51.ヴィーナスの元への道中
食事も終わり、さぁ行こうと思ったら
何故かミレニアもついてきた。
うん、構わないんだけどね。
それで、王都・テンコーガへ行こうとしたら。
「祠までポータル繋ぐねぇ」
なんて母さんが言って、祠の前に一瞬で着いた。
あぁ、今までの道程も、母さんなら一瞬だったんだろうな……。
と少し悲しくなっていたら。
「蓮華、あの化け物を基準に考えなくてよいぞ」
とミレニアが言ってきた。
吸血鬼の真祖に化け物って呼ばれる母さんは一体……。
「母さんって、人間なんだよね?」
なんて聞きようによっては失礼な事を言ってしまった。
でもその言葉に。
「まぁ、人というか仙人じゃがな、あやつは」
なんて答えが返ってきた。
え?仙人?
「ミレニア、余計な事を教えちゃってぇ」
と母さんが口を尖らせる。
否定しないという事は真実なんだろうけど。
「だから長生きなんだね母さん」
出た感想はそれだけだった。
「「……」」
なんか二人が絶句している。
あれ、なんか私おかしい事言ったかな。
「ククッ……蓮華、お主は……。マーガリンよ、余計な事は考えず、蓮華には普通に伝えて構わぬと思うぞ」
「ふふ、そうだねぇ。レンちゃんが良い子なのは知ってたけど、ここまで純粋だと、外に出すのが怖いわねぇ」
「ああ、それには同意じゃがな」
なんて二人で話している。
私にはよく分からないんだけど
「蓮華、効果中は物理、魔法を両方完全に遮断する魔法を覚えておるか?」
ああ、あの某ゲームでもあった、石化するみたいなやつだっけ。
「うん、覚えてるよ。『グレイズコフィン』の魔法だよね?」
これは効果対象者を使用者のマナが切れるまで、ずっと無敵にする魔法だ。
ただし、それを受けている者は身動きが全く取れない。
つまり、動けない間に、ずっと続く攻撃魔法とか使われてたら、解けた瞬間アウト。
使いどころが難しい魔法だと思う。
「うむ、マーガリンはな、それをずっと受けた状態で動いているのじゃ」
「へ?」
なんだそれ。
それってつまり。
「まぁ、言ってしまえば、無敵じゃな。ちなみにスキルではない故、妾も普通には破れぬ。マーガリンが歳を取らぬのもそのせいじゃ」
もしかして母さんって。
「ゴースト生命体だったりするの?母さんって」
その言葉に何とも言えない表情をする二人。
あれ?違ったのか。
だって、なんかアスト○ンを受けたまま動けるって奴が、その体を乗っ取ってたって話は読んだ事あったんだもの。
でも母さんは違うのか。
「レンちゃん、私の体の中にはね、実はもう1人、居たの。でも、その子は今はもう死んでしまった。その子が、『グレイズコフィン』のデメリットを引き受けたまま、ね」
つまり、母さんの中に居たもう1人の子が動けない効果を受けているけど、母さんはそれを受けていないから、母さんの意思で動く場合、動けるって事か。
あれ、でも母さんの体の中には、確か厄災の獣が……って、まさか……。
「そうだよ、レンちゃん。厄災の獣をずっと抑えててくれた子。精神体となって、私の中でずっと耐えてくれていた子。名をアリス。レンちゃんは、覚えておいてあげてほしいな、名前だけでも、ね」
衝撃の真実は、凄く重かった。
ミレニアも、悲しい表情をしている。
私とアーネストは、そのアリスって子の力があったからこそ、厄災の獣を倒す事ができたんだな。
ごめん、助けてあげられなくて。
ありがとう、母さんをずっと守ってくれて。
アリス、君がどんな子なのかは分からないけど、もし知り合えたなら……。
きっと、仲良くなれたんだろうな。
「レンちゃん、今思ってくれた想い、大切にして欲しいな。きっと、レンちゃんなら、会えるから」
「え?」
私なら、会える?
