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47話.フィフス王国へ

「隊長、覚悟ぉっ!」


 純白の騎士装束に身を包んだ男が、胸や手の甲といった最低限の部位を守る防具を身につけた女へと斬りかかる。


「……」


 男の本気の一撃は、女が一歩体を横にずらすだけで容易く避けられた。


「くっ!?」

「隙だらけだ」


 ガツンと肩に一撃を入れられた男は、そのまま膝を折り降参の手を上げる。


「参りました、隊長」

「ああ。次、名乗れ」

「第三騎士団所属、マウアー!参りますっ!」


 女はマウアーを一目見た後、剣を向ける。


「うぉぉぉっ!」


 マウアーは気圧されながらも女に斬りかかるが、やはり体を一歩横にずらし避けられた後、一撃を受けて降参した。


「先の戦いで何を見ていた、マウアー。同じ轍を踏むな馬鹿者」

「も、申し訳ありませんっ!」

「戦場では次は無いかもしれない。気をつけろ、次」


 そうして騎士団の修練は続く。

 ここ、フィフス王国では騎士団は大きく分けて二つに分類されている。

 一つは剣やオーラといった、近接戦闘を主体として戦う百夜騎士団。

 そしてもう一つが、魔法ではなく魔術を主体に戦う、魔道騎士団である。


「隊長っ!緊急事態ですっ!」


 そんな折、百夜騎士団隊長であり、インペリアルナイトの一人、ネメシス=ゼロ=アンダーグラウンドの元へ急報が入る。


「どうした」


 ネメシスはたった今相手をしていた騎士達に訓練を続けるように目配せをし、慌てた様子で駆けてきた兵士へと視線を向け問いかける。


「ま、魔物の変異種がっ……更に進化し、魔道騎士団が壊滅しました……!」

「なんだと……?」


 ここで初めて、驚きの表情へと変えるネメシス。


「あのシンジが、敗れたというのか?」


 シンジとは、フィフス王国魔道騎士団筆頭魔導士の事である。

 ネメシスとは旧知の仲で、互いに認め合う存在だった。

 それ故に、シンジの実力をネメシスはよく知っている。

 魔物程度に後れを取るとは思えなかった。


「お前達、一分で支度しろ。討伐戦だ」

「「「「「ハハッ!」」」」」


 訓練をしていた騎士達へと、控えていた魔導士達が回復術を掛ける。傷を癒す魔術ではなく、疲労を回復する術だ。


「よく知らせてくれた。私達はこのままシンジ達の救援へと向かう。もう一働き頼んで良いか?」


 ネメシスに見つめられた兵士は、一瞬頬を赤く染めながらも、すぐに真剣な表情で答えた。


「も、勿論ですっ!案内は任せてくださいっ!」

「頼む」


 ネメシスは兵士を指揮し、現場へと馬を走らせる。

 馬と言ってもただの馬ではない。魔術で強化され、馬の限界を超えた速度を出す事が可能だ。


「シンジ!」


 騎士団が到着した場所では、一体の巨大な魔物と、今も魔物達が増えている異常な現象が起きていた。


「ネメシス……きて、くれたのか……ぐぅぅ……」


 血だらけになっているシンジは、立っていられなくなったのか両膝を地面へとつける。

 そこへネメシスは駆け寄った。


「後は任せておけ。お前は下がっていろ」

「だ、ダメだ。あの魔物は、普通じゃない。すぐに撤退を……」

「それは出来ない。私達の後ろには、守るべき民達が居る。私達の存在意義はなんだシンジ」

「っ……。国を、守る事……人は城、人は石垣、人は国……」

「そうだ。国を守るとは、ひとえに人を守るという事。故に、私達はこの命に代えても下がるわけにはいかない」

「……分かった。僕は、ネメシスと共に死ねるのなら、未練はないよ」

「生憎と、死ぬつもりは無い。死に逃げるなシンジ。共に、勝つぞ」

「……そう、だね。ネメシス、奴は魔力を食う。そして食った傍から、魔物を呼び出す」

「!!」


 シンジは苦渋に満ちた顔でネメシスへと告げる。それは、自身の魔力がこの事態を引き起こしたと思っているからだった。


「最初から、ネメシスに任せておけば、ここまで被害は大きくならなかったかもしれない……すまない、ネメシス……」


