78話.種目を考える
蓮華達と別れた俺は、リオンさん達と一緒にオリンピックの種目について話していた。
元の世界であった競技の数は30を超えてたはずだし、種目に至っては400を超えてたと記憶してる。
流石にまるまる同じにはしなくて良いし、魔法や魔術、妖術なんてものもあるこの世界独自の競技を増やして良いと思っている。
「俺はボクシングってのが面白そうだと思うぜ?」
「ええ、ただ殴り合うだけの何が面白いの酒呑ー。あーしはテニスっていうのが面白そうだし!」
「お前ら落ち着け。競技の内容によっては個人戦だけじゃなく、チーム戦もあるんだなアーネスト」
「ああ、そうだぜ。そこは国ごとに分ける事にすると良いんじゃないかな? それぞれの国で代表選手を選んで、それでチームを組むとかさ」
「成程」
俺は元の世界であった競技を白板に書き込んでいく。
翻訳の魔法があるから日本語で書いても大丈夫なのが助かる。
この世界の言語は勿論あるんだけど、俺は最初から覚える事を放棄した。
便利な力があるんだから、それを使えば良いと思うんだ。
「なら、俺達の国のみで開催する場合、チーム分けはどうする?」
「リオンのチームと俺のチーム、伊吹のチームに後は妖怪の大御所をリーダーに据えたら良いだろ」
「成程、そうするか」
「あーしも異議なしだし!」
この広い会議場所には、リオンさんに酒呑童子さん、伊吹童子さんにぬらりひょんさんといった、主要妖怪達が集まっている。
元の世界でも聞いた事のある妖怪の名ばかりで驚くし、出会えて話まで出来る事に感動してしまう。
「どうしたアーネスト?」
「っと、悪い。なんでもないぜ」
「「「?」」」
つい見入ってしまって、皆にきょとんとされてしまった。
俺からしたら、空想上の存在と実際に会えて、話まで出来ているわけで、ちょっとこの感動をどう表現すれば良いのか分からない。
くそう、蓮華や明が居ればこの気持ちを共有できるのに!
昨日蓮華はアリスと一緒にすぐに寝てしまったから、話が出来なかったんだよな。
街を見て周った時は別の事に気を取られてて、そんな事考える暇なかったし。
「にしても、アーネストっつったか。お前、かなり出来るな?」
「へ?」
突然、ニヤッと笑いながら、酒呑童子さんが声を掛けてきた。
腕を組んでそう言う姿は、中々に貫禄がある。
「あー、まぁ割と強いと思うぜ?」
「ククッ! 鬼の俺を前にしてそう言える奴は中々いねぇ。よっしゃ! ちょっくら付き合えよ!」
「おい酒呑!」
「まぁ好きにさせろよリオン(お前に従う妖怪の中で、俺や伊吹の事は知ってるからだろうが、アーネストに懐疑的な視線を向けている奴が複数居る。そいつらに一番効果的なのは、魅せる事さ)」
「!!……酒呑……分かった」
酒呑童子さんが小声でリオンさんに何か言ったようだが、こちらには聞こえてこなかった。
会議っつーのは、ヴィクトリアス学園でもそうだったけど、尻と腰が痛くなるんだよな。
こう、ずっと座っているのも疲れるし。
そんな意味でも、体を動かせるのは丁度良い休憩になると思った。
「ま、良いぜ。場所はどうすんだ?」
「リオン、良い場所あっか?」
「おう、あるぜ。ついてきな。……皆も一緒に来ると良い。マーガリンの息子がどれほどの者か、気になっている者達も居るだろう?」
「「「「!!」」」」
そういう事か。そういや、俺は力を見せてねぇもんな。
ここの妖怪達からすれば、若造が偉い人達に交じって意見してるように見えるわけだ。
そりゃ腹に据えかねる奴も居るってこったな。
それを酒呑童子さんは見抜いたわけだな。
そして案内された場所は、庭園だった。
「ここなら広いし、地面は堅いから安心して戦えるぜ」
軽く地面を蹴ってみると、コンクリートのようにコッコッと小気味いい音がした。
