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二人の自分 私と俺の夢世界~最強の女神様の化身になった私と、最高の魔法使いの魔術回路を埋め込まれた俺は、家族に愛されながら異世界生活を謳歌します~  作者: ソラ・ルナ
第二章 大精霊編

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52.アリス

「……ん!……ちゃん!」


 私を呼ぶ声が聞こえる気がする。


「おじちゃん!大丈夫!?」


 はっきりと意識が覚醒する。

 ここ、は……?


「おじちゃん、目が覚めたって言うのも変なんだけど、意識ははっきりしたかな?」


 目の前の少女が言う。


「うん、ありがとう。大丈夫だよ。それよりも、ここは?」


 なんというか、世界に私と目の前の少女しか存在していない、異質な場所に思えた。


「うーん、多分おじちゃんの精神が、マーガリンの中の私にリンクしてる感じかな」


 んん?というか、先程から気になっていたんだけど。


「君には、私が男に見えてるの?」


 と聞いてみた。

 少女は不思議そうな顔をする。


「おじちゃんが女だったら、私、眼のお医者さんに掛からないと駄目かも」


 と言ってくる。

 もしかして、と自分の手を見る。


「うぉぉ!?この懐かしい手は!?」


 すっかりと蓮華としての自分を見慣れていたので、懐かしい元の世界での自分の手を見て、言ってしまった。


「おじちゃん、大丈夫?」


 目の前の少女に心配されてしまった。


「あ、えっと、ごめんね。私、いや俺は、この世界だと女性として生きていたから」


 そう言って後悔した。

 そんな事信じてくれるわけがないのに。


「そっか、ユーちゃんの化身なんだね。うん、それならおじちゃんが驚いてたのも納得かも」


 なんて言って、多分信じてくれた気がする。

 というか、ユーちゃん?


「あ、自己紹介するね。私はアリスっていうの、よろしくねおじちゃん!」


 なんて可愛らしい笑顔で言ってくれた。

 ちょっと待って、アリスって確か!


「その顔は、私の事聞いたんだね」


 と言ってくる。


「アリスちゃん、母さんを助けてくれて、ありがとう。それと、助けられなくて、ごめんよ……」


 言いたい事を、真っ先に伝える。

 そうしたら。


「母さんって、マーガリンの事!?」


 え、そっちに驚くの?


「う、うん。まぁなんだかんだあって、母さんと呼ぶ事になったんだけど……」


「おじちゃん!!」


 うわっ!アリスちゃんが凄い近くまで詰め寄ってきて驚いた。


「そのなんだかんだの部分を詳しく!詳しく教えて!」


 なんて言ってくるので、俺がこの世界にきて、私として生きてきた事を最初から話した。

 興味深そうに、ふんふんと聞いていたアリスちゃんは、ふいに。


「そっか、良かったぁ。おじちゃん、ううん……蓮華さん、ありがとう」


 と、凄く可愛らしい笑顔で突然言ってくれた。

 でも、そうじゃない。

 礼を言うのは、こっちなんだ。


「ううん、礼を言うのはこっちだよ。アリスちゃんのおかげで、母さんは死ななくてすんだ。あんな素敵な人を死なせなくてすんで、本当に感謝してるよ」


 その言葉に。


「そっか、蓮華さんはそういう人なんだね。うん、マーガリンが気に入るわけ、分かる」


 なんて言ってきた。

 そして。


「蓮華さん、私はね、フェンリルの魂がマーガリンの中に入った時に、私の意思で『グレイズコフィン』を私に掛けた。私が死なないと、フェンリルが外に出れないように結界を張って」


 『グレイズコフィン』は、掛けた対象のマナが切れるまで続く。つまり、あの日、あの時に……アリスちゃんは死んだ事になる。

 あれ、ちょっと待って。

 アリスちゃんは死んだのなら、どうして今話せているんだ!?


「あ、私って命が数個あるの。だから、そのうちの一つが死んじゃったって事ね。でも、死んだ事には違いないから、フェンリルは外に出てしまったの。マナも切れた私は、マーガリンを無敵にも出来なくなって。あのままだと、マーガリンは死んでいたの」


 言葉が出なかった。

 あまりの、衝撃に。


「だから、マーガリンを守ってくれて、ありがとう蓮華さん。私はもうフェンリルの攻撃を防ぐ必要はないけど、マーガリンの中から出る事もできないし、こうやって一人、寝る事しかできないの。だから、久しぶりに話せて嬉しいんだ」


 色々な考えが浮かんでは消える。

 フェンリルっていうのは、厄災の獣の事だよね。

 で、どうしてアリスちゃんは母さんの中から出れないんだろう?


