表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

541/713

81話.オリンピック種目とルール決め

 妖精国から妖怪の国へと転移して戻って来た私達は、リオンさん達の居る城へと足を運んだ。

 流石に城内に『ワープ』をするわけにはいかないので、城の少し外からね。


 城の中に入って、アーネストの力を感じる場所へと向かっていると、少し先の部屋から声が聞こえてきた。


「よっしゃ! もう全部やろうぜっ!」

「何日消化すんのに掛かると思ってんだ!?」

「俺達は時間なんて気にしねぇからなっ!」

「観客が疲れるだろっ!」


 順番にリオンさん、アーネストの声だ。どうやら白熱した会議になっている模様。


「ただいまーって言うのもおかしいんだけど」

「おっ! 蓮華! 母さんにアリスも!」

「おお! 戻ったかよ!」


 アーネストとリオンさんが嬉しそうに破顔するので、こちらも少し照れる。

 母さんが前に出て、妖精国で決まった事をリオンさんに伝える。

 勿論皆居る場所なのだけど、特に隠してもいないので気にしていないんだろう。


 母さんの話を聞き終えた皆は、驚いて口がポカーンと開いている。


「マジでか、あのモルガンがな……意外っつぅか……やっぱ流石だなマーガリン」

「ま、友達だもの。それに、貴方の存在も参加を決めた理由にはなってると思うわよ」

「そりゃ嬉しいがよ。あいつ見た目は良いけど中身がアレだからな、素直に喜べねぇ……」


 リオンさんの言葉に母さんは苦笑している。

 そういえば魅了対策はどうするんだろう? アーネストですら無効化しきれないみたいだけど。


「モルガンが来るなら、あの力の対策もしねぇとだな。後、地上や魔界への説明には俺も行った方が良いよな?」

「そんなの当たり前でしょう。まだ参加すると決まったわけじゃないし。それから地上にはアーちゃんとレンちゃんのお陰で、魔道具とは違う、色んな機械があるの。その中には動画を撮ったりするものもあるし、普通に使えば思い出を残したりと良いものだけど……悪用だってできる。地上が参加する場合、そういう対策も必要になってくるわよ。人が多く集まれば、悪事を働く者は必ず出てくるわ」


 母さんはそう断言した。でもそうだね……お祭りで人が多く集まる場所では、元居た世界だってスリや盗撮、もっと酷いのだと人を襲う者だって居た。

 この世界には魔法や魔術がある分、その手口はもっと多くなるだろう。

 残念な事だけど、善人だけで構成された世界なんてない。

 あえて言うなら、妖精国がそうなのかな。


「頭が痛てぇ話だな」

「そんなもん簡単な事じゃねぇか。力で押さえつけりゃいい。悪りぃ事すりゃ死刑って公表しちまえば良いのさ」


 酒呑童子さんが恐ろしい事をサラッと口にする。


「ししし、そうだよね! 恐怖で怯えた奴はなんも出来なくなるもんだし!」


 伊吹童子さんもその言葉に同意する。ここらへんが人間の感性と違う所なんだろうか。


「えっと、できれば即死刑とか、それは勘弁してあげて欲しいんだけど……」

「「「なんで?」」」


 驚く事に、皆本当に素で疑問に思ったようだ。


「その、根っからの悪人ってそんな居ないものでね。気の迷いとか、何かしら理由があって……」

「おいおい、理由があれば悪事をして良いなんて事にはならねぇだろ?」


 酒呑童子さんの言葉に、ぐぅの根も出ない。

 それは、そうなんだけど……もちろん、被害にあった人からすればたまった事ではないんだから。

 私が言葉に詰まってると、アーネストが助け舟を出してくれた。


「あー、妖怪達ではそうかもしれねぇんだけどさ。地上では騎士団ってのがあって、悪い事した奴を捕まえる組織があんだよ。で、なんでそんな組織があるのかっつーと、簡単に言や更生の意味があんだよな」

「更生っつぅと……反省させて正しい道に戻すって事か?」

「そうそう。まぁ悪即斬も一種の真理だと俺も思うけどよ。中には、本当に中には、やるしかなくて悪い事やってた奴だって居るかもしれねぇ。その一握りの奴を助ける為の組織だって思えば、まだ理解できねぇかな?」

「一握りの……成程な」


 アーネストの言葉に何か感じ入るものがあったのか、酒呑童子さんは頷いた。

 ふとアーネストの方を見ると、親指を立てて笑った。

 今はその笑顔がありがたかった。


「つーわけで、悪い事した奴は見つけ次第しょっぴく方向で行こうぜ。いきなり殺すのは無しだ。まぁ場合によってはそれもやむなしって事で」


 と、話がまとまりかけた所で、母さんが言った。


「まぁ私とモルガンで結界張るつもりだから、悪さなんて出来ないけどね」

「「「……」」」


 今までの問答は何の意味があったんですかね!?


