50.ミレニア来訪
家に帰ったら、すでにアーネストは居なかった。
どうやら、学校に行ったようだ。
まぁ、数日開けてしまったし、仕方ない。
学校の寮に入るそうで、あまり帰ってこられないそうだ。
しまったな、金の大精霊の祠の場所、アーネストに先に聞いておけば良かった。
土のノームは会えたし、日・月の大精霊は待ってても良いみたいだから
地上では後は金の大精霊だけなんだけどなぁ。
ってそうか、今まで母さんがやってたなら、母さんに聞けば良いのか。
「ねぇ母さん、金の大精霊が居る祠の近くの王都ってどこなの?」
「確か、テンコーガだねー」
母さんが料理しながら答えてくれる。
げ、テンコーガって、王覧試合で戦ったとこじゃないか。
「母さんは、金の大精霊と会った事あるの?」
「あるよー。大精霊っていうか、あれ半分機械な気がするけどねー」
うはっ。
なんて男心をくすぐる大精霊なんだ。
「名前はヴィーナスって言ってねー」
女神かよ!?
心の中でつっこんでしまった。
「所々がフルメタルでねー、キラキラしてるよー」
母さん、料理してるからかノリノリなんだけど、内容が内容だけにつっこみがおいつかない。
フルメタルって。
サイボーグみたいな見た目した女神?
なんかイメージができない。
「手が変形して大砲みたいなのになったり、面白かったなぁ」
ぐはぁっ!変形可能ときたか!
アーネスト、お前が一番会いたいだろう大精霊の場所に行っておきながら、会えなかったのかぁ……!
でもおかしいな、私の知ってるヴィーナスって、美の女神だった気がするんだけど。
あれはビーナスだったっけ?うーん、うろ覚えだ。
でも間違ってもフルメタルなイメージはないよ、うん。
「レンちゃん、次はヴィーナスに会いに行くのー?」
なんて聞いてくる母さん。
「うん。日と月は、他の大精霊に聞く所によると、自分から会いに来てくれるって言うから、待ってようかなって思って」
「そっかぁ、それじゃレンちゃん、金の大精霊の元へは、私も一緒に行ってあげようかー?」
!?
母さんと、一緒!?
「い、良いの母さん!?」
思わず大きな声が出ちゃったよ。
だって、母さんは基本ユグドラシル領は離れられないって言ってたから。
「ふふ、少しなら大丈夫だよ。それに、この間ロキがレンちゃんと一緒に居たの知ってるんだからー。今度は私が行く番だよー」
成程、兄さんが残るから、母さんが出ても大丈夫、と。
そっか、そういえば王覧試合の時も、母さんは出ていたけど、兄さんは残っていた。
もしかしたら、どちらかは世界樹を守る為に居るようにしているのかもしれない。
「母さんが一緒に来てくれるなら、凄く嬉しいよ」
うん、本当に凄く嬉しい。
「うふふ、レンちゃんは可愛いなぁ。それじゃ、ご飯を食べたら、用意して行こっかーレンちゃん♪」
「うん、母さん!」
こうして、次の祠は母さんと一緒に行く事が決まった。
なんだろう、母さんと行けるのは凄く嬉しい。
行くのが楽しみな私だった。
って、テーブルの上に置かれた食事の量が尋常じゃない事に気付く。
「か、母さん、これはいくらなんでも量が多すぎなんじゃ……」
だって、普段の三倍はある気が……。
「ふふ、今日は大食いのお客さんが居るからね」
珍しいな、ここにお客さんなんて。
と思っていたら。
「誰が大食いかぁっ!!」
なんて叫びながら入ってくる人が。
って、ミレニアじゃないか。
「いらっしゃいミレニア。地上に来ていたなら、もっと早く教えてくれれば良いのに」
「はぁ、お主と会うと疲れるでな」
「でも招待したら、まっすぐに来てくれたじゃない」
その言葉に真っ赤になったミレニア。
「お主が!来なければ!ある事ない事蓮華に話すと脅すからじゃろうがぁぁぁっ!!」
またミレニアが叫んだ。
っていうか、なにしてるの母さん。
ジーっと母さんを見てると。
「ち、違うのよレンちゃん!?レンちゃんをダシになんてしてないんだよ!?」
いや、ミレニアの言葉が正しければ、してるよね母さん。
「いーや、今回こそ言わせてもらうぞマーガリン!お主は妾にいつもいつも無理矢理何か理由をつけては呼び出しおってからに!!」
「だってそうしないと来ないじゃないミレニア!」
「普通に呼び出せば来ておるわー!」
「そう言って前回きたの、何年前か覚えてるの!?」
「80年くらい前、かの?」
「ほらぁ!!」
「う、うるさい!妾の時間感覚をお主らと一緒にするでない!」
「へー、私に負けた吸血鬼さんはいう事が違うわねー」
「ほほぅ、マーガリン、『グレートインフェクション』でグール化してやろうかっ!!」
「へぇ、真祖の貴女の切り札の一つをこんな場所で使っちゃうの?レンちゃんまで巻き添えにしちゃうのかしらぁ、怖いわー」
「お、おのれぇマーガリン……!」
……うん、この二人が凄く仲が良い事は分かった。
このまま放置してたら、延々と話しそうだから。
「二人とも、騒ぐなら外でやってくれないかな?」
って凄い冷めた眼で見た。
「「ごめんなさい」」
と言ってくれる二人。
ホント仲良いなこの二人!