「あ、私がマーガリンの中から出ないのはね、私がマーガリンの外に出たら、マーガリンが死んじゃうから」


 その言葉に。


「なっ!?どうして!?」


 と聞かずにはいられなかった。


「マーガリンはね、普通に生きられる時間を超えて生きてる。フェンリルを外に出してしまった時に、マーガリンは倒れたでしょう?」


 確かに、あの時の母さんは苦しそうだった。

 でも、それは厄災の獣が外に出た時の衝動だと思っていた。


「あれはね、体に一気に、今までの時間という名の負荷が掛かったから、気を失ったの。あのまま、私の『グレイズコフィン』を掛け直さなければ、時に押しつぶされて、体は枯れて死んでいたよ」


 そん、な。

 それじゃぁ……母さんを助けるには、ここにアリスちゃんを閉じ込めたままにするしかなくて、アリスちゃんを外に出してあげるには、母さんが死ぬしかない、という事なのか……。


「蓮華さん、悲しまないで。ここは精神の世界。蓮華さんの心が、痛いほど伝わってくるの。ありがとう、見ず知らずの私の為に、悲しんでくれて」


 そう、アリスちゃんが言うが。


「当たり前じゃないか!アリスちゃんは母さんの命の恩人なんだ!それに、それに!まだ、こんなに小さな女の子が、一人閉じ込められてるなんて……!」


 そう、言ってしまって後悔する。

 アリスちゃんを、傷つけたかもしれない。

 でも、アリスちゃんは笑っていた。

 悲しい笑顔じゃない、心からの、笑顔に見えた。


「うん、蓮華さんのような方が、マーガリンの傍に居てくれるなら、私は嬉しいよ。だから、無茶なお願いをしても良い?」


 その言葉に。


「俺にできる事なら、なんだってやるよ」


 そう、真剣に答えた。


「ありがとう。それじゃ、マーガリンの肉体の老化を防ぐ手立てを見つけてくれないかな?そうしたら、私も出られるから。マーガリンは無敵じゃなくなっちゃうけど、そんなのマーガリンは気にしないだろうからね」


 その答えに。


「約束する。俺は必ず、アリスちゃんを外に出してみせる。外の世界で、一緒に生きよう」


 そう、笑顔で言う。


「うん、約束だよ蓮華さん。今日、話せて嬉しかった。また、会おうね」


 そうアリスちゃんが言った途端、急速に意識が遠のいていく。

 約束したよ、アリスちゃん。

 俺は必ず、母さんとアリスちゃんを真の意味で、救ってみせる。


「……ん!……ちゃん!」


 夢から覚める、とは違う気がする。


「レンちゃん!大丈夫!?」


 眼を開けると、母さんとミレニアが心配そうに私を見つめている事に気付く。

 体を起こして、答える。


「うん、大丈夫だよ母さん。アリスちゃんとね、会ってきたよ」


 その言葉に驚くミレニア。

 そっか、ミレニアもやっぱり知ってるんだな。


「……アリス、私の事、怒ってた?」


 なんて聞いてくる母さんに。


「ううん、全然。私の今までの事を話したら、凄く楽しそうに聞いてくれて、母さんの無事も喜んでたよ。それに、私にずっとありがとうって言ってくれた」


 その言葉に、涙を流す母さん。


「そう、そう……」


 ミレニアが母さんに胸を貸す。


「母さん、そのままで聞いて。私、アリスちゃんと約束したんだ。母さんの老化を止める方法を探し出して、アリスちゃんを母さんの中から出すって」


 その言葉に、衝撃を受けたのか、母さんがくいついてくる。


「それは、本当に?アリスが、出るって、言ってくれたの!?」


 あれ、そっちに驚くの?


「え?うん、約束したよ?」


 と素で言ったら。


「レンちゃん……!本当にありがとう!!」


 ど、どういう事なんだろう?


「あのね、レンちゃん。アリスには話す事が出来なくて、伝えられていないんだけど……最初に言った、仙人のお話、覚えてる?」


 あ、そういえば最初に言ってたね。


「仙人ってね、人の細胞劣化を一切させないようにできるの。だからね、私『グレイズコフィン』が解けたからって、老化で死なないよ?そりゃ、痛いけどね。気を失うくらいだよ」


 なんて言ってくる。

 そこで私は、猛烈に恥ずかしくなって座り込む。

 いやだって!


