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44話.ラハーナの話

 衣服をちゃんと着たマスターキングーちゃんは、元が整った顔をしていたのもあって、凄い美少女で可愛くなった。


「うげぇ、ヒラヒラしてなんかスースーする……こんなの履かない方が良くないか?」


 スカートなので、そこは我慢して欲しい。一応黒ニーソも履いているので、そんなに風を感じる事はないと思うんだけどね。


「それでマスターキングーちゃん、早速話を聞かせてもらっても良い?」

「良いけど、俺はマスターキングーって名前じゃないぞ。俺の名はラハーナ。マスターキングーは、魔法を極めし者に贈られる称号で、俺はそう呼ばれてたってだけだ」


 マスターキングーちゃん改めラハーナちゃんは胸を張ってそう言った。相変わらずの平らな胸なので、そっと視線を逸らす。


「へぇ、お前も昔は強かったのか」

「今も強いわっ!転生前の力はそのまま使えるように設定したんだからなっ!お前らの力が出鱈目(でたらめ)すぎるんだよっ!昔の神々でもそんな力は無かったぞ!」


 そこだ。そこの話が聞きたいんだ。


「ラハーナちゃん、そこら辺の事、詳しく聞きたいんだ。どうして神々と戦う事になったの?人間同士で戦ってただけじゃないの?」

「ああ、それは……」


 それからラハーナちゃんが語った話。

 一万年と少し前、魔法を使えない者達は、人間、亜人問わず迫害されていたらしい。

 魔法を使える者達が魔法を使えない者達を見下し、奴隷のように扱っていたという。


 土地に作物は育たず、限りある資源は魔法を使える者達が独占する。

 魔法を使える者達は大地を一時的に実らせ食物を得るが、それでも限りがある為魔法を使えない者達から搾取していたそうだ。


 その環境に耐え切れず、魔法を使えない者達は反乱を起こした。

 魔法を使える者達よりも魔法を使えない者達の方が数が多かった為、戦力は互角だったが……その為に戦いは長引いた。

 何年も土地の奪い合い、食料の奪い合いが続いたある日、神々が降り立ったという。


 魔法の使えない者達の陣営と、魔法の使える者達の陣営、それぞれにだ。

 そして、魔法の使えない陣営に味方した側の最高神が、ユグドラシル。

 魔法の使える陣営に味方した側の最高神が、ロキ。

 それぞれの陣営を使い、正に神々の遊戯とも言える戦いになったそうだ。


 ユグドラシル側の陣営は守りに特化しており、反対にロキ側の陣営は攻めに特化していた。

 ここでも戦いは膠着状態となった。

 魔法を使えない者達を守りながら巧みに陣営を扱うユグドラシルに、ロキ側の陣営は攻めあぐねていた。

 しかし、その膠着状態を破ったのが、ロキ側だった。


 ユグドラシルが指導した事で扱えるようになった魔法を防ぐ結界魔道具を、ロキ側の陣営が打ち破ったのだ。

 単純な戦力では魔法が使えるロキ側が有利。

 その魔法を防いでいたからこそ、ユグドラシル側の陣営は戦う事が出来ていた。


 そして戦いの情勢が傾くかと思われたその時に、ユグドラシルが単騎で戦いの中央へと飛び出た。

 全員が身動きが取れない程に、その姿は神々しく……美しかった。

 ユグドラシルが手を翳すと同時に、凄まじい魔力が地上全てを覆った。

 その魔力は、全ての魔法を打ち消す退魔結界として大地を囲ったそうだ。


 魔法を扱えなくなった魔法を使える者達との情勢はまた傾いた。

 しかし、ロキがそれに何の手も打たないはずもなく、全体を覆うユグドラシルの魔力に対して、局所的な部分を魔法を扱える地として形成し、陣営を動かした。


 こうして、両陣営の戦いは激しくなっていったのだそうだ。


「どうしてユグドラシルと(にい)……ロキは、戦ってたの?」

「知らないさ。そんなの、俺が知りたいくらいだ。で、俺はそのロキ様側の陣営で戦ってたんだけど、色々あって……ユグドラシル様側についた。今まで味方だった奴らと戦うのは気が引けたけど……ユグドラシル様は守る事を優先してたんだ。ロキ様は、敵だけでなく味方も……関係なく、殺そうとしてたのを感じててさ。だから……俺は、ユグドラシル様につく事にした」