成程、頑丈そうだ。
俺はアイテムポーチからネセルを取り出し、構えを取る。
「「「「!!」」」」
瞬間、俺の気迫が伝わったのか、周りの妖怪達が息を飲む姿が見えた。
「こいつぁ……マジか、マーガリンの奴、とんでもねぇ奴を息子にしたな……」
「ククッ……ハハハハッ! こいつは良い! お前、とんでもねぇ力持ってんじゃねぇかっ!」
楽しそうに酒呑童子は笑って、巨大な剣を空間から取り出した。
「この剣の名は暗夜剣【宵闇】っつってな。だたらが作った最高傑作の一振りだ。楽しい勝負になりそうだなぁ、アーネスト!」
「へへっ……母さんに転がされてたけど、酒呑童子さんもかなり出来そうだな」
「さんなんて要らねぇぜ。俺は実力のある奴は好きだからよ、呼び捨てにしなアーネスト」
「分かったぜ酒呑童子。そんじゃ、行くぜっ!」
大剣を構える酒呑童子へ、俺は地面を駆け空へと飛翔した後、空を更に蹴る。
「『鳳凰天空牙』!」
「空かっ! おらぁっ!」
酒呑童子は避ける事なく、俺の空中からの突撃に大剣を重ね、はじき返してきた。
「マジかよっ!」
空へとはじき返される俺に、酒呑童子は跳躍して接近してきた。
「喰らいやがれぇっ!」
「そうは、させねぇっ!」
右手のネセルで大剣の軌道を変え、左手のネセルで酒呑童子へと斬りかかる。
「フンッ! 『爆肉鋼体』」
ガキィン! と、まるで金属を斬ったような音がする。
ネセルから振動が伝わり、腕をジンジンと痺れる感覚が襲う。
「か、かってぇっ!?」
「おら! 俺の武器は大剣だけじゃねぇぞ!」
鋼鉄化した肉体の拳が、俺へと迫ってくる。
「はぁぁぁぁっ!」
「オラララララッ!!」
二刀のネセルで乱れ切りをするも、その全てに乱打で対応する酒呑童子。
ヤバイ、超楽しいぞ!
「へへっ、やるな酒呑童子!」
「お前こそなっ! アーネストッ!」
俺のスピードに、酒呑童子はついてくる。
なら、これでもついてこれるかっ!
「もっとスピードを上げるぜっ! 『オーバーブースト』」
「何っ!?」
俺の攻撃の速度が更に上がり、威力もまた跳ね上がる。
そして、これが奥の手。
「こいつぁ蓮華でも防げねぇぞっ! 『オーバーロード』!!」
「ど、どこいきやがっ……ぐはぁぁぁっ!?」
一瞬で死角へと潜り込み、その鋼鉄の肉体へと拳を繰り出す。
何倍にも強化された力に、更に『オーラ』で強化した拳は、酒呑童子のそれを上回った。
空から地面へと叩き落とされた酒呑童子は、地面に大きなクレーターを作りながら倒れていた。
ゆっくりと地面へと着地する。
リオンさんをはじめ、多くの妖怪達が驚きの表情でこちらを見ていた。
「いつつ……ったく、とんでもねぇなお前。まさかここまでとは思わなかったぜ」
「大丈夫か?」
「おう、ありがとうよ」
酒呑童子に手を差し出すと、力強く手を握り返してくれた。
そのまま引っ張り立たせると、酒呑童子は大笑いした。
「はははははっ! 想像以上だぜ。なぁ、お前と一緒にいたあの嬢ちゃんも、まさか強いのか?」
「蓮華の事か? ああ、強いぜ? 最近の戦績は六割ってとこ」
「マジかよ。あの嬢ちゃんが四割もアーネストに勝てるのか」
「逆だよ逆。蓮華が六割勝ってんの。制限つきなら俺のが強いけどさ、制限解除されたらもうどうしようもねぇよ。あいつだけは本気で怒らせない方が良いぜ? 冗談抜きで国が亡ぶからさ」
「「「「「……」」」」」」
その場に居た全員が口を閉ざし、場が静まってしまった。
空気を変える為に、気楽に声を掛ける。
「そんじゃ、そろそろ会議に戻ろうぜ。良い気分転換になったぜ、ありがとな酒呑童子」
そう言って笑いかけると、酒呑童子もニカッと笑って、「おう」と言った。
気さくな良い妖怪だな。