「まったく、お主のせいで蓮華に変な所を見られたではないか」
「深紅の花蘇芳」
「ぐっ!?ゴホッ!ゴホッ!」
食べ物を喉に詰まらせたのか、咳をするミレニア。
「はい、世界樹の近くに流れてる清水だよミレニア」
「す、すまぬ蓮華。ゴクッゴクッ……」
おお、一気にコップ全部飲みきっちゃったよ。
「ま、マーガリン、それを蓮華に伝えるとは……!」
「良いじゃない、減るものじゃないんだから」
「妾の精神力がゴリゴリと減っておるわ!」
ほんっとうに仲が良いなこの二人は。
でも、深紅の花蘇芳ってなんだろうか。
「ふふ、レンちゃんも聞きたそうにしてるわよミレニア」
「ぐっ……」
いや、聞きたいけど、ミレニアが凄い嫌そうにしてるんだけども。
「レンちゃん、深紅の花蘇芳っていうのは、ミレニアの二つ名みたいなものでね。ミレニアのフルネームは聞いた?レンちゃん」
確か、ミレニア=トリスティア=リーニュムジューダス、だったかな?
「うん、聞いたよ母さん。それが関係してるの?」
「そうだね。Millennia=Tristia=LignumJudas。数千年に亘る悲哀なりしユダの木、という意味の名なの。その由来から、呼ばれるようになった名ね」
ユダの木……。
世界樹の事といい、何か関係があるのかもしれないな。
「ま、ミレニアの場合、その特殊能力のせいで、相手から恐れられてそう呼ばれたっていうのもあるんだけどね?」
「恐れられた?」
特殊能力で、か。
普通にスキル無効なだけで、ヤバいと思ってたんだけど、まだあるのか。
「まず第一に、『命無き怪物』(クリチャーオブライフレス)という能力で、精神異常、気絶、毒、呪い、魅了、即死と言った効果をほとんど無効化しちゃうし」
相手にはそれを突破するくせに、自分は効かないとか、狡い。
「更に『超再生力』も持ってるから、物凄いダメージを受けてもすぐ回復しちゃう。それを封じる攻撃をしても、『癒えぬ渇き』という能力で、自身が傷を負えば負う程魔力が上昇するの。』
いや、それホント強すぎなんですけど。
さっき母さん、そんな人に勝ったって言わなかったっけ。
「も、もうよいマーガリン、それくらいにしてくれ。恥ずかしくて死にそうじゃ……」
見れば、ミレニアが真っ赤になっている。
「ふふ、私の友達の自慢話くらい、させてくれたって良いじゃない」
なんて母さんが笑って言ってる。
これにはミレニアも表情を崩す。
「まったく、この偏屈めが。もっと素直に言えば良いだろうに」
と言った。
二人とも笑っている。
うん、良いな、こういうの。
お互いの事を認めてて、言いたい事を言い合える。
それはどんな物より、価値があると思う。
「レンちゃん、私の友達は凄いでしょう?自慢の友達なんだから。ホントは、ミレニアと知り合う前に私が紹介したかったんだけど、先に知り合っちゃうんだもの。ちょっと意地悪したくなっても、仕方ないじゃない?」
なんて母さんが笑って言う。
まったく、相変わらずお茶目な人だと思う。
それに巻き込まれる方がどう思うかは知らない。
「はぁ、蓮華、お主はコヤツの元で、よくぞ真っ直ぐ育ったの。妾はそれだけが救いじゃ」
と言って頭を撫でてくる。
おぅっ、やられるとこれ結構恥ずかしいな!
私も何気なくやる事あるし、気を付けよう……。
「あー!ミレニアずるいー!私もレンちゃん良い子良い子したいのにー!」
なんて母さんが言ってくるので、笑うのが我慢できなかった。
そんな私を見て、母さんもミレニアも顔を見合わせて、笑ってくれた。
そして、食事を再開すると、兄さんが降りてきた。
「おや、ミレニア、来ていたのですか」
「ああ、マーガリンに招待されてな」
「貴女がマーガリン師匠に招待されたからと、すぐ来るとは珍しい」
「ああ、それは……」
と先程の会話をする。
私は黙って話を聞いていたけれど、この三人の話は聞いていて楽しかった。
時々私に話を振られるのが困ったけれど。
三人とも、私が話す時も楽しそうに聞いてくれるのが嬉しかった。
アーネストがこの場に居ない事を残念に思いながら、食事の時間を楽しんだ私だった。




