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89話.リンスレットへのプレゼント①(ノルン視点)

 今日はリンスレットへ誕生日プレゼントを渡す日だ。

 いつもより早く目が覚めた、あまり眠れていない。


 横にはスースーと寝息を立てている蓮華が居る。

 結局この友人は、私の事を心配して泊ってくれたのだ。


「ったく……このお節介焼きめ……」

「んん……」


 軽く頬をつつくと、目覚めるかと思ったが、そのままコロンと寝返りをうつだけだった。


「……ありがとね、蓮華」


 そう言って、ベッドから立ち上がり着替えてから部屋を出る。

 いつもの日課を済ませる為だ。


「ふぅ……!」


 精神を集中させ、己の中にある魔力を循環させる。

 どれだけ強大な魔力を持っていても、扱えなければ宝の持ち腐れだ。

 毎日の鍛錬を怠るような事はしない。


 それが例え特別な日だとしても……というのは言い訳かもしれない。

 いつも通りにしていないと、落ち着かないのだ。


 蓮華とアーネストは、


『いやいや、あり得ないからね? あのノルン大好きリンスレットさんが、ノルンから貰った物を棚に飾りこそすれ、要らないとか……』

『だよなぁ。むしろ今日は赤飯だ! とか言いそうなのがありありと浮かぶぜ?』


 と言ってくれたけれど……私はそうは思わない。

 リンスレットは普段、私の事を放置している。

 いえ、それも正しくはないのだけど……今では理解しているのだけど、子供心に寂しかった記憶は消えない。

 アスモデウスやタカヒロが私の教育係としていつもどちらかが共に居てくれたけれど……リンスレットは、一度もそんな事は無かったからだ。


 私が使えなかった魔法を使えるようになり、リンスレットに報告に行った時も、


『そうか』


 の一言だった。

 明後日の方向を向いて、私の方を一度も見てくれなかったし。

 ……やめやめ、昔の事を思い出しても悲しくなるだけだわ。


 今日はリンスレット達が帰ってくる日なので、訓練を見る必要は無い。

 自領の資料はすでにまとめておいて、リンスレットにすぐ報告出来るようにしているし、抜けは無い。

 となれば、必然的に時間が空いてしまう。


「どうしようかしら」


 そう零した所で、


「ノルン様、おはようございますです!」

「ああ、ナチュリア。おはよう」


 元気よく挨拶をしてくるのは、錬金術師のナチュリアだった。

 今では私の専属として雇っている。

 素直で良い子だと思う。


「何故だか今日は体がすっごく軽いので、いくらでも作れそうです!」


 蓮華が回復魔法を掛けてくれたお陰だろう。

 それを伝えると、嬉しそうに笑った。


 ナチュリアには販売用のアクセサリーを作って貰うつもりなので、それを伝えてその場で別れる。

 私が部屋に戻ると、すでに蓮華も目が覚めているようだった。


「おはようノルン。いよいよだね!」

「おはよう蓮華」


 何故か嬉しそうな蓮華に首を傾げながら、紅茶を二人分用意して椅子に腰かける。


「わ、ありがと」


 ゆっくりと口をつける蓮華は、相変わらずの美人で、そのくせ表情が豊かでびっくりするくらい可愛い。

 今も美味しそうに紅茶を飲んで、笑顔でこちらを見てくる。

 男ならこれに落ちないのは難しいんじゃないかしら。


「どうしたの?」

「いえ、別に」


 じろじろと見過ぎたのか、蓮華が不思議そうに首を傾げて見てきたので、平静を装って返す。

 可愛いって得よね。


「おーい蓮華! ノルン! 飯持って来たぜ!」


 扉をバンと開けるアーネストに、私はこめかみを抑える。

 同時に、蓮華はアーネストの元へと飛び出した。


「女の子の部屋にいきなり入る奴があるかぁっ!」

「ぐはっ! す、すまねぇ。ノルンが居るもんな……つい癖で……」


 いえ、蓮華だけでもアウトなのだけど。

 花も恥じらう乙女なのを忘れているのかしらこの男は。

 トレイを落とさない程度に、器用に腹パンをかました蓮華に苦笑しつつ、


「まぁ、良いわ。持ってきてくれてありがとアーネスト」

「おう!」


 そう爽やかに笑うアーネストを見ると、悪態も付けなくなる。

 アスモデウスが惚れている男なのだけど……私にはどこが良いのか分からないわね。

 ま、好みも百人十色って言うものね。


