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64話.母さんを探しに

「離せアーネストッ! 私は母さんを探しに行くんだっ!」

「だから落ち着けって! まだ何かあったとは限らねぇだろっ!? ぐぎぎ、俺だけじゃ抑えらんねぇっ……アリス頼む!」

「了解っ! 蓮華さん、落ち着けぇっ!」

「おぐぅっ!?」

「ぐえっ!?」


 アーネストに後ろから羽交い絞めで止められていた所に、アリス姉さんが正面からタックルしてきた。

 そのままアーネストごと後ろへと倒れて転がる。


「いたた……今だっ!」

「しまった、アリス!」

「蓮華さんー!」


 アーネストとアリス姉さんの拘束が緩んだ所で、私は駆けだす。


「今だ、ではありませんよ蓮華」

「むぎゅ」


 駆けだした先に兄さんが居て、簡単に止められてしまった。


「マーガリンが心配なのは分かりますが、天上界の件を忘れたわけではないでしょう? 何故マーガリンが出たのか思い出しなさい」

「っ……」


 兄さんに正論で諭され、ぐうの音も出ない。

 けど、だけど……一度だって、言った事を守らなかった事はない母さんが、帰ってこなかったんだ。

 私と母さんには魔道通信のパスが繋がっている。何かあれば、すぐに連絡してくれるはずなんだ。

 それが無かった。つまり、母さんの身に何か起こっている可能性が高いんだ!


「私の事なんて、良いんだ兄さん! 母さんが、母さんの身に何かが起こってるかもしれないんだよっ!?」

「そうだとして、あのマーガリンに何か出来る程の者を相手に、蓮華は一人行くつもりなのですか?」

「っ!」


 兄さんの言葉は正論だ。母さんは強い、それはもう本当に。

 そんな母さんに勝てる相手に、私が勝てるかと言われれば……勝算は低いと答えるしかない。

 でも、それでも……!


「ふぅ、落ち着きなさいと言っているんです。マーガリンの心配をしているのは、蓮華だけではありません。アーネストやアリスも心配しているでしょう。ならば、共に行きなさい」

「!!」


 アーネストとアリス姉さんを見ると、笑顔で頷いてくれた。

 そうだ、私は何を一人で焦っていたのか。

 私には頼りになる家族が居るというのに。 


「入れ違いになってもいけませんからね、私は残りますが……心配は要りませんよ」

「兄さん……ありがとう!」

「ロキだって心配してるくせに、自分を入れないとか素直じゃないんだから」

「五月蠅いですよアリス。私が心配していないのは事実です。それはこの私が認めているからですよ、マーガリンをね。仮にマーガリンを害する事ができる程の者が居るのなら……その時は私も出ましょう」


 真剣な表情でそう言う兄さん。そっか、兄さんは信頼しているんだ、母さんを。

 だから、落ち着いている。私は母さんの強さを知っていながら、それでもやっぱり心配してしまう。

 失う事を恐れる。弱いな、私は。


「おっと、勘違いしてはいけませんよ蓮華」

「え?」

「相手が強くても心配をするのは正しい感情です。蓮華、その感情は尊いものなのです。心配されて嬉しくない者は居ないでしょう。それはマーガリンも、当然私もです。私が突然居なくなった時、蓮華は心配してくれますか?」

「当たり前じゃないかっ! 母さんも兄さんも、私の大切な家族なんだからっ!」


 兄さんは、凄く優しい微笑みをしながら、私の頭を撫でた。


「ありがとう。私はこの強さがありますからね、誰からも心配なんてされた事はありません。ですが、アーネストや蓮華はそんな私でも心配してくれる。それがとても嬉しいのですよ」

「ふふ、蓮華さん。マーガリンやロキ、それに私はね、ほんっとうに最初はなんだけど……敵対してたんだ」

「「えっ!?」」


 これには驚いた。兄さんは、一応理由を知っている。

 だけど、母さんとアリス姉さんも……?


「何度も戦ったよ。その強さを身を持って知ってる。だから、心配よりも……アイツが簡単にやられるわけないって気持ちの方が強くなるの。勿論、心配じゃないって言えば嘘になるよ? だけど、マーガリンが負けるなんて想像できないんだよねー」

「フ……そうですね」


 普段いがみ合っている兄さんとアリス姉さんが、頷き合う。

 凄くレアな所を見て、心が安らぐのを感じる。

 そっか、二人は本当に母さんの事を信じているんだ。


「兄さん、それでも私は探しに行きたい。行ってくるね」

「ええ。気の済むようになさい。アリス、頼みましたよ」

「あいあいさー! まっかせて! 蓮華さんとアーくんには指一本触れさせないよ!」

「ったく、しょうがねぇなぁ蓮華は。ま、俺も付いてんだ、大船に乗った気で居ろよな」


 元気よく返事をするアリス姉さんに、やれやれといった感じで、でも頼りになる笑顔を見せるアーネスト。

 私は恵まれている。こんなに素敵な家族に出会えたんだから。


「行ってきます、兄さん」

「行ってくるぜ兄貴!」

「行ってくるねーロキ!」

「ええ、行ってらっしゃい。吉報を待っていますよ」


 柔らかい笑顔でそう言う兄さんに背を向け、私達は家を出る。

 母さん、無事でいて……!





「行きましたか。さて……久しぶりに呼ぶとしますか」


 ロキが指先を合わせ、パチンと音を鳴らす。

 床の上に黒い魔法陣が現れ、そこから跪いた魔神達が姿を現した。


「「「お呼びでしょうか、ロキ様」」」

「ああ。マーガリンが姿を消した。アーネストと蓮華、それにアリスティアが探しに向かったが、天上界の者に見つかると面倒だ。対処しておけ」

「「「ハハッ!」」」


 そうして、魔神達は姿を消す。

 残されたロキは、微笑んだ。


「フ……マーガリン、おおよその事は見当がついていますよ。妖魔界には貴女の友人が居ますからね。親しい者からの押しには弱い貴女の事だ、断れなかったのだろうが……アーネストに蓮華を心配させた事を反省するが良い、ククッ……!」


 アーネストと蓮華に怒られているマーガリンを想像し、笑いが堪えられないロキであった。

いつも読んで頂いてありがとうございます。

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