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48話.フィフスの騎士

 フィフスへとやってきた私達だったれど、どうも様子がおかしい。


「なぁアーネスト、この国の街っていつもこんな感じなのか?」

「いや……以前学園の用事で来た時は、もっと賑やかだったぜ」


 私が知らないだけの可能性はこれで消えた。

 街に人が全然居ない。警備の人達が居たので、声を掛けてみた。


「まだ避難していなかったのか!?魔物が押し寄せてくるかもしれない、早く城のシェルターへ避難しなさいっ!」


 どうやら緊急事態らしい。

 魔力で周囲を探る。……うん、ここから少し離れた場所に、たくさんの魔力が集中してる。

 その中でもひときわ大きな力……これが魔物だな。


「おい、聞いているのか!?」

「うん、ありがとう。大体分かったから、必要そうなら助けになるよ」

「え?いや、何を言ってるんだ!危ないから避難を……」


 (らち)が明かないし、説明している時間も惜しい。

 なので、私は魔力の元へ駆ける。


「あ、おい蓮……じゃなくてレイ!待てよ!」


 少し遅れて、アーネストとラハーナちゃんが追ってくる。


「場所は分かってんのか?」

「うん、多分ね。ラハーナちゃんは無理についてこなくて良いんだよ?危ないかもしれないから。街で皆と一緒に避難し……」

「俺は友達を見捨てない!俺を友達と言ってくれた蓮華だけを危険な目になんて合わせないぞ!」

「ラハーナちゃん……」

「おい、俺も居るからな……?」


 アーネストの言葉は一旦無視して、魔力の集まっている場所へと足を速める。

 飛ぶように駆ける事少し、まるで赤い世界のように一面が血で濡れている。


「なんだ、この惨状は……」

「っ……これは、俺が経験した戦いと似てる。この、おぞましい力は……魔性、ツァトゥグァ……!」

「知ってるの?ラハーナちゃん」

「ああ、知ってる。俺は、この魔物を知ってる。悪魔とも呼ばれるけど……こいつは、血を操り傀儡(かいらい)を作る。だけどこいつは、ユグドラシル様に消されたはずなのに……!」

「「!!」」


 少し離れた場所で話をしていた為、魔物にはまだ気付かれていない。

 いや、いないはずだった。

 その目線がこちらを射抜くまでは。


「まずい!防御を!」

「「!!」」


 黒い光線が、こちらへと延びる。

 私は手を前に出し、結界を張った。


「大丈夫、この程度ならびくともしない。でも、バレたみたいだし、こっちからも行くぞ!」

「おう!了解だぜ!」

「わ、分かった!俺は戦いは嫌いだけど……あいつを放っておくわけにはいかない……!」


 三人で魔物の立つ場所へと走る。


「グォォォォッ!!」


 ビリビリと空気が振動し肌に伝わる。

 魔物が叫んだかと思ったら、地中からおぞましい姿をしたナニカが這い上がる。

 血の塊のような物体が、ウネウネと動いている。


「なんだ、あれ!?」

「あれはショゴスっていうスライムだ。なんでも融かすし食べてしまう厄介な魔物だぞ」

「あれがスライムゥ!?」


 アーネストの質問に、ラハーナちゃんが答える。

 スライムってもっと可愛らしいものを想像していたけれど、あんなにおぞましい姿をしているのか。

 まぁ照矢君達の仲間のスライムことスラリンさんはイメージ通りの姿だったので、種類があるって事なんだろうけど。


「先手、貰うぜっ!『鳳凰天空牙』!」


 空に飛びあがり、ネセルの炎を纏って突撃するアーネスト。


「ガァァッ!?」

「これで終わりじゃねぇぜ!連刃『閃空牙』!」


 空から地へと降りた後、そのまま振り向きざまに魔物へと衝撃波を飛ばす。

 通常なら魔物の身体は上下に別れ、その命を絶つほどの力。

 けれど、この魔物はその衝撃波を跳ね返した。


「うぉっ!?」


 アーネストは咄嗟に避けるが、魔物がその巨体に似合わない速度で接近し、その両の腕で殴りかかっていた。


「チッ!?速えぇじゃねぇかっ!」


 動きを見切っているのか、その全てを完全に避けている。よし、アーネストが引きつけているうちに、私も撃つとするか!


「避けろよアーネスト!『イセリアルブラスト』!」

「蓮華待っ……」


 ラハーナちゃんが何かを言おうとしたが、時すでに遅し。

 私は特大の光線魔法を放った。


「グオオオオオッ!」


 あれ?効いてない?ううん、それどころか……なんだろう、さっきより体が、大きくなっている、ような?