「約束する。俺は必ず、アリスちゃんを外に出してみせる。外の世界で、一緒に生きよう」


 なんてかっこつけて言っちゃったよ!

 どうするんだこの言葉、できるなら少し前に戻ってやりなおしたいぃぃぃ!!


「お、おぃマーガリン。蓮華がうずくまって震えておるが、なんぞあったのか?」


「さ、さぁ?」


 なんて二人の会話が聞こえるけど、今は放っておいて欲しい。

 でも、その事実はアリスちゃんに伝えてあげたい。

 私はすっごく恥ずかしいけど、背に腹は変えられない。


「母さん、私に魔法を掛けたよね?それで、もう一度アリスちゃんと会えるようにできる?」


 と聞いたら。


「ダメ。あの魔法は、精神に凄いダメージを与えるの。一日に何度も使える魔法じゃない。いくらアリスの為でも、レンちゃんを壊すような真似、絶対にできないよ」


 そう言ってくれる。

 私としては、そんな事を気にせずに、アリスちゃんを外に出してあげたい。

 だから続ける。


「大丈夫だよ母さん。それに、早くアリスちゃんを出してあげたいんだ」


 と言ったら、ミレニアから注意を受けた。


「蓮華、その気持ちがマーガリンにないと思うか?恐らくお主以上に、そう思っておる。じゃが、それ以上に、お主の事を大事に思っておるのじゃ。察してやれ」


 と言われては、これ以上言えなくなってしまった。

 それはそうだ。

 母さんの方が、よほどアリスちゃんを外に出してあげたいはずだ。

 それが、可能になったのだから。


「ごめん、母さん。母さんの気持ちも考えずに……」


 私は謝る事にした。

 でも、母さんは。


「ううん、レンちゃんのおかげで、またアリスと共に居れる。それが凄く嬉しいの。だから、謝らないで。これまで諦めていたの。それが、少し待てば会える。本当に、ありがとうレンちゃん……!」


 なんて抱きしめてくる母さん。

 うん、私なんかでも、母さんの力になれたなら嬉しい。

 祠の中だというのに、空気は澄んでいて、明るいので、私はここが祠の中だと忘れていた。

 だから、その声に気が付くのが遅れてしまった。


「……げろ!逃げろそこに居る人達!大岩が転がっているぞ!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 という音と共に、大岩が転がってくる。

 うわぁ、漫画あるあるだーとか考えた私は、アホだと思う。

 でも、この二人が一緒なんだもの。


「なんじゃ、妾達の話の邪魔をするでないわ」


 ドゴン!!


 一閃、ミレニアが剣を振るったかと思ったら、大岩が粉々になった。

 ミレニア、剣使えるんだ。

 ってそうじゃなくて。

 走って追いかけてきた男性が、ここに辿り着く。


「あ、あれ?確かに大岩がここに……って、マーガリン様!?」


 と叫んでいる。

 知り合いだろうか?

 良く見たら、インペリアルナイトの服装をしているような。


「あら、貴方は確か、テンコーガのインペリアルナイト、ジューダスだったわね」


「ハッ!私などを覚えて頂き、光栄でございます!」


 と言っているこの人は、王覧試合で居なかった一人か。

 ここで何をしているんだろうか。


「見回りかしら?」


「ハッ!マナが正常になったと聞いてはいますが、一応こうして見回っておこうと思いまして!」


 その言葉に、慎重なんだなぁと感心したが。


「そう、私達が後は見ておくから、貴方は先に帰って良いわ。何かあれば、私が伝えに行くから」


 母さんが言う。


「い、いえ!マーガリン様とそのお連れの方々にご迷惑をおかけするわけには……!」


 と食い下がってくる。

 こういうタイプは、はっきり言わないと効果が無いんだよなぁ。

 ミレニアはめんどくさそうにしている。

 母さんが続ける。


「帰れ、と言っているのよ。もう一度は、言わないわよ」


 と普段見ない表情で言った。

 その言葉に。


「か、畏まりました!申し訳ありません!『リターン』!」


 と言って消えた。

 ちょっとかわいそうだった気がしなくもない。


「ち、違うのよレンちゃん!?あれは本当の私じゃないからね!?信じてね!!」


 でも、慌てて言ってくる母さんがおかしくて、つい笑ってしまった。

 ミレニアもつられて笑う。


「うぅー、笑うなんて酷いよーレンちゃんー!」


 なんて言ってくる母さんが可愛かった。

 今気付いたけど、私達全然進んでないな。



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