57話.プレゼント選び①
ノルンとアーネストと一緒に城下町を歩いていると、皆がノルンを褒めたたえているのが聞こえた。
なんでも、ノルンが指揮を取るようになってから魔界の治安が凄く良くなったらしい。
以前ノルンと共に腐敗したギルドを立て直した事があったけど、それを魔界全土で行ったのだと。
あの街だけじゃなかったようで、色々な街で不当な扱いを受けていた冒険者達が居た。
それを正す為、リンスレットさんから許可を得て、魔王軍を総動員して一斉捜査を行い、不正をしていた職員を捕え新たなルールを施行。
まだ全てのギルドとまではいけていないらしいけれど、多くの魔界の人達を救っているようで、ノルンの人気はうなぎのぼりみたいだ。
「魔王姫様ー!」
「やっぱり素敵よね魔王姫様……!」
「あの方に踏まれたい……」
なんかちょっと変な事言ってる人が混じってたけど、ノルンを皆尊敬や憧れの目で見ているのが分かる。
「魔王姫様の横に居る奴らは誰だ……?」
「お前知らないのかよ!ノルン様のご友人の方々だよ!」
「俺は知ってるぜ。なんせ俺はノルン様や蓮華さんと一緒に、ポーション作ったからなっ!」
「「「「なんだって!?」」」」
ああ、あの人シャイデリアに居たんだ。色んな人に教えたので、流石に覚えていないんだけれども。
あの人を色んな人が囲んで身動きが取れなくなっているのを見て、苦笑しながら視線を戻す。
「人気だねノルン」
「まぁ、空気読んで直接話しかけてこないのが救いかしらね。噂話くらいで目くじら立ててたらキリがないわ」
「でも本当の事なんだろ?」
「そうなんだけど」
アーネストのツッコミにノルンは苦笑しながら答える。
私やアーネストが地上で遊んゲフンゴフン、休息してる間にノルンは色々な事を魔界でしていたんだ。
本当に頭が下がるよ。
「あ、これなんてどうかしら?」
「どれどれ」
出店のように茶色いシートの上に座った小さな子が売り出している、同じシートの上にキチンと整列してあるアクセサリーの一つをノルンは指さす。
「ま、魔王姫様に選んで頂けるなんて、こ、光栄でひゅっ……!」
「これは貴女が作ったの?」
「は、はひっ!」
猫耳をした小さな少女は、顔を真っ赤にしながらノルンに応えた。
ノルンの指さしたアクセサリーは、ピンク色をしたダイヤモンドを綺麗なチェーンで繋いだ首飾りだった。
ってちょっと待って、ダイヤモンドってこの世界でも凄く希少な宝石だったはずだ!
恐る恐る値段を見て見ると……ぶはっ!? 一万エンっておかしいでしょ!?
「ちょっと貴女……」
ノルンが呆れ顔で少女に言おうとして……
「おうおうナチュリア、金は用意できたかよ?」
「ひっ!? あ、アンガーさん……その、もう少し待……」
「もう待てねぇなぁ。返済期限はとっくに過ぎてんだ。お前の商売道具ってのを借金のかたに出してもらうぜ?」
「そ、そんな……」
目の前の私達が見えていないのか、スキンヘッドのガタイの良い男が猫耳少女、ナチュリアちゃんっていうのかな? に詰め寄る。
「借金っていくらよ」
「ああん? よそ者は黙っ……。……の、の、ノルン様ぁぁぁっ!?」
「五月蠅いわね。で、借金っていくらよ」
「へ、へい。しめて三千万エンになりやすが……」
「それじゃこれ、このアクセサリーを買う代金よ。受け取りなさい」
「へっ!?」
「えっ!?」
ノルンは詳しい事情や何かを聞く事なく、またナチュリアちゃんの提示した値段の数千倍のお金をポンと支払った。
「まだ文句あるわけ?」
「い、いえ! ……おいナチュリア、これでお前の親父の借金はチャラだ。これからは間違っても俺らみたいなモンから金を借りるんじゃねぇぞ?」
そう言って、ノルンにぺこりと頭を下げてから、彼は人混みの中へと消えた。
その瞳は、その表情は、優しい感じを受けた。もしかしたら彼は……ううん、考えても仕方のない事だね。
「はい、三千万はさっきの奴に渡したけど、残り七千万エンは貴女に渡すわね」
「え!? えぇ!? そ、その、これの値段は……」
「良い、貴女。価値のある物をそんな値段で売るものじゃないわ。目敏い奴に見つかれば買いたたかれるわよ。ここにあるアクセサリーは、全て希少価値の高い物よ」
