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46話.どの国へ移住するか

「おや?早かったですねアーネスト、蓮華」


 私達が帰ってきた事をいち早く察知した兄さんが、こちらを向いて微笑みながら話しかけてきた。

 『ただいま』と言いながら、兄さんの傍へと行く。


 兄さんの手には如雨露(じょうろ)があって、花へと水やりをしているようだった。


 以前、兄さんなら魔法で一瞬で出来るのに、そうしない理由を聞くと……私がそうしてたからって言われて赤面させられた。

 アーネストにからかわれたので魔法をお見舞いした後、『本当の理由は?』と問いただすと、『それが本当の理由なんですが……』と言いながらも『あえて言うのならば、時間に縛られていませんからね。私には寿命が無い。だから、他の生物達のように限られた生の時間を大切にする為の効率を追い求める必要もないわけです』と真顔で言った後、『それにやはり私は、蓮華のやっているようにやりたいのですよ』と笑顔で言うものだから、また顔に熱を感じた。


 非効率ながらも、その時間を楽しんでると言うのであれば無駄ではない時間だと思う。


「二人が帰ってきたのなら、お茶を入れましょうか。冷たい方が良いですか?」

「うん、兄さん」

「俺も!そんで兄貴、兄貴なら気付いてるよな?」


 私もいつ言おうかと思っていた事を、アーネストがさらりと聞いた。


「気付いているとは?」


 兄さんがはて?と首を傾げる。イケメンが何をやっても許される理由を垣間見た気がした。


「いや、もう一人居るじゃない、兄さん」

「そうそう」


 アーネストが相槌をうちながら、後ろへと視線を向ける。


「うおっ!こいつ立ったまま気絶してるぞ蓮華!」

「えぇっ!?」


 なんと、ラハーナちゃんの方を見れば、白目をむいて立っていた。

 凄い、立ったまま気絶って出来るものなんだ。


「アーネスト、蓮華」

「「は、はいっ!」」


 兄さんが真面目な声で名前を呼ぶので、背筋を伸ばして返事をしてしまった。


「またペットを拾ってきたのですか?」

「「……」」

「やれやれ、ちゃんと世話をするのですよ?」

「「ペットじゃないからっ!!」」


 真面目な顔してなんて事を言うのかこの兄は。

 どう見ても人型してるでしょうに。


 とりあえず気絶したラハーナちゃんをリビングへと運び、ソファーに寝転ばせた後、母さんも呼んで事情を説明する。

 大体の説明が済んだ所で、タイミングよくラハーナちゃんが目を覚ました。


「うぅん……こ、ここは……俺は確か、同志と出会って……」

「目が覚めたんだねラハーナちゃん。それと同志じゃないから」


 一応ちゃんと否定しておく。私が感じた通りの事を思ってて悲しい。

 ラハーナちゃんが私、そしてアーネストへと視線を移動させ、兄さんを見て固まる。


「ぎ……」

「ぎ?」

「ぎいぃやぁぁぁぁっ!で、ででででたぁぁぁぁぁっ!?」


 ラハーナちゃんがかつてない程の驚きようで大声を上げたので、敵でも出たのかと周りを見渡す。

 けれど、別に何の異常もない。

 視線をラハーナちゃんへと戻す。


「ろ、ろろろロキ様まままま……」


 ガタガタと震えるラハーナちゃん。ああ成程、兄さんを見て怯えてるのか。


「ええと……大丈夫だよラハーナちゃん」

「な、何を悠長な事を言っているのだ蓮華!にげ、逃げないと……!こ、殺されるぞ……!?」


 視線を兄さんへと向けると、やれやれと言った感じでラハーナちゃんの前に移動した。


「ヒッ!?」


 声にならない声をあげるラハーナちゃんは、顔色が青くなっている。

 そんなに怖いんだろうか……。


「ラハーナと言いましたか」

「は、はひっ!」

「今は貴女が生きていた頃から、約一万年の時が過ぎた後の世界です。時代は変わり、戦争は終わりを告げています。よって、私が無駄な殺生をする事もありません。()()()()()()()のと同じように、今回も見逃してあげますよ」

「っっっ!?」


 ちなみに、兄さんは覚えていたわけじゃない。

 ラハーナちゃんが起きるまでに説明した事で知ったのだ。

 だって話をしても『そんな者いちいち覚えていませんね』と言っていたので。


 それを知る由もないラハーナちゃんは、今もいっそ不憫なくらいにガタガタと震えている。


「ええと……それでねラハーナちゃん。もう言っちゃうけど、私の本名は蓮華=フォン=ユグドラシルって言って、ユグドラシルの……ええと、生まれ変わりなんだ」

「う”ぇ”!?……きゅう」

「ラハーナちゃん!?」


 人間、いっぱいいっぱいになると気絶しちゃうものなんだなぁと思った。


 それからラハーナちゃんが目覚めるまでの間に、『私が居るのは刺激が強いでしょうから、後は任せますよアーネスト、蓮華』と言って、兄さんは部屋へと戻った。

 母さんも今回は我関せずを貫くようで、『二人の好きにして良いよ』って優しく微笑んで言ってから、外へと出て行った。

 多分あの場所を確認に行ったんだと思う。


「兄貴が敵だったらとか考えたくもねぇな。恐怖するのも分かる気がするぜ」


 とアーネストはしみじみと言う。そんな起こりえない事は考えるだけ無駄だ。


「兄さんが敵になんてなるわけないだろ。それよりアーネスト、ラハーナちゃんが合いそうな国、どっかないかな?」

「ラハーナの合いそうな国ねぇ……なんつーか、研究馬鹿っぽいし、錬金術が得意なら……フィフスとかどうだ。至る所に魔法陣があって、魔術師の国って感じだったぜ?」


 フィフス王国。時計で言うと五の位置にある国。

 私がまだ行った事の無い国だ。


「へぇ……私まだ行った事ないんだけどさ、アーネストは行った事あるなら案内頼んで良いか?」

「おう!任せとけよ。ラハーナの目が覚めたら、早速行こうぜ。家も探さないとだしな」


 ラハーナちゃんが気を失っている間に、トントンと話が進んでいく。

 まぁ家が決まらない間は、うちで泊ればいいし。

 兄さんが居るこの家で、ラハーナちゃんが大丈夫かどうかは別として。

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