59話.アーネストVSユグドラシル
ノルンとの約束の日まで後六日。
夜はベッドに寝転がりながら本を読んだりゲームしたりして過ごす私達だけど、朝と昼は違う。
今はアーネストの部屋で向かい合って座禅を組み、空想間でのバトルをしている。
いわゆる頭の中での戦いという奴だ。
これは実際に体を動かすわけじゃないので怪我をしなくて済むだけじゃなく、割と訓練になる。
「くっ! やっぱり速いなアーネストッ……!」
私の周りを影分身を残しながら駆けるアーネストにそう零す。
「俺の動きを見切れねぇなら、これは避けられねぇぜっ!」
「後ろっ!」
「何っ!?」
ガキン、とアーネストの空想ネセルを防ぐ音がする。
それも勿論イメージだけれど。
「いくら速くても声を出せば流石に分かるぞアーネスト! そりゃっ!」
「うぉっ!?」
防いだ刃を、そのまま振り下ろしながら体を回転させ、流れるように斬りつける。
堪らず後ろへ飛ぶアーネストへと狙いを定める。
「逃がすかアーネストッ! 『地斬疾空牙』!」
真空の衝撃波が刃と成ってアーネストへと飛ぶ。
しかし、アーネストはそのままの態勢で双剣を振るった。
「相殺しろっ! 『二刀疾空・連装牙』ァッ!」
アーネストの得意技だ。地を這う刃は空を駆ける牙に飲み込まれ、衝撃がこちらへと飛んでくる。
「威力はそっちのが上かっ……!なら、ガンモードへ変形っ! 喰らえアーネスト! 『ダブルアームクイックドロウ』」
瞬時にソウルを二丁拳銃へと変形させ、凄まじい速さで銃弾を連射する。
「チィッ!」
衝撃波を貫通し、アーネストの元へと跳弾する。
それをすんでの所で避けたアーネストの元へと、『ワープ』で瞬間移動する。
「何っ!?」
「もらったぞ! アーネスト!」
「させっかよっ!」
ソウルを横なぎするも、アーネストの姿がすでにそこにない。
今の一瞬で場所を移動したんだ。アーネストは『ワープ』を使えないので、空間移動じゃない。
つまり、あの瞬間で足を使って移動したという事。
それも私の目にも映らない速度で……そんな事が可能なのは……
「へへ、『オーバーロード』だぜ。こっからが本番だ蓮華、防いでみろよなっ!」
「!!」
アーネストの使う『オーバーブースト』は、全ステータスを約三倍も引き上げる。
これは、各魔術の身体強化術とも掛け合わせが可能で、それだけでも六倍のステータスになる。
更に『オーバーブースト』事態の重ね掛けも可能であり、そのステータスは三倍×二倍×三倍の十八倍、ちょっと何言ってるのか分からないくらいの倍率で強化される。
ただし、『オーバーブースト』の重ね掛けは魔術回路に凄まじい負担を掛ける為僅かな時間しか行使できない欠点がある。
その欠点を補う最高のアーネストオリジナル魔術、それが『オーバーロード』だ。
これは合成魔術で、魔術回路に負担を掛けずに元々掛けてある効果を十倍引き上げる。
つまり、すでに十八倍上がっているステータスを、更に十倍、おおよそ百八十倍も引き上げる事が可能なのだ。
うん、反則にも程があると思う。
「隙だらけだぞ蓮華っ!」
「なっ!? がっ……!」
目にも映らない速さで瞬時に私の後ろへと移動し、ネセルを振るう。
あまりにも速く、ソウルで受ける事も出来ずに吹き飛ばされてしまう。
そのままゴロゴロと床を転がり、止まった所へとアーネストが追撃を仕掛けてくる。
「逃がさねぇ! 蓮華ぇっ!」
「このぉっ!」
私はソウルを振るうが、アーネストの動きが速すぎて捕える事ができない。
「これで、俺の勝ちだっ!」
「っ!!」
咄嗟に目を瞑る。けれど、いつまで経っても剣は振り下ろされない。
すぅっと目を開けると……それは何度も体験した、自分の中から窓の外を見ているようなこの感覚。
「ゆ、ユグドラシル!?」
「ふふ、そうです。久しぶりですねアーネスト。面白そうな訓練をしているので、ちょっと出てきてしまいました」
ユグドラシルは、ネセルを指先二つで挟んで防いでいる。
そんなカッコイイ事私もしてみたい。
「それにしても、凄まじい力ですね。ここまで身体能力強化に特化した人は神々でもそう居ませんよ」
「へへ、苦労したからな。魔法や魔術がすげぇ蓮華に負けねぇ為には、俺はこっちを強化するしかねぇって思ったんだ」
ユグドラシルに称賛され、アーネストは照れながらそう言う。
「ええ、貴方の判断は正しい。いつもは蓮華に訓練をつけているのですが、この空間なら私がアーネストを鍛えてあげられますし、蓮華は私を通して動きを習えるでしょう。力をつける為に、協力してあげますね」
「「!!」」
神界最強のユグドラシル。その強さは折り紙付きだ。
アーネストは喉をゴクリとならし、頭を下げる。
「ふふ、そう畏まらなくて良いですよ。ちなみに、『オーバーブースト』や『オーバーロード』に似た力は私も持っています。咄嗟で蓮華は思いつかなかったようですが、ちゃんと貴女も覚えていますからね? 『エターナル』」
瞬間、ユグドラシルの身体が光に包まれる。
今は私の体だというのに、私の身体とは思えないような力を感じる。
「ま、マジかよ。『オーバーブースト』と『オーバーロード』の効果とほぼ同じ……!?」
アーネストの言葉に、ユグドラシルは頭を振る。
「いいえ、単純なステータス強化値で言えばアーネストの方が上でしょう。ただ、こちらには防御面が付加されているんです。試しに攻撃してごらんなさい?」
「わ、分かった。行くぜっ! おらぁぁぁっ!」
アーネストは全力でネセルを振るった。けれどその刃は、まるでバリアに守られているかのようにユグドラシルへと届かない。
「なっ!? 障壁、じゃねぇ!? なんだこれ、結界ってやつか!?」
「ふふ、似たような物ですね。アーネストの使う二つの術は、あくまでステータスの増強。けれど『エターナル』は違います。あらゆる効果を上昇させるのです。障壁は結界へと昇華し、その範囲を広げます。また、あらゆる攻撃に対する耐性を上昇させるのです。私が鉄壁と呼ばれる理由、少しは感じて頂けましたか?」
ユグドラシルの言葉に、アーネストの額から汗が零れる。
つまり、ユグドラシルは最堅の防御力を誇るから……自分の防御力を上回る攻撃以外はそもそも避けなくて良いって事で。
「勝ち目がねぇ、って事か」
「それを伝えたいわけではなくてですね。要は、遠慮は要らないという事ですよ。私は今回あえて避けずに攻撃を受けながら、アーネストの動きを矯正していきます。良い点はそのまま伸ばし、悪癖がついてる所は私がつついてあげます」
つ、つつくの?
いやそれはどうでも良いんだけども。
「了解だぜ。そんじゃ、お願いしますっ!」
「はい、どこからでもどうぞ」
構えるアーネストに対し、ユグドラシルは自然体だ。
アーネストはすでにある程度の神々より強いと母さんや兄さんに評価を貰ってる。
そのアーネストをして、ユグドラシルには全く歯がたたない。
本当に上には上が居る。最強は遠いね、私も頑張らないと。
いつも読んで頂いてありがとうございます。