 そう言うシンジへ、ネメシスは口をぎゅっと閉じた。

 ただ、その剣を魔物へと向ける。

 そうして、その口が開かれる。


「だが、お前が耐えなければ、魔物は国へと到達していた。お前が時間を稼いだおかげで、私達は間に合った」

「!!」

「お前の想いは、私達が引き継ぐ。国王陛下から賜りし宝剣、今こそ使おう。私に続けっ!」

「「「「「おおおおおっ!」」」」」



 これは、蓮華達がフィフス王国へと入国するほんの少し前の時間。




「よし、これで変装完了」

「おー、意外と蓮華に見えないもんだな」


 今私達は、フィフス王国へ行く為に変装していた。

 ゼウスの先遣隊がどこに居るか分からない為、変装する必要があるからだ。

 普段なら認識阻害の魔法を使えば良いだけなんだけど、ラハーナちゃんが住む家の賃貸の契約だったり、認識に齟齬が生まれるのは良くない。

 なので、要所では私達の素性を明かす必要もあるし、それなら変装しようとなったのだ。


「アーネストもその恰好、今どきの若者みたいだぞ?」

「それ褒めてんのか?ま、アイテムポーチのお陰でネセルもすぐに取り出せるしな」


 帽子とサングラスで顔も隠して、バッチリだ。

 ラハーナちゃんは普通に顔出しなので、周りから見ても変に思われないだろう。


「そ、その、ユグドラシル様……」


 私が名前を伝えた事で、すっかり委縮してしまっているラハーナちゃん。

 最初にあった時の尊大さはなりを潜め、ただただか弱い少女になってしまっている。


「何度も言ったけど、ユグドラシル本人ではないよ?だから、気にしなくて良いってば」

「だ、だけどっ!俺、俺!大恩あるユグドラシル様の血筋の方に、俺はなんて無礼な態度を……!」


 必死にそう言うラハーナちゃんは、本当にユグドラシルの事を尊敬していたんだろうと思う。

 だけど、私はユグドラシルじゃないし、ラハーナちゃんに対して何もしていない。


「良い、ラハーナちゃん。ユグドラシルはね、私じゃない。だから、ユグドラシルのした事は、私のした事じゃないんだ。友達、それで良いじゃないか」

「……とも、だち……」


 一瞬きょとんとした顔をした後、本当に嬉しそうな表情でそう言うのを見て、私も笑顔になる。


「そうそう、蓮華はそう言うの気にしねぇからさ。むしろ、畏まられる方が嫌がるぜ?お前は素のお前で良いんだって。まぁ、女の子集めてハーレムとかアホな事考えねぇ限り、俺からなんか言う事はねぇよ」


 そう言うアーネストに苦笑する。お前、それに王手掛けてる気がするんだけどな?最近アスモだけじゃなく、色んな人にアタックされてるのを知らないとでも思ったか?

 全部断ってるみたいだけど、月の無い夜に気をつけろよ?後、私を弾避けにするのは本当にやめろ。

 皆私の名前を出すと引き下がるからって、毎回私をダシにするんじゃないよ。

 アーネストとは家族で親友だけど、恋人になる事は絶対にない。

 むしろアスモとの仲を推したい。

 アスモが姉になるとか滅茶苦茶嬉しいんだけど。


「おい蓮華?」


 っと、考えていたらぼけっとしていたようで、アーネストが首を傾げている。


「それじゃ、そろそろ行こうか」

「おう!」

「分かった!その、色々迷惑かけてごめ……」

「そう言うの無しだよラハーナちゃん。友達なんだから、迷惑を掛けて良いんだ。そりゃあからさまな迷惑を掛けてくるのはどうかと思うけど、そんな事ラハーナちゃんはしないでしょ?」

「!!も、勿論だっ!俺は、受けた恩は必ず返す!この世界のこの時代で生きてく道を見つけたら……必ず蓮華の力に成る!」


 そう言うラハーナちゃんに笑顔を向けると、ラハーナちゃんも笑ってくれた。


「おい、俺は?」

「アーネストは何もしてないじゃないか」

「なにぃ!?」

「なんだ!?」


 おおぅ……ラハーナちゃんはアーネストとは相性が良くないみたいだ。

 苦笑しながら、いがみ合う二人を見守るのだった。

読んでくれてありがとうございます。

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