「ただ、体裁はあった方が良いだろうし、物を盗ったりする輩にまで対応するのは面倒だから、そっちは何か組合でも作って対策しなさいな」


 無理とは言わないんですね母さん。


「あ、ああ、分かったぜ。そっちも編成しねぇとな」


 リオンさんは頷き、妖怪の皆へと視線を移すと、皆揃って頷いた。

 ここに居る妖怪達は国の幹部らしいので、この後他の妖怪達にも話が行くのだろう。


「それでアーネスト、種目はどうなったんだ?」

「ああ、それなんだけどよ……」

「全部やろうぜアーネストッ!」

「だからさっきも言ったけど、それだと何日掛かると思ってんだよ!?」


 成程、部屋の外から聞こえてきた内容に繋がるわけか。


「んー……リオンさん。オリンピックに限らず、長くても3日くらいで終わるようにした方が良いよ。理由は色々あるけど、長くなればなるほど熱気は冷めちゃうし、観客達も疲れて応援に力が入らなくなっちゃうよ。それだと選手達も興ざめでしょ?」

「成程……それもそうか」

「俺も同じ事言ったはずなんだけどなぁ!?」


 アーネストががっくりとするのを見て笑いそうになるのをなんとか我慢する。


「初日は色んな競技の上位トーナメントまでのふるい落とし。2日目で準決勝前まで全体を進めて、3日目の最終日で、各競技の優勝者を決めるって流れの方が、日が経つ毎に盛り上がっていくでしょ?」

「確かになっ!」


 リオンさんをはじめ、皆うんうんと頷く。

 その場面を想像したのか、少し熱気が出てきた気がする。

 まぁ本来のオリンピックはもっと長い期間あるのだけどね。

 大体2週間くらい期間あったはずだし。

 ただ、最初から多くをするのではなく、後からこんな競技を追加したらどうだろうって話し合うようになれば良いと思ってる。

 そうすれば、地上、魔界、妖怪国、妖精国で話し合いの場が出来る。


 国王達の交流も深める事が出来るし、物流だって広がるかもしれない。

 なので、最初からたくさんの事をしようとしなくて良いと思っている。


 だから、アーネストが白板に書いてある文字を、要らなそうなのを私の判断で消していく。


「あっ!? 蓮華! 頑張って思い出しながら全部書いたのに!」

「最初から全部案を出してどうするんだ。それに、最初からたくさんする必要ないだろ」

「え?」


 アーネストが素っ頓狂な声を出し、母さんはニヤッと笑った。


「皆初めてなんだから、簡単なもので良いんだ。複雑にしたって良い事ないし、まず単純なもので開催して、次に繋げるのが大事だろ。もっと言えば、最初は闘技大会みたいなものだけでも良いんだから。後は感覚が掴めて来たら、これを追加したら良いとか、それぞれの王様達で話し合えば良いじゃないか」

「おお……確かに」

「はは! 流石はマーガリンの娘だな!」


 リオンさんは凄く良い笑顔で褒めてくれるけれど、多分元の世界の人間なら誰でも考えつくだろうなぁ。

 なのであまり自慢する気にはなれない。


「というわけで、最初は競技の数を少なく開催した方が……うん、良いと思うんだけど、どうかなリオンさん」

「うん?」


 全員が呆けるというか、頭に疑問符を浮かべた表情でこちらを見てきた。

 いやその、途中で自分が主導を握ってる感じがしたので、返したのだけれど。


「ククッ……面白い嬢ちゃんだな。蓮華っつったか? あのアーネストすらお前を怒らすなって忠告するくらいヤバイ奴なんだ。俺達に否はねぇよ?」

「……」


 私は黙ってアーネストの方を見る。


「…ッ…ッ……!?」


 ブンブンと顔を横に振りながら後ずさるアーネスト。

 ふふ、お前はまた私のある事ない事を妖怪の皆さんに吹き込んだな?


「そこへなおれアーネスト、斬り捨ててくれるわ!」

「わ、わざとじゃねぇんだって!」

「知るかぁっ!」


 ソウルを手に出現させ、アーネストに斬りかかる。


「おわぁっ!? おま、いつもながら容赦がねぇぞ!?」

「大丈夫だ、問題ない。今日は母さんも居るから仮に死んでも生き返れるぞ!」

「んな無茶苦茶な!?」


 割と広い部屋のお陰で、アーネストに避ける空間があるのが憎らしい。


「ぶはははっ! マーガリン、面白い奴らを子供にしたなぁ」

「でしょー。私の最愛の子達なんだからー」

「あはは! 蓮華さんは割と本気でやってるのが面白いよねー」

「いや止めねぇのかよ」

「「いつもの事だから」」

「マジかよ……俺達妖怪よりおっかねぇな」


 なんて言われているのに気付かないまま、私はアーネストに攻撃を続けていた。


「落ち着いたアーちゃん、レンちゃん」

「ごめんなさい」

「なんで俺まで……」


 しばらくして、母さんによって正座させられた私とアーネストを見て、アリス姉さんは笑い転げていた。


「ここは自宅じゃないんだから、ちゃんと最低限の礼節は守ろうね?」

「「はい……」」

「あははは……!」


 うう、笑い続けているアリス姉さんが恨めしい。


「うし、そろそろ話を戻そうぜマーガリン。アーネストに蓮華がいねぇと進まねぇからよ」

「分かったわ」


 そう言って私達に掛けていた拘束魔法を解いてくれる母さん。


「酷い目にあった……」

「俺めっちゃ被害者じゃね?」

「元はと言えばお前の……」

「アーちゃん、レンちゃん」

「「はい」」


 再度怒られる私達を見て、妖怪の皆も我慢が出来なくなったのか笑いだした。

 恥ずかしかったけれど、終始和やかな雰囲気でオリンピックの競技内容を決める会議は進んでいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