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71話.妖怪⑧

 ダイダラボッチ、その姿は巨大な人に見える。

 ふんどし一丁だけど、その布面積は凄く大きいと思う。だって全長が山のように高いからね。

 そんな事を考えてしまうくらいには、その巨大さに圧倒された。

 サイクロプスとかも十分巨人と言えたけど、それとは比較にならない大きさだ。


「リ”、リ”オ”ン”ザマ”……!」


 鼓膜が破れるかというくらい大きな声で、ダイダラボッチはリオンさんへと声を出す。


「オ”、オ”デ”、ゴン”ナ”ゴド、ジダグネ”ェ”ダ……!」

「「「「「!!」」」」」


 こんな事したくない。つまり、ダイダラボッチは体を操られている?


「ダイダラボッチ……おめぇが虫も殺せねぇ優しい奴なのは、古い付き合いの俺がよーく知ってるぜ! 後で詳しい話を聞かせてもらう! だから今はこれだけ教えてくれ! お前を操ってるのは剣か!?」


 リオンさんが、ダイダラボッチに負けない声で叫ぶ。その言葉は、ダイダラボッチの心へと響いたのだろう。

 その大きな瞳から、まるで川のように涙が零れた。


「リ”オ”ン”ザマ”……! オ”、オ”デヲ”ヴゴガジデル”ノ、ゲ、ゲン”ジャ”、ナ”イ”! ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ”!」

「皆避けてっ!」


 母さんの言葉と同時に、ダイダラボッチから離れる。

 凄まじい大きさの刀を縦横無尽に振るうダイダラボッチ。

 あれが次元刀? ちょっと大きすぎない?


「あの刀、持ち主に応じてサイズが変わるみたいね。元はもっと小さいはずよ」


 母さんがすぐ横で教えてくれた。成程、そういう事か。


「母さん、ダイダラボッチは次元刀に操られてるわけじゃないんだよね?」

「恐らくね。そんな事が出来るのは魔剣の類になってしまうし。でも、他の魔力が流れていないのよね」


 母さんがうーんと唸る。確かに、操術であれば、術者の魔力の糸がどこかから繋がっているはずなのだ。

 それが無いという事は、誰かに操られているわけじゃないという事になる。

 でも、ダイダラボッチのあの姿を見て、操られていないとは……待てよ?


「ねぇ母さん、妖怪の中に、相手の中に入って……例えば寄生するようなタイプは居ない!?」

「寄生……成程。ちょっと待ってね、ダイダラボッチの中を視てみるわ」


 母さんの目が紫色に光る。

 ダイダラボッチを見ると、刀を振るう毎に空間に亀裂が生じている。


「これ、放っておいたらマズイね……」

「つっても、あれ受けたら体ごと持ってかれちまうぜ」


 アーネストもお手上げだと、こちらへと飛んできた。

 今はリオンさんが、開いた亀裂を閉じながらダイダラボッチの攻撃をいなしている。

 その身のこなしから、リオンさんが凄い実力者だという事が分かる。


「見つけたわ。……これは……心臓に寄生しているわ。厄介ね、下手に寄生虫に攻撃したら、ダイダラボッチを殺してしまいかねない。だからと言って、頑丈なダイダラボッチに生半可な攻撃は効かないし……」

「マーガリン! 見つけたのか!?」

「え、ええ。だけど……」


 リオンさんに、母さんが寄生虫の居る場所を説明する。

 苦虫を嚙み潰したような表情で、リオンさんは拳を握りしめる。


「糞がっ……! 誰だ、優しいダイダラボッチにこんな事をした奴ぁっ……!」


 今も、理性を失っているダイダラボッチは、凄まじい勢いで次元刀を振るって亀裂を生む。

 その亀裂から、向こうの世界が見えていた。


「不味いわね。これ以上開いたら向こうの世界から入ってくる者が居るかもしれないわ。……アーちゃん、レンちゃん。私は亀裂を塞ぐ。ダイダラボッチを、任せても良いかしら?」

