54話.フィフス王家は二人の大ファン
「今日はご無理を聞いて頂きありがとうございます。お口に合えば良いのですが」
そう王様が言うのを、私とアーネストは苦笑しながら聞いていた。
豪華絢爛って言葉は、この為にあるのではなかろうか。
ただのチャーハンが金色に輝いているし、スープも比喩じゃなく金色だ。
器は銀色だから対比が凄い。
野菜は色とりどりで綺麗に盛り付けられていて、野菜嫌いの人でも思わず食べたくなるんじゃないだろうか。
「ありがとうございます。頂きますね」
「めっちゃ美味そう!いただきますっ!」
「おいアーネスト、失礼だろ」
「ははは。蓮華様、お気になさらず。どうか、普段通りでお過ごしください。ここには私達家族と、信頼できる護衛の者しかおりませぬ故」
そう王様がにこやかに言ってくれる。
長方形の机に、入り口側に私とアーネストが座っていて、対面には王様と王妃様、そして王子様とお姫様の四人が揃って座っている。
その斜め後ろで立っているのがネメシスさんとシンジさんだった。
「ネメシスさん、シンジさん。良ければ一緒に食べませんか?」
「「!?」」
「大丈夫、この部屋に入った時に私も結界を張っておいたので、侵入者とかいてもすぐわかるし……私が守るから。一応アーネストも居るし」
「一応ってお前な!?……まぁ、お前だけで十分だろうけどよ」
アーネストに苦笑しつつ、王様を見る。
王様は苦笑しながらも、頷いてくれた。
「蓮華様がこう仰っているのだ。今この時は護衛の任を忘れ、食事を共にしよう。私はいつもお前達には感謝しているのだ。でなければ、この場に呼ばぬよ」
「「陛下……」」
ネメシスさんとシンジさんが目を潤ませている。どうやら良い信頼関係が結べているようだ。
ちなみにラハーナちゃんは、今は魔道騎士団研究本部の人達と一緒にご飯を食べているはずだ。
『堅苦しい所は嫌いだ。それに、あのおっさんは最初俺を無視したから好かん!』って言ってた。うーん、あれは立場上仕方ない気もするけどね。特別公爵家の私達に意識を向けすぎてたんだと思うし。
「美味いっ!このチャーハンめっちゃうめぇよ!蓮華も食って見ろよ!」
「はいはい……食べるからお前は落ち着いて食べろよ恥ずかしい……」
「食えばそんな事言えなくなるぞ!」
「そんな事……うっま!?」
やばい、アーネストを注意出来ない。これは美味しい……!肉が、口の中に入れた瞬間溶けた。
「くすくす……」
見れば、お姫様が楽しそうに笑っていた。
「ご、ごめんね。はしたなかったよね」
そう言ったら、王女様はぶんぶんと顔を横に振った。
「と、とんでもありませんっ!その、とてもお可愛いので……」
王女様の年齢は知らないけれど、お可愛いなんて言われた事初めてだったので、とても恥ずかしい。
「あの、自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はファリス=ツー=フィフスと申します」
「俺もっ!ではなく、私も自己紹介を!私の名はゼフィロス=ツー=フィフスと申します!」
二人共綺麗な金髪で、翡翠色の澄んだ目をしている。
ファリス王女様は私と同じくらいの長髪で、ゼフィロス王子様はアーネストと同じくらいの短髪だ。
どちらも王族として立派な外見をしていると思う。
「ありがとう。私達の事はもう知っていると思うけど……蓮華=フォン=ユグドラシルだよ。よろしくねファリス王女様、ゼフィロス王子様」
「もぐ……ごくん。っと、俺はアーネスト=フォン=ユグドラシルだ。一応蓮華の兄って事になってるけど、こいつは俺の事兄だなんて思ってねぇし俺も妹とは思ってねぇから、そこら辺は大目にみてくれな」
「お前、王様と王妃様の前でなんて事言うんだ。真実だけど」
「先に言っておいた方が違和感なくなるだろ?」
「その違和感はあった方が良い違和感だろ!」
「くすくす……」
「ははは……」
またやってしまった。
王様達皆に笑われてしまった。
「お前のせいだぞアーネスト」
「公式の場じゃないんだし、良いじゃねぇか。どうせお前の外面なんてすぐばれんだろ」
「ぐっ……!」
何も言い返せない、悔しい。いやこれでも、結構お嬢様の訓練はしたんだよ?
