62話.妖怪①
少し短いです。
アーネストの提案でユーミルの泉へと休息に行った私達は、暗くなるまでゆっくりと時間を過ごした。
そして翌日である今日、朝食が済んだところで、母さんから衝撃の話を聞いた。
「どうやら次元の境界にヒビが入ってるみたいで、時々妖怪がこっちの世界に侵入してるみたいでね。原因究明と処置しないとだから、少し出ないとなの」
「「妖怪?」」
「あ、あー。そういえば、説明してなかったねー。アーちゃんとレンちゃんが初めてこの世界に来た時の事、覚えてる?」
そりゃ勿論、今でも鮮明に覚えている。
確かあの時、母さんが説明してくれたのは……
『うぅんとね、簡単にこの世界の地図を説明するけれど。まず私達人間や亜人、龍人等、様々な種族が多く過ごす大陸が地上と呼ばれてる。で、その大陸から海を挟んだ向こうに存在する大陸が魔界、だね』
これが一つ。続いて、地上の下には冥界が、空の上には天上界があるという事。
そしてその後に天上界の更に上には神界があるのだと知った。
それを伝えると、母さんは満足げに頷いた。
「そうだね。それは表向きにも知られている世界。そしてこれから話す世界は、一般的には知られていない世界。この世界の陰の世界、妖魔界と陰魔界が存在するの」
「「!!」」
私とアーネストは驚愕するが、アリス姉さんや兄さんは平然としている。
まぁ、そりゃそうか。皆が知らないわけないもんね。
「陰魔界は、冥界に隣接する閉ざされた世界。コキュートスと呼ばれる川の果てにあるのだけど、罪を犯した者達の牢獄の世界。こちらは冥界の王が管理しているし、私達は関知しないから今回は放っておくね。問題は妖魔界」
いつになく真剣な表情の母さん。気を引き締めながら、耳を傾ける。
「こちらは、地上と魔界に事実上隣接した、裏側の世界なの。表面上は見えないけれど、次元を挟んで同じ場所に存在する世界。例えるなら鏡の世界とでも言うのかしら。この地上と魔界と同じ大地が、そこには存在するの」
「そこに住む人というか、生物が……妖怪?」
「ピンポン、正解だよレンちゃん。そしてその妖怪が、地上に時々姿を現しているみたいでね。住民を襲っているようなの。騎士団で対処しているけれど、すでに死者も出ていると聞いているわ」
「「!!」」
妖怪っていうと、私達の元居た世界では魔物とも言える。
人間に祀られなくなった、落ちぶれた神や不思議現象とも呼ばれる。物の怪とか、よく言われてた気がする。
人間に祀り上げられている超越的存在が神様とすれば、人間に祀り上げられていない超越的存在が妖怪だ。
まぁ、この世界では神様は目に見える存在なんだけど。うちの家族もそうだから。
「なんらかの異常が発生して、この世界と妖魔界の境界線に亀裂が入って、出入り出来るようになってしまっているようなの。本当はアーちゃんとレンちゃんに対処を頼もうかと思ってたんだけど、時期が悪いからね。今回は私に任せて」
可愛くウインクをする母さん。私がゼウスに目をつけられていなければ……。
「だから、ちょっと解決してくるね。日没までには帰るからねー」
そう微笑んで、母さんは家から出て行った。
「兄さん、母さんなら大丈夫だよね?」
「心配は要りませんよ。マーガリンは強い、それは蓮華も良く分かっているでしょう?」
「……うん、そうだね兄さん」
兄さんが微笑むのを見て、少し落ち着きを取り戻す。
だけど、先程の話を聞いて、何故か心がざわつく。
アーネストやアリス姉さんにも、心配しすぎと励まされたけれど……。
そしてその日、母さんは帰ってこなかった。
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