言が続く。


「……っ……」

「リンスレットォ!?」


 いきなりリンスレットが後ろへ倒れた。

 蓮華とアーネストがギリギリ受け止めてくれたから良かったが、何があったの!?


「だ、大……だよ……ぎたん……?」

「あ、ああ……」

「ったく、……なんで……よな」


 なんだろう、小声で何か言っていたようで聞き取る事が出来なかった。

 それから、何事も無かったかのように立ち上がり、コホンと咳払いした。


「私が食べて良いんだな?」

「も、勿論よ。その為に作ったんだから」


 作ったのは、蓮華から教えてもらったお味噌汁だ。

 誰でも作れるのに、味は千差万別になるとか。

 それは自分で作ったものと、蓮華の作ったもので全然味が違う事で理解できた。

 美味しさ、という点だけでなく、本当に味が違うのだ。


 お椀と箸を手に取り、リンスレットが一口汁を吸う。

 目を瞑って上を向き、しばらく停止していた。


「ど、どうかしら?」

「……ああ、美味い。まさか娘からの手料理がこれほど美味しいとはな……毎日でも飲みたいくらいだ」

「「……」」


 その言葉に感激する。

 それは、リンスレットが美味しいと言ってくれた事もだが……これからも飲みたいと言ってくれたから。

 後、何故か震えている蓮華とアーネストは気にしなくて良いわよね?


 それから少し待っていると、アスモデウスにタカヒロ、ゼロもやってきた。


「そうだ。皆が居ない間に、私専属の錬金術師を雇用したんだけど……皆に紹介しても良いかしら?」

「ふむ、それは仕事の関係者としてか? それとも……」


 流石リンスレットは鋭い。


「勿論、仲間として」

「成程な。お前がそう決めた相手なら、見てやろう」

「ゼロも成功でしたし、意外と人を見る目はあるかもしれませんよリン」

「はは、そうだな」


 良かった、誰も否定的では無かった。

 私が勝手に決めた事だし、この中の誰か一人にでも不評だったら、取り消さざるを得ないものね。


「なら、私が連れてくるよ。今日の主役メンバーが離れるのもあれでしょ?」

「蓮華……そう、ならお言葉に甘えるわね」

「うん! ほら、アーネスト行くぞ!」

「え、俺も!?」

「当たり前だろ、ほら行くぞ!」

「うおっ!? 腕を引っ張るなよ! 行く、行くってばよ!」


 蓮華はアーネストの腕を引っ張りながら、この場を後にした。

 きっと、私達だけの時間を作る為に。


「経緯を説明しても良いかしら?」

「ああ。話してみろ」


 親友達が作ってくれた時間で、ナチュリアの事を家族に話す事にした。

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