53話.結界展開
ネメシスさんから受け取った城の見取り図。
本来はそう簡単に見せられるものじゃないんだろうけど、やっぱり特別公爵家っていうのは大きいんだろうね。
それで確認したところ、どうやら中心地は通路のようだ。
ネメシスさんとシンジさんを連れて、その場所へと向かう。
ラハーナちゃんは研究室に残って、皆と構文の作成に取り掛かっている。
研究員の皆にも事情を説明した所、国の為に知識を出し合える事を純粋に喜んでいるようだった。
中にはやる気をみなぎらせている人も居て、やはりこの形が正解だったと思う。
私がやるのは簡単だ。だけど、それじゃ成長がない。
誰かに頼るのではなく、自分達の力でなんとかしようとするのが大事だと思う。
勿論頼るのが悪いというわけじゃない。私だって頼る事は多いからね。
アーネストは魔術について、私程じゃないにしても、母さんや兄さんから学んでいる。
なので、今回はラハーナちゃんについてもらっている。
ラハーナちゃんだって間違う事はあるだろし、現状それについて指摘できるのはシンジさんには失礼かもしれないけれど、アーネストだけだと思うから。
「見取り図的に、ここかな?」
「そうですね。ここで間違いないと思います」
見取り図を片手に、目的の場所に着いたので確認の為聞いてみる。
ネメシスさんとシンジさんが頷いてくれたので、私はその場にしゃがみ、手を広げて地面へとつける。
「ん……『エターナルガーデン』」
「「!?」」
ユグドラシルの特殊魔法、私は必殺技って呼んでるけど……の一つ、『エターナルガーデン』は、外からは対物魔結界であり、結界内に居る人には全ステータスアップの効果を及ぼす。
昔、ユグドラシルから習った『エターナル』の派生技だ。
【その力の名は、『エターナル』。自身の周囲、蓮華が思う味方全員の、攻撃・防御・魔力・速度全てを上昇させる事が出来ます。これは魔法でも、魔術でもありません。ですから、魔法と魔術の効果と併用可能です】
この力を、場に留まらせる事ができる。正し、効果は『エターナル』よりも大分落ちるし、結界としての効果が主だ。
ただそれでも、この効果内で更に身体能力強化の魔法や魔術を重ね掛けできるので、凄く有用だ。
「よし、終わったよ。この結界内に居るうちは、皆強くなってるから、訓練とかは気を付けてね」
「「……」」
二人共唖然としている。そんなに驚く事かなぁ。
「今まで見た事もない強力な結界を、一瞬で……噂はどれも凄いものだったが、それでも過小評価と思えてしまうな……」
「同感だよ。これ程とは……」
何か二人から尊敬のまなざしを受けているようで、少し恥ずかしいんだけども。
「さて、それじゃ次は解除だね。私の結界は魔法や魔術の邪魔をしないけど、影響を及ぼす事は出来るから……とりあえず、私の方で全部一気に消すね。確認だけど、今城に掛かってる術式のリストは全部あるんだよね?」
「その点は大丈夫です。勿論僕も覚えていますし」
「そっか、良かった。なら、消すね。ん……終わりっと」
「「!?」」
また二人が唖然としてる。もう慣れてきたけど。
「流石すぎて、言葉が出ない」
「僕もだよ。まさかこの城のあれほどの数の術式を、こんな簡単に……本当に、凄い方だ。あのマーガリン様のご令嬢なのも納得だね」
二人がこそこそと話しているけれど、なんとなく私を褒めている気がして聞こうとは思わなかった。
むずがゆくなるんだよね。
「さて、それじゃ研究本部に戻ろっか。そうだ、もう少しで夕飯だと思うけど……特にマナーとか服装とか、気にしなくて大丈夫?」
私もアーネストも普段着のままだし。兄さんから貰ったこの服は気に入ってるので、大体同じ服着てるのだ。
伸縮自在の素材なようで、伸ばしたら服も伸びるし、伸びた分も体に合わせてすぐ戻る。
自動洗浄効果もある為、汚れても時間が経つと綺麗になる。
この服一つで他はいらないくらいなのだ。
「それは大丈夫ですよ。そもそも、マナーとは相手を不快にさせない為のものです。蓮華様やアーネスト様のなさる事に、不快に思う者は居ないでしょう」
なんだろう、この微妙にずれている回答は。
まぁ、問題なさそうならそれで良いんだけどね。
私、ドレスとか着たくないので。
「そっか。それじゃこのままで良いかな」
そうして私達は、魔道騎士団研究本部へと戻った。
スクロールと呼ばれる、魔術の構文がびっしりと書き込まれた紙を広げながら、あーでもないこーでもないと皆で言い合っている姿を見ると、なんだか学生の頃を思い出して懐かしい感じがした。
本日二話目です。
いつも読んでくれてありがとうございます。