「……その、でも、全部私なんかが作ったもので……素材も、鉱山から取ってきたとかじゃなくて、作っただけで……」
驚いた。この子は錬金術師だって事だね。
それも、かなりの腕前だ。
それだけじゃない。ここにあるアクセサリーは、貴婦人から少女に至るまで幅広い層に受けそうな物が沢山ある。素材を作る腕だけじゃなく、センスも凄く良いんだ。
「そう。なら提案なんだけど……貴女、私に雇われる気ない?」
「え……えぇぇぇっ!?」
「これだけの腕前を持つ貴女を他に取られたくないもの。設備は勿論、給与面も……」
「あ、あのっ!」
「うん? ああ、一方的にごめんなさいね」
「そ、そうではなくて……その、今会ったばかりの私なんかに、どうしてそこまで……」
「そうね、内面はまだ今の受け答えだけでしか予想できないけれど……これだけ見事な装飾品を作れる貴女が欲しくなったのよ。どう? 損はさせないと約束するわ」
「っ……! は、はいっ! 不束者ですが、宜しくお願いしますっ! 私、ナチュリアって言いますですっ!」
ナチュリアちゃんが頭を下げた瞬間、周りの人達がわっと騒ぎ出した。
皆見ていたようで、凄い歓声だ。
「それじゃ、とりあえずお金を預けに行った方が良いわね。治安は良くなってるけど、大金を持ち歩かない方が良いわ。それに預けておくと、少しだけど利子が入るから勝手にお金増えるわよ」
「そ、そうなんですね!?」
さて、そろそろ疎外感が凄くなってきたんだけど、どうしよう。
アーネストに視線を向けると、確かにさっきまで居たのに居なくなっていた。
あ、あれ? どこに行った!?
「何きょろきょろしてんだ蓮華?」
と思ったら、後ろからアーネストに声を掛けられた。
「お前を探してたんだよ。何して……って聞くまでもないな……」
手に袋を抱えたアーネストは、食べ物を色々と買って来たらしい。
今の少しの間に、どれだけ買ってきたんだ。
「ほれ蓮華、ノルン。それにえーと……」
私とノルンに焼き鳥を渡すアーネスト。
私は構わないんだけど、女の子に焼き鳥渡すか普通。
「あ、あの、私はナチュリアと言います。魔王姫様のご友人でしょうか?」
「おう、そうだぜ。俺はアーネスト、こっちは蓮華だ。ほい、お前も食うか? 美味いぜ」
笑いながら焼き鳥を渡そうとするアーネスト。
ナチュリアちゃんは受け取るかどうか迷っているようだったが、ノルンが頷いたのを見て受け取った。
「おいひぃ……」
一口食べて、凄く嬉しそうにそう言うナチュリアちゃんにほっこりする。
「さて、まずは銀行に寄ってから、早いけど一度城に戻りましょ。ナチュリアの雇用の件もあるし」
「了解。プレゼントはそれにするの?」
「いいえ? これはただ私が欲しいと思っただけだもの。リンスレットへのプレゼントは別の物にするつもりよ。それこそ、蓮華とアーネストにも考えてもらいたいからね」
「そっか」
「もぐ……俺の意見なんて参考になるとは思えねぇけどなぁ……」
焼き鳥を頬張りながらそう言うアーネストに苦笑するしかない。
お前は本当に変わらないな。
「良いのよ。私だけじゃなく、私達で選んだって事に意味があるんだから」
そう言ってナチュリアちゃんの手を引きながら、銀行へと歩き出すノルン。
久しぶりにあった友人は、何度も胸を一突きしてくる言葉を言ってくるんだけど、どう防御したら良いんだろうか。
「おい蓮華、ノルンの直球の言葉なんとかしろよ」
「お前がなんとかしろよアーネスト」
なんて言い合っていたら、ノルンが怪訝な表情でこちらを見てきた。
「何してんの? 置いてくわよ」
「ま、待ってよノルン!」
「土地勘無い俺達を置いてくとか正気か!?」
慌てて追いかける私達を見て、ノルンはクスリと笑う。
むぅ。以前よりも魅力的なその笑顔に、ときめいてしまうのは何故だろう。
これが恋……! ってそんなわけないよね。
馬鹿な事を考えるのを止めて、アーネストと二人ノルンの横に並ぶ。
沢山の人がこちらを見ているけど、ノルンは慣れたもののようで視線を気にしてもいない。
ナチュリアちゃんだけは、おっかなびっくりしつつも、ノルンに手を引かれて嬉しそうにしていた。
それを見て心が温かくなったのは秘密だ。
いつも読んで頂いてありがとうございます。