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65話.妖怪③

「それで蓮華、外に出たのは良いけど、どうすんだ?」

「まずは母さんの位置を探るよ。魔力波を地上全域に飛ばして母さんの魔力反応を見つける」

「簡単に難しそうな事を言うな。まぁ、お前なら出来るんだろうけど」


 勿論最初は出来なかった。ただ『オーラ』の応用で考えれば、そう難しい事じゃない。

 一人一人、魔力だって違うんだから。空気中に漂い使用するマナは同じでも、それが個人と交わる事で全くの別物に変わる為だ。

 逆に言えば、私を見つける事は難しいんだけどね。私は地上と魔界において、どこにでも居るように感じるはずだから。


 目を(つむ)って手を(かざ)し、魔法陣を展開する。

 母さんの魔力反応を見つける為、地上全域に私の魔力波を飛ばす。

 人には風が一瞬通りすぎたようにしか感じないはずだ。


「……駄目だ、見つからない。母さんは地上には居ないのか……?」

「なら魔界はどうだ?」

「いや、母さんは魔界には行ってないと思う」


 怪訝な顔をしてアーネストが聞いてくる。


「なんで言いきれるんだ?」

「魔界に行ってるなら、リンスレットさんが連絡をくれるだろうし」

「ああ、成程」


 納得したのか、頷くアーネストに問いかける。


「なぁアーネスト。二手に分かれて探す事できるか?」


 この広い地上を、一緒に探すのは効率が悪いと思ったから聞いてみると、アーネストは凄く良い笑顔で断った。


「駄目だ」

「なん……」

「お前は一人だと周りが見えなくなる時があっからだよ」

「うぐぅ」


 それはお前だろと言いたいけれど、少し自覚があるので言い返せない。


「それに、多分今回は一緒のが良いはずだ」

「なんで?」


 今度は言えた。


「母さんが手に負えないような事態なら、それに遭遇したら時間稼ぎをする役目と、兄貴に知らせる役目が必要だろ?」

「成程、私とアリス姉さんが抑えている間に、アーネストが知らせに戻る必要があるもんな」

「逆だ馬鹿野郎。残るのは俺とアリスで、伝えに戻るのは蓮華だ」

「なにをぅ!?」

「なんだよ!?」

「あのぅ、どちらにしろ残る事になってる私の意見は……」

「「ぶはっ」」


 指先をちょんちょんと当てながら、もじもじしてるアリス姉さんを見て吹き出す私達。

 そういえば、自然に私達はどちらもアリス姉さんと共に残る事を考えていた。


「いやだって、アリス姉さんは絶対残るって言うでしょ?」

「いやだって、アリスは絶対残るって言うだろ?」

「そうなんだけどー! 二人して息ぴったりでなんか悔しいよぅ!」


 私達は笑いながら、役割を決める。

 とりあえず行動は一緒に。そして手に負えない敵が出た時、残るのはアーネストとアリス姉さんとなった。

 私はユグドラシル領に残った兄さんへの連絡だ。

 勿論魔力通信を使うなり、大精霊の皆に頼んで伝える事も考えている。

 だけどそれが使えない場合、足を使うしかない。


「よし、まずは次元の亀裂ってのを探してみるか蓮華」

「手掛かりはそれだしな、異議なし」

「うーん、疑問なんだけどね。その亀裂、もしかしたらここにもあるかもしれないよ?」

「「え」」


 アリス姉さんの言葉に、私達は驚く。

 ユグドラシル領は、母さんや兄さんの結界に守られている。

 その為魔物も居ないくらいだ。だから、その視点はすっぽり抜けていた。


「だって、結界っていうのは外からには強いけど、最初から中にあるものや、中から起こった事には干渉しないからね? 亀裂が途中から出来るものなら、ここも例外じゃないよ?」

「「!!」」


 成程……それなら、まずはユグドラシル領内を調べるのが良さそうだ。

 ユグドラシル領内であれば、天上界も気にしなくて良いし。


「それなら、まずはユグドラシル領内をくまなく探してみよう!」

「おお! そうするか!」

「ラジャー!」


 そうして私達は空へと浮かび、少し上から見て周る事にした。


「うーん、特に異常は感じないなぁ……」

「だな。そもそも亀裂ってどんな感じなのかも分かんねぇし……」


 アーネストと共に愚痴を零していると、アリス姉さんが声を上げた。


「蓮華さん! アーくん! あそこっ!」

「「!!」」


 アリス姉さんが指さす所を見ると、まるで何かに斬り裂かれたかのように斜めにヒビが割れていた。

 空から降り、その場へと近づく。

 遠くからだと気付かなかったが、近づくと結構な大きさである事が分かる。

 それに……


「なんだ、これ。亀裂の向こうに、大地がある……?」

「ああ。しかもユグドラシル領ってわけじゃ、なさそうだな。風景が違うぜ」


 そう、ここは森林に覆われていて、亀裂を除けて見るなら、森が見えるはず。

 だと言うのに、この亀裂から覗いた風景は、まるで砂漠のようなのだ。


「妖魔界、だね」

「「!!」」


 アリス姉さんの言葉に、納得する。これが母さんが言っていた、裏側の世界か。


「んー……もしかして、マーガリンは妖魔界に入ったんじゃないかな?」

「「!?」」

「妖魔界ってマナが無いから、スマホの通信は届かないし、マーガリンがよく使う魔道通信も届かないはずなんだよね」


 成程、その可能性は考えなかった。

 母さんならありうる。だけど、戻ってこないのはどうして?


