40話.プラモデル
全国生放送を終えた後、母さんと兄さんが魔法で地上全体を調べてくれた所、ゼウスの先遣隊はまだ地上に降りていない事が判明してホッと一息入れる事が出来た。
今回は仕方ないけれど、もし何かあるのなら事前に相談するように、とやんわりと諭された。
私やアーネストの事を思って言ってくれているので、謝罪と礼を伝えたら笑ってくれた。
その翌日、毎日修行するのも精神的によろしくないとの事で、今日は遊ぶ事にした。
アーネストが言っていたように、ユグドラシル領を探検するのも悪くない。
そんな事を考えていたら、アーネストが予想外な事を言い出した。
「なぁ蓮華、今日はプラモ作らねぇ?ガキの頃よく作ってたじゃん?」
「プラモって、ガンダムとかそういう?」
「そうそう」
子供の頃に作ったプラモデルは、簡単に組み立てられる物だった。
大人になってからは、その作ったプラモデルに色を塗ったりしてたなぁ。
「この世界にプラモデルとかあるの?」
「あるぞ。バニラおばあちゃんに頼んだらすぐに製品化してくれたからな。試作品は全部俺のアイテムポーチに入ってんだよ」
そんな事初めて知ったよ。笑顔で請け負ってるバニラおばあちゃんが目に浮かぶ。
「成程。最近アニメが放映されるようになったし、それ関係もプラモデルにしたのか?」
「あー、そっちはフィギュアとかだな。変身ヒーロー物はベルトとかグッズ化してんだぜ?」
どうやら、私が知らない間に随分とこの世界は元の世界と同じような娯楽が増えているようだ。
転生者が多いこの世界だからこそ、元の世界に似た知識は広がりやすいのかもしれない。
「お前、まさかとは思うけど、明先輩とか巻き込んでないだろうな?」
明先輩は私達と同じ元日本人だ。私達は転移者で、明先輩は転生者という違いはあるけど、生まれは同じ時代。
「あー、春花ちゃんがプリキュアが好きだったらしくてさ。内容も全部覚えてるらしくて、それを全部書き出してくれてな?アニメ化決定したらしいぞ」
何をやっているのか。いや、娯楽を普及するのは良いと思うけど!著作権も何もないからね、問題にはならないし……転生者で知っている人は懐かしさを感じる人だって居るだろうけれど。
「私の知らない所で色々やってるみたいだけど、やりすぎないようにしろよ?ユグオンでの事もあったんだから」
「分かってるって。でもよ……魔法が使えるこの世界でも、元の世界のファンタジー物語の人気があるのは意外だったぜ」
確かに元の世界で剣と魔法の世界に人気があったのは、現実ではあり得ない事を物語に登場するキャラクター達が体験していく事に、胸を躍らせた人が多かったからだろう。
僕も私も、その世界なら自由に生きられるのに……と物語に入れ込んでいくんだ。
けれどこの世界では、魔法が使えるのが現実だ。
様々な種族が居て、人間だけじゃない。元の世界では道具が使えるからこそ、人間は他の動物よりも強かった。
けれどこの世界では、道具に限らず魔力が存在する為、見た目で強さは判断できない。
赤子でありながら大人より強いなんて場合もあるのだから。
「よっと」
ドサドサドサッという音と共に、長方形の箱が部屋に四散する。ちょっと多いと思うんだけど。
「色んなの貰ったからさ、これでもまだ一部なんだぜ?」
「なんか見た事あるのもあるな。あ、これウイングガンダムだ」
翼があるガンダムの名前で、羽が背中についていて、天使のように見える綺麗なプラモデルだ。
箱には色がついた完成版が描かれているけれど、中身はそうじゃなかった気がする。
「へへ、懐かしいだろ。道具もちゃんと用意してあるぜ?ニッパーにデザインナイフ、ピンセットにヤスリ、カッティングマット……」
アイテムポーチから次々と道具を出してくるアーネスト。お前は猫型ロボットか。
「そうだアーネスト。こんなにあるなら、大精霊の皆で手分けして作らないか?」
アイテムポーチから色々と取り出していたアーネストの手がピタリと止まる。
「おお!それも良いな!場所はどうする?」
「皆の家に行こう。入ってすぐの場所は広いし、そこで皆で作らないか?」
「良いな!そうすっか!アリスも一応誘っとくか?」
「一応じゃなくて誘うに決まってるだろ。ユグオン優先するならそれで良いんだし。どちらにせよ誘わなかったなんて後で知られたら、恐ろしい事になるぞ……」
「お、恐ろしい事?」
アーネストがゴクリと唾を飲み込む。
「ああ。涙目でじーっと見つめ続けられる」
「……。……うおぉっ!想像したらいたたまれねぇっ!」
「だろ?だからどちらにしても、誘うぞ」
「了解だぜ」
そうしてアリス姉さんの部屋に行ったら、「やるっ!」って一秒で返事をしたよ。
凄く良い笑顔だったので、誘って良かったと思う。
……この時、私とアーネストは大事な事を忘れていた事に、後で気付く。
それから大精霊の皆が居る家へと向かう。
途中でアテナとクロノスさんに出会ったので、一応誘ってみたけれど
「ああ、私は遠慮しておく。その……壊してしまう気がするんだ」
と苦笑しながら言うので、何も言えなかった。
アリス姉さんは、今ではかなり手加減を出来るようになっているのだけど。
そして大精霊の皆に集まってもらい、アーネストが再度長方形の箱をドバっと四散させる。
で、試しに一つ、アーネストが作る事にした。
パチッパチッとニッパーで部品を切り取り、部品と部品を組み合わせてパーツが出来上がっていく。
「「「「「おお~」」」」」
大精霊の皆が感嘆している姿は、とても微笑ましかった。
その後完成したプラモデルを、今度は私が塗装していく。
「蓮華ちゃん~!この箱と同じ色にするのじゃ~!?」
アマテラスが目を輝かせながら言ってくるので、頷く。
「そうだよ。でも、色は好きに塗って良いんだよ。箱と同じ色にするのがオーソドックスだけど、自分の好きなようにするのもプラモデルの醍醐味だからね」
中にはパーツを組み替えて、全く違うプラモデルを作ったりもするし。
複数のプラモデルから、一つのプラモデルを作るなんて事も楽しい。
皆見た目が気に入ったプラモデルの箱を取り、箱をあける。
「レンゲ、最初どうするんだったかしら?」
セルシウスが選んだのはF91と呼ばれるガンダムのプラモデルだった。
中々渋いチョイスを。私も好きだけどね。
「えっと、まずは……」
そうして私とアーネストで皆を手伝いながら、プラモデル製作で夕方まで遊ぶのだった。
余談だけど……家に帰ったら、母さんと兄さんが落ち込んでいた。
誘う人を忘れていた事に気付き、慌てふためく私達を見て、アリス姉さんは笑っていたけれど。
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