53.大精霊・ヴィーナス
もはや、ピクニック気分で祠を進んでいた。
なんせ、魔物は逃げるし、罠も母さんが全て潰していく。
ミレニアなんて時々欠伸してるよ。
しかも見た目は遺跡内みたいなのに、空気が山頂にいるみたいに綺麗なものだから。
そして難なく、最奥に辿り着く。
「母さん、ここ?」
「うん、そうだよレンちゃん。私達はここで待ってるから、行っておいで」
と母さんが言うので、一人で奥に進む。
台座には綺麗なオーブが見える。
アーネストが取り換えたオーブは、ちゃんと機能しているみたいだ。
でも、一体どこに大精霊は居るんだろう。
辺りを見回すけれど、見当たらない。
一応端から端まで歩いてみた。
だけど一向に見当たらない。
しょうがないから、母さんとミレニアの居る場所まで戻ったら、怪訝な顔をされた。
え、なんで?
「なぁ蓮華や、お主一体何をしておるのじゃ?」
何をって、大精霊を探してるんだけど。
あれ、なんだか母さんを見たら、私を直視しないで笑いを堪えてるような。
「っ……!もうダメ、可愛い……!レンちゃんが歩いて、その後ろをぴょこぴょこ歩いてて、もう二人とも可愛すぎ!」
へ?私の後ろ?
振り向く。
やっぱり何も居ない。
「……。蓮華、お主がわざとやっていない事は分かった。分かったから、少し下を見てあげろ」
なんてミレニアが言ってくる。
下?下なんて見てどうす……。
……。
居たぁぁぁぁぁっ!?
「な、ちょ!えぇ!?ご、ごめんね!?本当に気付いてなかったんだ!」
謝る。
いやだって、私より小さいとか予想もしてなかったんだよ!
母さんがフルメタルとか言うから、デカいのを想像してたんだよ!
「ダイジョーブー。レンゲト、オイカケッコ、タノシカッター」
なんて言ってくる、小さいお人形さん。
「えっと……大精霊・ヴイーナスで合ってる、かな?」
もはや違うと言われても信じてしまうんだけど、一応聞いてみる。
「ソウダヨー。ヴィーッテヨンデー」
合ってたか、むしろ違ってほしかったとは言えない。
「ヴィー、私はレンゲ=フォン=ユグドラシル。好きなように呼んで良いよ」
「ワカッター、レンゲ、ワタシトトモダチー!」
と言って抱きついてくるヴィー。
なにこれ、超可愛い。
「うぐぅっ!レンちゃんがお人形さんを抱いて……!」
「マーガリン、お主大丈夫か……?」
なんか母さんが言ってるけど、ミレニアが居るから任せる。
だってヴィーが超可愛い!
「ヴィー、変形ってできるの?」
そう、母さんが言ってたので、気になっていたのだ。
「デキルヨー。レンゲ、ミタイノー?」
首を傾げて聞いてくるヴィー。
くっ、なんて可愛い生物なんだ。
抱きしめたいのをなんとか我慢する。
「う、うん。どんなのに成れるのかな?」
努めて冷静に答える。
「ミテミテー」
ガシャン!ガシャン!
と、色々な物に変形するヴィー。
ちょ、車にも成れるの!?
なんか二人乗りくらいの小さな飛行機にもなったよ!?
「ヴィー、乗れたり、する?」
ちょっとワクワクしすぎてて、声が震えてる気がした。
「ノッテー、レンゲー!」
その言葉に、速攻で乗ったのは言うまでもない。
「ジャー、トブネー、レンゲー!」
そう言ったかと思うと、小さな飛行機は飛びあがる。
うぉー!空、じゃないけど、この広間の上空を飛んでる!飛んでるよ!
「凄い!凄いよヴィー!」
もはや嬉しくて仕方が無かった。
「レンゲガ、ウレシイナラ、ワタシモ、ウレシイー」
なんて言ってくれる。
もうお持ち帰りしたい。
それから、しばらくの間くるくる同じ場所を飛んでいた。
「レンちゃーん、そろそろ降りてきてー!」
母さんが呼ぶのが聞こえる。
しまった、嬉しすぎて時間を忘れてた。
「ヴィー、ありがとう。降りて良いよ」
「ハーイ」
そう言って、すぐ降りてくれるヴィー。
そして、すぐに元の人形に戻る。
ぐっ、可愛い。
変形できるだけでも凄いのに、見た目がお人形さんとか、私の心を掴みすぎなんですけど。
「蓮華、お主……」
ミレニアが見てくるが、仕方ないじゃないか。
変形するロボットとか、好きなんです。
それに、これだけ可愛い人形なら、母さんだって好きそうなのに。
「ヴィーナス、これから貴女は私のライバルね!」
「マケナイヨー、マーガリンー!」
あれ?なんで母さんとヴィーが張り合ってるの?
「蓮華……」
ミレニアがまた見てくる。
いやだって。
予想できないよこんな展開。
「え、えっと、それでヴィー、契約してくれるかな?」
「モチロンー。ヨロシクネー、レンゲー」
と言って抱きついてくる。
くぅ、可愛すぎる!
「うぅ、レンちゃんにあんなに気兼ねなく抱きつけるなんて、羨ましいよぅ」
「いや、お主も大概抱きついておったぞ……」
「くぅっ、レンちゃんの可愛さにヴィーナスが加わると、マリアージュすぎて私が耐え切れる自信が無いよミレニア!」
「いやお主、何を真面目に阿呆な事を言うておるんじゃ?」
もはやこの場に、まともな人がミレニアしか居ない気がする。
でも、これで契約は終わった。
後は、もう家でのんびり待ってるだけだし。
「ねぇ母さん、学園って15歳でも入れない?」
気になっていたので聞いてみる。
だって、私が16歳になって入ると、アーネストは18だし、最後の年しか一緒に通えない。
「入れるよ、レンちゃんならね」
そう言ってくれた。
なら、15歳になるまではうちに居て、15歳になったら、学園に入ろうかな。
そんな事を考えながら。
「そっか、とりあえず話は家でする事にして、帰ろっか母さん、ミレニア」
「家出するのレンちゃん!?ヴィーナスが可愛いからって、そんなっ……!」
おい。
母さん、後半をスルーしてるんじゃないよ。
ミレニアが、こいつ何言ってるんだって目で見てるよ。
気付け母さん。
「母さん、今かなりアホになってるけど、大丈夫?」
と冷たい目で見て言ったら。
「レンちゃんがヴィーナスにばっかり構うからぁ」
なんて口を尖らせて言う母さん。
いや、母さん……。
「蓮華、マーガリンはお主が絡むと、ここまで残念な頭になるのか?」
なんてミレニアが聞いてくるので。
「普段はここまでじゃないんだけど、なんでだろうね……」
と言う事しかできない私だった。