「おい、なんか黒い影に覆われたぞ蓮華、アリス」

「「!!」」


 先程は砂漠が見えていたはずなのに、今では真っ黒な……いや、真っ黒かな? なんか、腹筋のように見えるんだけど……


「フヒィ……ようやく地上に出たか。これから人間喰い放題なんだよなぁ? 堪らねぇ……」

「おいおい、そうがっつくなよ。俺だって久しぶりに食べれるから気分は上がるけどよ。あの柔らかい肉が最高なんだよなぁ」


 なんだ、こいつら。

 まるで人間と魔物が合体したかのような姿。

 頭は白い、皿のようなものを乗せていて、口はカラスの(くちばし)のよう。

 全身緑色で、手には槍を持っている。


「おっ! ヒヒッ! 早速人間を見つけたぜ、ついてるな!」

「本当だっ! 柔らかそうな女が二人、うち一人はガキか、こいつは幸運だな!」

「男はお前にやるよっ! ガキは半分こでどうだ?」

「しょうがねぇ、次の獲物の時は交代だかんな?」

「おおよ」


 舌なめずり、というんだろうか。口から長い舌をぺろりとさせてこちらを見る。

 長らく感じた事の無かった不快感。


「チェストー!」

「「ごばぁっ!?」」


 を感じていたら、アリス姉さんが二人、二匹? を殴り飛ばした。

 こちら側に入ってきていたのに、そのまま向こう側へと舞い戻る。


「こいつら妖怪だよ蓮華さん、アーくん」

「「こいつらが!?」」


 成程、だから変な恰好していたのか。

 頭に皿を乗せてたから、河童(かっぱ)だろうか?


「いきなり攻撃しかけて良かったのかアリス?」

「あいつら私達を食おうとしてたでしょ? えいとーぼうえい、だよっ!」


 それを言うなら正当防衛だし、この世界にそんな言葉あったかな。


「ま、それもそうだな。妖怪ってのが皆あーなら、そりゃ簡単に行き来できたらやばいな」

「んー、それは違うよ? 妖怪にも人間とか他の生物と同じで、良い奴もいれば悪い奴も居るって事だよー。で、良い奴は基本的に他の世界に迷惑かけに行こうとはしないから、こっちに来ようとする奴は基本的に悪い奴って判断で良いってだけだね!」


 アリス姉さんの説明に、成程と相槌をうつ。

 なら、躊躇する必要は無いって事だね。


 とりあえず私達は三人共亀裂の中へと入った。

 少し遠くに、先程の奴らが転がっている。


「アリス姉さん、手加減が上手くなったよね」


 だって体が破裂していない。


「えへへ、そうでしょっ!」


 嬉しそうに笑顔でそう言うアリス姉さんにほっこりしつつ、転がっている奴らの元へ移動し、水魔法をぶつける。


「「ぐぎゃっ!?」」


 目が覚めたこいつらを『バインド』で動けなくして、普段抑えている魔力を解放し、威圧感を上げる。


「な、なんなんだよこいつの妖力っ!? なんでたかが人間が、こんなっ……」

「中級妖怪、いや上級妖怪にすら匹敵する妖力、だとっ!?」


 妖力ってなんだ。まぁ今はそんな事はどうでも良い。


「お前達がこっちの世界への道を作ったのか?」


 その質問に、顔を見合わせてから口を閉じる。

 答える気は無いって事か。

 なら、しょうがないね。

 私は今、母さんの事で気がたっているんだ。


「話したくない? なら、仕方ないね。話したくなるまで、苦痛を与えてあげるね。安心して、絶対に殺さないから。これでも回復魔法は大の得意でね。仮に死んでもすぐに生き返らせてあげるし、気も狂わないように精神も治してあげるから。話したくなったら言ってね?」

「「ヒッ!?」」

「蓮華、悪い顔してるぞ……」


 アーネストも若干引いているけど、悪党に容赦する気はないよ。

 さて、どれだけ耐えられるかなぁ。

蓮華が若干怖い事言っていますが、それだけマーガリンの事を心配して焦っていると思って頂ければ。

いつも読んで頂いてありがとうございます。

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