だけど、アーネストが居るとどうしても素が出てしまう。
「やっぱり良い……!アーネスト様、蓮華様は最高です……!」
「ですわよねゼフィロス兄様!やっぱり蓮華様とアーネスト様は最高ですっ!」
気付けば、二人が椅子から立ち上がり、こちらに身を乗り出していた。
「これ、落ち着かんかお前達」
「そうですよ二人共。私だってアーネスト様に蓮華様とお話したいんですからね!」
「おい、お前まで何を言うておるのだ……」
「何ってアナタ、ようやくお二人とお話が出来るんですよ!?公の場ではアナタに全て話を任せたんですから、ここでは譲って頂きますよ!」
「ずるいぞ!?私……わしだってお二人方とずっと話をしたいと思っておったのだ!」
なんか、王様達の家族がやんややんやと盛り上がってしまった。
ネメシスさんとシンジさんの方を見ると、苦笑しながら顔を横に振った。
「父様と母様は置いておいて……蓮華様っ!」
「う、うん?」
ファリス王女様が更にこちらへと身を乗り出してくる。
「私の事は是非ファリスと呼び捨ててくださいまし!」
「え……ええと、公式の場じゃなければ、そうするね」
「はいっ!」
花が咲くっていうのは、こういう笑顔に言うんだろうね。
凄く嬉しそうに笑うファリス王女様……ファリスは、とても可愛らしい。
「アーネスト様!私、いや俺の事も是非ゼフィロスと!」
「お、おお。なんつーか、俺に言うのか?」
「はい?」
ゼフィロス王子様はきょとんとした表情になった。
「いや、普通こういう場合俺じゃなくて、蓮華に言わないか?」
「どうしてですか?勿論蓮華様もとても魅力的な方ですが、俺が一番憧れているのはアーネスト様なんですっ!」
「うふふ、私もアーネスト様はとても魅力的な方だと思っておりますが、一番憧れているのは蓮華様ですわっ!」
凄いなこの兄妹。あのアーネストが押されてる。
「そ、そうか。俺はてっきり、男の方は蓮華に、女の方は俺にって感じになるかと思ってたんだよな。いやまぁ女の方も蓮華にいっても不思議じゃねぇんだけど」
その感覚は分かる。私が男だとしたら、きっと女性の方に目が行くと思うし。……だとしたらじゃないんですけどー!心まで女になったつもりはないはずなのに!
「それは違いますよアーネスト様!俺はアーネスト様に憧れています!その強さ、その大らかさ、全てが俺の憧れなんです!」
「お兄様、ここぞとばかりにグイグイ行きますわね……私も負けてられませんわ!蓮華様!私も……」
やばい、この二人の押しが強い。
私とアーネストが揃って言葉攻めにたじろいでいると、王様と王妃様まで参戦して泥沼化した。
こんな夕食になるとか予想してなかったんですけどー!?
この日の夕食は、結局政治的なお話になんてならず、ひたすらに私とアーネストの褒め殺しだった。
食事が美味しいと感じたのは最初だけで、後はもう味が分からなかったよ……。
食事が終わって部屋を出た時に、ネメシスさんとシンジさんから心からの『お疲れ様でした』の言葉に、ちょっと泣きそうになった。
この国の王族、ちょっと私達への想いが強すぎてヤバイ。
特に彼らに対して何かした事なんて無かったのに、これがファンの力というやつだろうか。
珍しくアーネストもげっそりとしていたけれど、それをからかう気力も湧かなかったよ。
フィフスの王族の推しは蓮華派とアーネスト派に分かれています。
王様 →蓮華
王妃様→アーネスト
王子様→アーネスト
姫様 →蓮華
がそれぞれ推しです。Twitterのアカウントも実はコッソリフォローしてたりします。
お話に出せなかったのであとがきで失礼します。
今後出せたら出したいなぁと思ってます。
いつも読んで頂きありがとうございます。