「うおっとぉ!?」


 巨大になった魔物に踏み潰されそうになったアーネストが、なんとか避けてこちらへと来る。


「な、なんだあれ!?さっきまでも十分デカかったけど、今はその比じゃねぇぞ!?ゴジラかよ!」

「あの、魔物は……魔力を、食う……」

「「「!!」」」


 岩の下敷きになっていたのか、血達磨(ちだるま)となっている女性が片足を引きづりながら、こちらへとやってきた。


「だ、大丈夫!?今回復するよ!」

「あり、がとう……」


 私は急いで回復魔法を掛けながら、浄化の魔法も掛ける。

 血だらけだった体は、元の綺麗な状態へと変わる。

 流石にボロボロの防具までは治せないけれど。


「これほど強力な回復魔法を……失礼、どこかの国の聖女だったのだろうか」

「あ、ううん。それよりも、さっきの……」

「そこから先は俺が説明しよう。あの魔物の名は恐らくツァトゥグァ。魔力を吸収し、自分の糧とするんだ。おまけに、その吸収した魔力の一部を魔物に変える」


 え。つまり、あいつを大きくしたのって私のせい?


「おい蓮華……」

「し、知らなかったんだよ」

「れん、げ?」

「「あ」」


 しまった。私達は今認識阻害の魔法を掛けていない。

 そして、今の強力な魔法を見せた後では、隠し通せるはずもない。

 私は帽子とサングラスをとって、挨拶をする。


「初めまして、かな。蓮華=フォン=ユグドラシルです。この国に来たのは偶然なんだけど……緊急事態のようだからね、手を貸しに来たよ」

「右に同じくってな」

「俺は友達の為だ!」


 三者三様の答えに、目をぱちくりとさせた後……彼女は表情を引き締め、言った。


「蓮華様。一生の願いがございます。ここには、奴に殺された同胞達が眠っています。彼ら、彼女らの無念を晴らすのを……」

「大丈夫、死んでまだそんなに経ってないよね?」

「え?は、はい。それはそうですが……」

「なら、魂はまだ離れていないはず。任せて。『トータルリザレクション』」


 最初に白い光が巨大な魔法陣と成って辺りを包み、その後に緑色の温かな光が降り注ぐ。


「アーネスト、少しあの魔物の相手して貰って良いか?」

「おう、任せときな。ラハーナ、お前結界得意だったよな?あの魔物の動きを封じる系の結界魔法は使えるか?」

「俺を誰だと思っている!マスターキングーのラハーナ様だぞっ!当然全種類の結界を扱える!」

「はは!なら頼りにさせて貰うぞラハーナ!」

「言われるまでもない!」


 そう言ってアーネストとラハーナちゃんは巨大な魔物へと駆けて行く。


「さて、後は体ごと食われた人達だね。こっちは治療じゃなく……時間を戻そうか。範囲指定、今生き返った人達を除く、この場で無くなった個体。『タイムリバース』!」


 場所と時間を範囲指定し、空間を戻すのではなく人を戻す。

 時の大精霊であるミラヴェルと契約を交わしているからこそ使える禁断の魔法。

 滅多に使うことは無いけれど、こういう状況で使うのは許されるはずだ。


「え……?俺、なんで……」

「俺、あいつに、食われ……」

「お前達……!」

「「「「「隊長!!」」」」」


 死んだはずの人達が生き返る。これほど喜ばしい事はないだろう。

 寿命で死んだのならいざ知らず、この人達は人々を守ろうとして死んだ。

 なら、こんな奇跡があったって良いじゃないか。


「あぁ……!蓮華様、本当に、なんとお礼を言えば良いのか……!」

「「「「「蓮華様……!?」」」」」

「そうだお前達。お前達を救ってくれたのは、他でもない蓮華様だ……!」

「成程……だから、僕も生きているんだね……納得がいったよ」

「シンジ……!お前……絶対に、絶対にさっきの事は許さないからな……!私を庇って、お前は……!」

「あ、あー……それは、許して欲しいなぁ。それよりも、蓮華様……国王陛下に変わり、フィフス王国魔道騎士団筆頭、シンジ=ゴトウが厚く感謝致します」


 そう言って、先頭に立って頭を下げた。他の皆もそれを見て、頭を下げる。

 これは何か言わないと皆動かないな……。


「気にしなくて良い……と言っても、気にするよね。なら、こうしよう。私は皆の気持ちに応えた。皆の、この国の人達を守りたいという想いが、結果として皆を助けた。そういう事だよ」


 そう言って笑う。


「聖女様……」

「いや、女神様だ……」

「女神様……!」

「「「「「女神蓮華様万歳ー!!」」」」」


 うおおおい!?皆の声が怒号のように鳴り響く。

 蓮華様蓮華様と連呼する。正直やめて欲しいんだけどぉ!


「この命、蓮華様に救われました。奴を倒す為……如何様(いかよう)にもこの命、お使いください……!」

「僕も、出来る事ならばなんでも致します……!」


 恐らく、この騎士団のリーダーなんだろうこの二人がそう言う事で、後ろの皆も騎士の誓いを胸に、こちらへ敬礼する。

 どうやら、皆の心は一つらしい。


「……分かった。皆の気持ちは受け取った。だけど、ここは私と……今もあの魔物と対峙しているアーネストとラハーナちゃんに任せて欲しい。皆は、周りに今も湧き出てる魔物を頼んで良いかな?」

「「「「「ハハッ!!」」」」」


 言うが早いか、二人が指揮を取り魔物へと当たってく。

 うん、全員の練度が高い、良い騎士団だ。


「さて、私もアーネストとラハーナちゃんに加わるとしようか」

本日二話目です。

いつも読んでくれてありがとうございます。

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