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43話.神代の転生者②

「ハーハッハッハッ……は?」


 ずっと上を向いて高笑いしていた彼が、不意に視線を下へと向け……目が合った。

 そして尻餅(しりもち)をつきながら、後方の壁へとぶつかる。

 お尻、痛くないんだろうか。


「ゆ、ユグググ……ユグドラシル様ぁっ!?な、何故一万年も後の世界でもこんな地上にぃっ!?」


 私を見て、酷く怯えている彼は、私をユグドラシルと勘違いしているようだ。

 気になる単語も出た事だし、意思疎通が出来るなら対話を試みてみよう。


「初めまして。私は蓮華。こっちがアーネスト。君の名を聞いても良いかな?」


 フルネームを言うと混乱させてしまいそうなので、名だけを名乗る。

 すると彼は幾分か落ち着いたのか、最初の高笑いしていた時のような尊大さで話掛けてきた。


「そうか、そうだよな。あのユグドラシル様が地上に今も居るわけがない。ハハハッ!しかし、そうと分かれば……うむ、良いな。蓮華と言ったか、お前は俺の嫁にしてやろう。そのユグドラシル様に似た美しさ……とても良い!」


 こんな礼儀のなっていない人物に会うのは久しぶりな気がする。

 勿論一人目はゼクンドゥスだ。


「お断りだよ。今出会ったばかりの人の妻になる気なんてないよ」

「安心しろ。すぐにその気になる。我が右目に宿りし力よ、我が魅力の虜にせよ!『チャームブラスト』」


 ピンク色の光が私へと放たれる。とりあえず危険な気配も感じなかったので受けたけど、これが何だと言うのか。

 まぁ名前的に、何をしようとしたのかは分かるけどね。


「ハーハッハッ!これでもうお前は俺のものだ!クククッ……我が才能が有能過ぎて辛い。まずはこの地上を俺の物にしなければな……!」

「はぁ、とりあえずお前ぶっ飛ばすな?」

「へ?ごぶあぁっ!?」


 アーネストがすぐ傍に移動し、彼を右ストレートでぶん殴った。

 ちょっとスッとしたのは秘密だ。


「ごふっ!げほっ!な、なんだお前は!?」

「さっき蓮華から紹介受けただろうが。アーネストだ。お前の野望は聞いたからさ、この世界に有害な奴だと認定した。今なら誰もお前の存在を知らないだろうし、俺の独断でお前を消すわ」


 アーネストの本気の殺気を受け、彼はすくみ上った。なんという小物感。


「れ、れれれ蓮華!そいつを止めろっ!」

「え?嫌だよ。むしろぶっ飛ばすのに協力するつもりなんだけど」

「え!?な、何故だ!?お前は確かに俺の秘術『チャームブラスト』を直撃したはず……!」

「ああ、当たったけど効かないよあんなの。私に精神異常系の魔法は無意味なんだよね」

「なぁっ!?」


 とはいえ、それは私だからであって、何の対策もしていない人なら普通に掛かってしまうだろう。

 そうなれば、厄介な事になるのは目に見えている。

 魅了系の魔法は使い方を誤れば危険だ。

 悪意ある者が扱えば、酷い事に使われる可能性だってある。

 それこそ、こいつが今したように……好みの女性を意思を無視して手に入れようとするとかね。


 ふざけるなと言いたい。女性は男の玩具(おもちゃ)じゃない。

 そしてその逆も然りだ。自分で言っておいてあれだけど、手に入れるって言葉がすでに私は嫌いだ。


「一万年前の転生者だっけ?ご苦労様だったね、そのまま永遠に眠らせてあげるよ」

「ああ、お前を生かしててもろくな事しなさそうだからな」


 私とアーネストは刀と剣を手に取る。


「な、舐めるなよ!神にもっとも近いと言われたこの錬金魔法師であるマスターキングーの力、味わうが良い!」


 錬金術師ではなく、錬金魔法師という初めて聞く単語に興味を覚えなくもないけれど……何かをする前に斬り捨てる。

 そう思ってソウルを振るう。

 すると、何もなかった場所に結界が張られていて、刃が止まる。


「ハーハッハッハッ!この結界は魔法を扱えぬ者達が、対魔法用に創り出した対魔結界!神代の超強力なものだ!この時代がどんな時代かまだ知らないが、神魔大戦を生き抜いてきた俺の力に敵うはずが……」