「「……」」


 ラハーナちゃんが嘘を言っているとは思っていない。

 だけど、今の兄さんしか知らない私達には、その事実は重く感じる。

 兄さんは兄さんだ、それは変わらない。だけど、話に聞く兄さんが、今の兄さんに結びつかない。

 私達が無言になったのに首を傾げながらも、話を続けるラハーナちゃん。


「戦いは膠着状態だった。俺はユグドラシル様の陣営で、いつしかマスターキングー……魔法を極めし者と呼ばれるようになった。まぁ、俺は天才だからな。戦果を上げ続けてたし、俺に勝てる奴なんて居なかった。だけど……ある時、ロキ様と対峙したんだ。……怖かった。恐ろしかった。対峙しただけで……あ、俺死んだって思ったよ。だけど、ロキ様は俺を見逃した。いや、相手にもされてなかったんだろうけど。それで、思い知ったのさ。あれは、人間がどうにかできる相手じゃないってさ。それからはもう、この時代で生きたくないと必死だった。未来なら、神々もきっと飽きて居ないはずだって思って。だから、俺は転生の秘術について学んだ。恐れ多くも、ユグドラシル様にも質問した。そしたら、ユグドラシル様は快く教えてくれたんだ」


 色々と口を挟みたい事が多いけど……今は黙って聞いておく事にした。

 ユグドラシル、それって気軽に教えて良い魔法じゃないと思うんですけどー!


「この場所はどちらの陣営からも遠く、目立たない。だから、地下に魔道施設を作った。そして……秘術に時間設定をして、その時間に近づけば俺という存在を創りだすように。ただ、何もない所に生み出す事は出来ないから、中身は空のこのカプセルを作った。時間が近づけば、俺の身体が生成されるように術式を組んだ。後は、賭けだったけどな……流石に一万年も後に、この場所がそのまま残ってる確率は低い。街が出来ていれば俺という存在はそのまま消えるし、海になっていても同じ。この場所がこのままだという限定条件だったからな」


 成程……この場所はユグドラシル領内だ。だから、人の手が入っていない……偶々だと思うけど、それが結果的に転生の成功に手を貸した事になったのか。


「まぁ、体が多少若返っているのは転生の後遺症だと思う。俺はこんなに小さくなかったし……」

「そっか、話してくれてありがとう。まだまだ聞きたい事はあるけど……とりあえずこんな所で良いよ。ラハーナちゃんは、これからどうしたい?」

「俺は、この時代がどんな風になってるのか見てみたい。後は……気に入った女の子と一緒に、のんびり暮らしたい。戦いとかもうゴメンなんだ」

「そっか。ならとりあえず、うちに来る?その後、地上を見て住む所を決めたら良いんじゃないかな」

「おい蓮華、良いのか?」


 ラハーナちゃんが答えるよりも速く、アーネストが言ってきた。


「うん。長く住ませるわけじゃないよ?」

「いやそうじゃなくて……こいつ、兄貴見たら気絶するんじゃねぇか?」

「あ……」

「うん?」


 きょとんとしているラハーナちゃんに、なんて言ったものか。


「まぁ、なんとかなるでしょ」

「お前な……」


 呆れるアーネストをよそに、ラハーナちゃんを見る。


「……それじゃ、お願いしても良いか?俺、この時代じゃ当ても何もないし……恩は必ず返す」

「あはは。良いよ、そんな事。さて、それじゃ約束通り、その魅了の力は封印させて貰うね?」

「わ、分かった。その、痛くしないでくれよ……?」

「はいはい」


 強気なラハーナちゃんが、コロコロと態度が変わるのが面白かった。

いつも読んでくれてありがとうございます。

神魔大戦の詳しい話は、スローライフ編ではなく、他の章で書けたらなと思っております。

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