「「!!」」


 初めて、母さんから託された。

 母ではなく、仲間として……そう言われた気がした。

 私とアーネストは顔を見合わせ、頷く。


「任せて、母さん!」

「任せろ、母さん!」


 私はソウルを、アーネストはネセルを掲げ、ダイダラボッチの方へと飛ぶ。


「あら、アリスは行かないの?」

「んー? 亀裂を塞ぐのって、結構魔力使うでしょ? その間隙も出来るし、まだ近くに誰か居るかもしれないからね。私が警戒しておいてあげる」

「そう、ありがとうアリス」

「にひっ、卵焼き一つ追加ね♪」


 後ろでそんな会話をしている二人に笑いながら、リオンさんの元へと到着する。


「リオンさんっ!」

「加勢するぜっ!」

「おお、お前達かっ! 助かるぜ!」


 真ん中にリオンさん、左にアーネスト、右に私という配置で、ダイダラボッチと対峙する。

 私達を敵と見なしたのか、凄まじい速度で次元刀を振るってくる。

 受けるわけにはいかない為、避ける。

 避けた場所には大きな亀裂が生じるが、それを母さんが閉じて行く。


「チィッ……これじゃジリ貧だぜっ……! ダイダラボッチ、ぜってぇ助けてやるからな……!」


 リオンさんの瞳は真剣だ。本当にダイダラボッチを仲間だと思っているんだと思う。

 だからこそ、力に成りたいと思う。


「リオンさん、寄生虫は心臓に寄生してる。いくらダイダラボッチが大きくても、心臓はそこまで大きくないはず。だから、私が魔力で心臓をコーティングする」

「こ、こーてぃんぐ?」


 リオンさんがクエッションマークを頭に浮かべている。そうか、この言い方は伝わらないか。


「えっと、魔力で膜を張って、傷つかないように保護する感じです」

「おお! って、そんな事可能なのか!? 体ん中だぞ!?」

「私ならできます。ユグドラシルの力を使える私なら」


 そう。防御、結界、おおよそ守るという事に対して最強の力を持つユグドラシル。

 私はその力を扱える。無理な事なんて、ない!


「……そうか、懐かしいぜ。横にユグドラシルが居てくれるみてぇな、安心感があらぁ。……頼む、蓮華!」

「うんっ! アーネスト、私は保護に集中する! その間、守ってくれ!」

「了解だっ! 任せな蓮華!」


 アーネストはネセルを構え、私の前へと出る。


「リオンさん、恐らく攻撃力なら貴方が一番強いはずです! 攻撃は任せます! 心臓へと特大の一撃を!」

「任されたぜっ! コォォォォォッ……!」


 凄まじい『オーラ』……いや、妖力だろうか? それがリオンさんの全身へと集まり、拳へと集まっていく。

 私はそれを確認してから、ダイダラボッチの心臓へと意識を向ける。

 ドクン、ドクンと音が聞こえる。ここだ。ここを、私の魔力で包む。『エターナル・イージス』という技だ。

 すぐ近くに寄生している寄生虫は素通りし、心臓を強く守るように。


「今です、リオンさんっ!」

「おおっ! 行くぜぇダイダラボッチッ!」

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ”!」


 その巨体が繰り出す攻撃を避けながら、リオンさんは一直線にダイダラボッチへと飛んで行く。

 衝撃波が生まれてこちらへと飛んでくるが、アーネストが切り払ってくれる為問題ない。


「スピリットゥ! フィンガァァァッ!」

「「ぶぶっ!」」


 私とアーネストは、リオンさんが叫ぶ言葉に吹き出すのを我慢できなかった。


「おい蓮華っ!?」


 その後すぐに私の方を向くアーネストに苦笑する。


「大丈夫、力抜けかけたけど、ちゃんと守ってる」

「そか、安心したぜ……」


 何故吹き出したのかというと、元の世界で読んでいた漫画のある技名にとても良く似ていたから。

 リオンさんの拳は、ダイダラボッチの心臓部へと直撃した。


「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ”!? ア……?」


 不思議そうな顔をするダイダラボッチ。

 恐らく、相当な衝撃を想像していたんだろう。

 だけど、安心してほしい。私はダイダラボッチの全身を守っている。

 心臓部は特に念入りに保護しているけどね。


 リオンさんの本気の一撃は、恐らく凄まじい衝撃波が生まれるだろう。

 それがダイダラボッチの体中を駆け巡るはず。

 だけど、私の魔力の保護によって、中を傷つけるには至らない。


 行き場を失った衝撃波がどこに辿り着くか、それは唯一何も保護されていない生命体、寄生虫だ。

 私は母さんの方を見る。

 すると、片目をウインクさせながら、親指を立てた。


「よっし! リオンさんっ! 上手くいったよ!」

「おおっ! ダイダラボッチ、無事か!?」

「リ、リオンサマ……オデ、オデ……アリガトウ……!」

「へへ、良いって事よっ! マーガリン、アリスティア、それに蓮華、アーネスト! ありがとなっ! お前達のお陰で、ダイダラボッチを……友を救えたっ! 感謝する!」


 気持ちの良い笑顔でそう言うリオンさんに、こちらも笑顔で返す。

 後はダイダラボッチさんから、詳しい話を聞かないとね。

 次元刀も本物を一本見る事が出来た。これで同じ物をサーチ出来るし、捜査を進められそうだ。

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