「そらよぉっ!」


 パキン、と。アーネストの振るうネセルが、結界を斬る。


「へ……?」

「ご自慢の結界も、この程度かよ。こんな程度なら、何枚張ろうが無駄だぜ。蓮華の張る結界の方がよっぽど強ぇぞ」

「ば、ばか、な……!?あの大戦でどんな魔法も防いだ最強の魔法結界なんだぞ……!?」


 先程から聞く、大戦という言葉。

 この世界は、ユグドラシルが世界樹と成る前、魔法を使える者と使えない者で争っていたと書物で読んだ。

 つまり彼は、その時代を生きていた存在という事になる。


「その大戦っていうのは、まだ全員が魔法を使えない時代って事だよね?」

「!?それは、どういう……!?も、もしかして、今の時代は……全員魔法が使えると言うのか!?」

「あー、そっからかよ。自身に内包してる魔力を使える奴は魔法が使えるけどよ、自身に魔力が無くても……世界に満ちてるマナを使って、ほぼ全員が魔法と同等の力のある魔術を扱えるぜ?」

「なっ……!?」


 彼は凄く驚いたようで、座り込んでしまった。


「そんな……一体、何があったと言うんだ?あの大戦が終わって、神々は地上を見捨てたのではないのか?魔法の使えない者達が生き残った後の世界なら、魔法の使える俺が称賛されて、ウハウハな人生を送れると思ったのに……どうなってるんだよ……」


 うん、心の声が駄々洩れのお陰で、なんとなく理解できたけれど。

 つまり、彼は神魔大戦の最中、未来へと逃げてきたって事なんだろう。

 色々と聞きたい事はあるけど……さて、どうしようか。このまま彼を消して良いものかどうか。

 その時代の生き証人の話を聞けるまたとない機会でもある。


「さて、心残りは終わったか?お前は今から死ぬんだから、何も考えなくて良いぜ?大丈夫だ、今はまだ蓮華を操ろうとしたってだけの……いやそう考えたら死罪(ギルティ)だな。アリスだって兄貴だって母さんだってそう言うはずだ。よし、死ね」

「ひぃっ!?」


 何の躊躇いもなく斬ろうとするアーネストを、私はつい止めてしまった。


「なんで邪魔すんだよ蓮華。こいつ、お前を……」

「あー、うん。その……興味の方が勝っちゃったというか……」


 そう言うと、アーネストは溜息をつきながら、『お前はホント……』って言いつつ、ネセルを仕舞ってくれた。


「ねぇマスターキングー君。神魔大戦の時代の話、良かったら聞かせてくれないかな?」

「そ、それを話したら殺さないか?」

「うーん、そうだね。それと同時に、その魅了の力を封じる事に応じるなら……かな。私には効かないけど、無理やり女性に言う事を聞かせるような魔法を平気で使うのは良くないからね」

「わ、分かった。俺は可愛い女の子と一緒に、楽しく暮らしたいだけだったんだけどな……俺も女だし、いかがわしい事したいわけじゃないし……」

「「え?」」


 私とアーネストは、視線を胸へと移す。

 うん、ぺったんこだ。膨らみすらない、平らな胸。

 だからこそ、男性だと判断したんだけど。それに、俺って言ってるし……いや、女性でも俺って言う人居るけども。


「ぐっ……確かに俺は胸が無いけど!でも、下だって何もついてねぇだろ!?」


 そう言って、恥ずかしげもなく下半身を晒す。


「アーネスト!」

「み、見てねぇよ!」


 すぐに横を向いたアーネストを確認し、アイテムポーチから服を出す。


「と、とりあえず、服を着ようか。君が女性な事は分かったから」

「なんか納得いかないけど、分かった」


 そう言ってもそもそと着替えるマスターキングー君、じゃなくて、キングーちゃんを見て、溜息をつく私だった。

読了ありがとうございました。

マスターキングーは見た目が幼い為、ちゃん呼びな蓮華でした。

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