どういう、事なんだろう。
でも、母さんの表情から、今はこれ以上話してはもらえない気がした。
「まぁ、そういうわけでな蓮華。マーガリンは『グレイズコフィン』が掛かったままなのだ。これを超えてダメージを与えるのは骨が折れるのじゃ」
そりゃそうだろう。
というか普通は無理だ。
消滅魔法だっけ、あれで消すとかじゃないと効かないんじゃなかろうか。
あ、イフリートとセルシウスの力借りたらいけるのかな?
とか考えていたら。
「れ、レンちゃん。なんか今物騒な事を考えなかった?それ試したら、私死んじゃわない?」
なんて聞いてくる母さんがおかしくて。
「あはは、母さんにそんなの試すわけないじゃない」
って笑って言った。
そんな母さんの態度がおかしかったのか、ミレニアが笑う。
「くはっ!ロキもマーガリンも、蓮華の前では本当に違うな。あぁ、お主には感謝せねばならんな蓮華」
なんて言ってくる。
「母さんも兄さんも大好きだからね。二人も私の事を大切にしてくれるし、私に感謝なんてしなくて良いよ?」
そう思っている事を言っておいた。
ミレニアは微笑んでくれて。
「そうか」
と言ってくれた。
言葉は少ないが、その表情がとても優しかった。
「それじゃレンちゃん、ミレニア、行きましょうか。道案内は任せてね」
なんて言ってくる頼もしい母さん。
そういえば、ミレニアはなんでついてきたんだろう?
疑問に思ってたので聞いてみた。
「せっかく寄ったのだから、ついでじゃ」
そしたら、そんな答えが返ってきた。
ま、いっか。
私としても、二人と一緒なのは嬉しいし。
そして、通路を進む。
もはや恒例だけど、道中の魔物は以下同文で良い気もした、んだけど、いつもと違った。
まず、現れたと思ったら、逃げていく。
私だけの時には見られなかった光景だ。
しかも、通路全体が凄く明るいから、見やすい。
空気も山頂みたいに澄んでる。
こういう祠なのかと思ったら。
「レンちゃん、息苦しかったら言ってね?もっと良い空気にするからねー」
母さんの仕業だった。
「蓮華、もし見通しが悪ければ言え。まだ明かりは強めれるでな」
そしてミレニアの仕業でもあった。
貴女吸血鬼ですよね?明るいの平気なの?
今考えれば、朝も昼も普通に行動してたよ!
というか、この二人のスペックが高すぎて、私は本当にやる事が無い。
なんていうか、もはや気持ちは観光気分だったりする。
それがいけなかったのか。
ズボッ!
「えっ」
突然床が抜けた。
「うわぁ!?」
落ちる私。
「レンちゃん!」
母さんが手を差し伸べてくれるが、届かない。
ああ、どこまで落ちるかなぁなんて考えていたら。
ガシッ!
と抱きとめられた。
「まったく、お主は落ち着いておれんのか、心臓に悪い」
なんてミレニアが言ってくる。
そっか、ミレニアは飛べるのか。
でも一つ言わせてもらえるなら、落とし穴は落ち着きとか関係ないと思うの。
元の通路に戻る私達。
「レンちゃーん!」
と母さんに抱きしめられる。
「ぐぇっ」
呻き声が出る。
だって母さん、抱きしめる力がいつもより強いんだもの。
「ごめんね、ごめんねレンちゃん!母さんレンちゃんとミレニアと一緒に行けるのが嬉しくて、罠を見過ごしちゃったよぅ。本当にごめんねぇ!」
なんて言いながら更に抱きしめる強さを強くする母さん。
ぐ…ぁ……これは、意識が、遠のく!?
違う、母さんの抱きしめる力だけじゃない。
これは、何か魔法的な……。
「お、おぃ、マーガリン。その辺にしておかねば、蓮華が……」
「え?」
きゅぅ、と虫の息になっている私を見て更に慌てだす母さんがおかしかったが、今は笑える状態ではなかったので。
「か、母さん、罠より母さんの方が、防ぎようがない分、き、けん……」
と言って、私は意識が朦朧としてくるのを感じる。
「きゃー!!レンちゃーん!?」
叫ぶ母さんの声が遠く聞こえた。
その副音声も一緒に。
(レンちゃん、大精霊の祠なら、あの子の結界も効果を及ぼさないから、会えるよ。話して、みてね)
と言う声が同時に聞こえた。
そして私は、意識を手放した。




