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55話.ノルンからの連絡

 結局その日はフィフスの王城で泊る事になってしまった。

 母さんには魔道通信で連絡を入れておいた。

 毎回明るい声で『良いよ』って言ってくれるけど、心配させているだろうから何かお土産を買って帰ろうと思った。


 翌日、ネメシスさんを通して王様達には帰る事を伝えて、魔道騎士団研究本部に居るラハーナちゃんに会ってから帰ろうとアーネストと話して決めた。


「もう帰るんだな蓮華、アーネスト。その、ありがとう。俺にこの世界で生きていく目標をくれて」


 顔を赤らめながらそう言うラハーナちゃんに、私達は驚く。

 まだ出会って全然経っていないのに、もう長い間一緒に居たかのような間柄になっている気がする。


「それと蓮華。今回の過去の悪魔が居た件……俺が少し調べておく。何か情報が掴めたら連絡するから」


 私の元へ来て小声で耳打ちする。

 私は頷き、魔道通信がラハーナちゃんと出来るか試してみる事にした。


『聞こえる?ラハーナちゃん』

『っ!?蓮華、か。成程、これが魔道通信か……凄い綿密な術式だな……これを作った奴、天才だぞ』

『あはは、そりゃ母さんだからね。とりあえず、緊急の時はこれで連絡してくれて良いよ。私は普段この回路閉じてるから、多用はしないでね?』

『了解だ』

「何見つめ合ってんだお前らは……」

「「!?」」


 私とラハーナちゃんは、口を出さずに見つめ合いながら脳内で会話していた。

 はた目から見たら、これからキスでもするのかというような態勢だった。


「ちょっとある魔術の試験をしてたんだよ」

「ああ、成程な」


 アーネストはすぐに理解したようで、納得した表情になる。


「それじゃラハーナちゃん、私達はこれで帰るね。また顔を出すよ」

「分かった。俺はこの国を強くする。昨日一晩で情勢を確認したが、この地上は過去より大分酷いみたいだからな」


 遠まわしな言い方だが、要は昔より弱くなっていると言いたいんだろう。

 一部の人達は強くなってきているけれど、それは全体の数%に過ぎないからね。

 全員が全員強くなる必要は無いけど、守る立場にある人達は守れるだけの力を持って欲しいとは思う。


「頼んだぜ。それは俺達も目指してる場所だからよ」


 そうアーネストもニカッと笑って言った。

 昔リンスレットさんに言われた事を、アーネストも覚えているのだろう。


「ああ、この国は任せておけ。どの国よりも一番の強国にしてやるさ」


 小さい体で自信満々にそう言うラハーナちゃんだが、威厳があるように見えるから不思議だ。

 後ろで研究職員の人達が微笑ましく見ているけどね。


「それじゃ、皆さん。ラハーナちゃんを宜しくお願いします」

「「「「「っ!?」」」」」


 皆さんに向かってぺこりと頭を下げる。

 そして頭を上げると、何故か凄く驚いた顔をしていた。


「あー、気にしないでくれ。こいつはこういう奴なんだよ」


 アーネストが言ってるが、どういう事だろう?


「アホ、お前は立場は国王より上なんだぞ。なのに頭を下げたらそりゃ驚かれるだろ」


 ……そうだった。アーネストが小声で教えてくれて思い出す。

 立場って、めんどくさい。舐められるのは勿論腹が立つけれど、畏縮されてしまうのも、苦手なんだよね。

 漫画とかでよく読んだ、偉そうにしてる貴族達の感覚が私には理解できない。

 根っからの平民って事だね。


「蓮華様、アーネスト様。この度は本当に……本当にありがとうございました。僕や、騎士達の命を救って頂けて……そして、ラハーナ殿という国の宝に成りえる方と縁を紡いで頂けて。シンジ=ゴトウは、フィフス魔道騎士団は、蓮華様達の為ならいついかなる時でも力をお貸しいたします」


 そう言って、深々と頭を下げるシンジさん。シンジさんだけじゃない。他の皆も、同時に頭を下げた。

 こんな時、焦って何かを言うのも違うだろう。

 だから、今だけはポーカーフェイスを貫こう。


「ありがとう。その時は遠慮なく頼らせて貰うね。行こうアーネスト」

「おう」


 アーネストへ視線を移し、頷くのを確認してから背を向け歩き出す。

 入口に着くと、受付の女性が立ち上がり、90度頭を下げた。

 この国に仕える人達は、本当に礼儀正しいなと思う。


「また来ます」


 そう言って微笑んだら、女性も笑顔で「いつでも気軽にいらしてくださいね」と言ってくれた。

 後から聞いた話だけど、この女性の彼氏が騎士団に居たらしく、私が命を救ったのだという。

 どこで繋がっているか分からないものだよね、本当に。


「おー、やっぱ普段は賑わってんだな」


 城の外に出ると、人がたくさん往来していた。

 客寄せをしている人が大声を張り上げていて、中々に騒々しい。

 美味しそうな良い匂いも通りに充満している。


「とりあえず、母さん達のお土産でも探そうか」

「そうすっか。認識阻害だけ掛けとかねぇとな」

「っと、そうだな」


 ラハーナちゃんの件は終わったし、変装をここでするのもあれなので、お手軽な魔法に頼る。

 それからお店をはしごして、お土産はフィフス限定の饅頭(まんじゅう)を買う事にした。


「さて、そんじゃそろそろ帰るか?」

「そうだな……っと、スマホが振動してるな」

「電話か?」

「ううん、メッセージだね。最近は届いたらすぐに返信できるように、振動させる事にしたんだ」

「お前も成長したんだな」

「うるさいよ」


 ベンチに腰かけながら、スマホを確認する。


「あ、ノルンからだ」


 珍しいな、ノルンからのメッセージなんて。


 ソロモンの一件から、ノルン達とは会っていない。

 そういえば、アスモとソロモンが時の世界で特訓したいと言ってきた時は驚いたなぁ。

 それから数十日間、時の世界で言えば数億年の時を過ごしたらしいけど……出てきた時の二人の力には驚かされた。

 凄まじい力だった。戦ってはいないけど、強さの底が見えなかった。

 二人は私達にお礼を言って魔界に帰っていった。それから一度も会っていないけれど、元気にしているだろうか。


「へぇ、珍しいな。そういや、ゼロともしばらく会ってねぇなぁ」


 そう零すアーネストに私も同意する。


「そうだな。えっと……何か問題が起こったみたいだね。私の力を借りたいって来てる」

「あのノルンがかよ。そりゃよっぽどだな」


 そう、ノルンは大抵自分だけで解決するし、できる力を持っている。なのに、私に力を借りたいという事は……よっぽどの事なんだろう。


「アーネスト、一緒に来てくれるか?」

「当然だろ。けど、俺も行っても大丈夫か?」

「それこそ当然だよ。ノルンがお前は駄目なんて言うわけない」

「そっか、そうだな。うし、なら予定変更だな」

「うん、魔界へ行こう!」


 こうして私達はノルンの居る魔界、リンスレットさんの居る魔王城へと『ポータル』で向かう事にした。

読んでくれてありがとうございます。

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