「おお、うめぇ!」

「ホントだ、母さんのご飯もプロ級だと思ってたけど、これもまた美味しい……!」

「まぁ、プロだから」

「それもそっか!」


 なんて雑談をしながら、朝食も終える。

 まだ帰ってくる気配が無い為、私達は部屋でのんびりと時間を過ごしている。


「今10時くらいか。午後には帰ってくるのか?」

「さぁ、どうかしらね」

「時間は分からない感じなの?」

「ええ。遅くまで帰ってこない可能性もあるけれど……」


 ただ、今までの経験上、午後には帰ってくると思う。


「「「!!」」」


 そんな時、城の外に凄まじい魔力を感じた。

 間違いない、リンスレット達だ。


「ノルン!」

「ええ。出迎えに行きましょうか」

「俺達も行って良いのか?」

「アンタ達なら大丈夫よ。行くわよ」


 そうして急ぎ足で城の入口へと辿り着くと、いつものメンバーが勢揃いしていた。


「ふぅ、帰ってきたって感じがするな」

「すぐには寝れないからね?」

「分かってるっての」

「フ……だが、急ぐ必要は無い。私もノルンから……お。大丈夫だったかノルン?」


 私にすぐに気付いたリンスレットが、そう声を掛けてきた。

 アスモデウスやタカヒロ、ゼロの視線もこちらを向く。


「ええ。昨日蓮華とアーネストを呼んで、少し遊んでたわ」

「はは、そうか。良く来たな蓮華、アーネスト」

「お邪魔してます」

「ども」


 二人は軽く頭を下げる程度だが、少し緊張しているのが分かる。

 アンタ達が緊張すると、私まで緊張するでしょうが!

 ほら、アスモデウスやタカヒロがそれに気づいて不思議そうな顔をしてる!


「あの、えっと。帰ってきたばかりであれなんだけど……ちょっとだけ、時間良いかしら?」

「ふむ……何かあったのか?」


 そう真剣な表情で聞いてくるリンスレットに、表情が強張ってしまう。

 そんな私を見て勘違いしたのか、


「まさか賊が侵入してきたのか?」

「フフ、良い度胸ね。私達が居ない隙を狙うなんて……」

「姉さんを狙ったって事……? 命が要らないようですね」


 あー! タカヒロにアスモデウス、ゼロまでが勘違いして黒いオーラを放ってる!

 違う、そうじゃない!


「ち、違う! そうじゃなくって……!」

「ならどうしたんだ?」

「「「?」」」

「それは、その……」

「「ぶふっ……」」


 くっ! 蓮華にアーネスト、我慢しきれずに笑ってるわね!?

 ぐぅぅ……こんなに緊張するなんて思わなかった。

 これならまだ戦場に居る方が気楽よ!


「どうした、ノルン。私に言えない事ではないのだろう?」


 澄んだ瞳でこちらを見てくるリンスレットに、私も心を落ち着かせる事が出来た。


「その……。……っ! 今日は! リン、リンスレットの、誕生日、でしょ!? だからその、こ、これ! いつもお世話になってるお礼というか……その、誕生日プレゼント!」

「……」

「い、要らなければ、その……捨てても……」


 私が最後の方の言葉を小声になりながら言っていると、リンスレットがワナワナと震えている事に気付いた。


「……。……アスモ、今日を国民の祝日とする。タカヒロ、言霊伝達魔法の準備を頼む」

「オーケーよリン!」

「了解だリンスレット!」

「ちょっと待ちなさいよ!?」

「「「「?」」」」


 四人が不思議そうな顔をしてこちらを向く。

 まるで何で止めるの? と言わんばかりに。


「と、とりあえず受け取ってくれるのかどうかをハッキリしてよね!」

「おお、そうだったな。勿論貰うぞ。大切な娘からの初めての贈り物だ、受け取らないわけがないだろう」

「っ!」

「ほらね?」

「ほらな?」


 蓮華とアーネストが、小声で言ってくるのが聞こえたが、正直頭に入ってこなかった。

 リンスレットは今、大切な娘からの、と言ってくれた。

 それが、嬉しくて。


「ほう、トラの指輪か。……ふむ、似合うか?」

「おお! カッコイイじゃないかリンスレット!」

「本当ですねぇ。良く似合ってますよリン」

「ふむ、そうか。気に入ったぞノルン。ありがとう」


 そう言って、指輪を付けた手で私の頭を撫でるリンスレット。

 私の顔はきっと、ゆでたこみたいに真っ赤だろう。

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