4.地上を救ってほしい
「それで、俺達を呼んだ理由はなんなんですか?」
そう、魔術と魔法の事や、自分達がどういう存在なのかは理解できたが、肝心の理由をまだ聞いていない。
「それを話すには、まずこの世界の事を知ってもらわないといけなくなるんだけど、これがまた長くなるし……そうだ、要点だけを話そうかな。この世界というか、地上を救ってほしいんだよ」
「「要約しすぎだっ!!」」
思わず叫ぶ。
「マーガリン師匠、それは流石に……」
ロキさんも溜息を零す。
それはそうだ、よりにもよって世界、いや地上?を救ってほしいだ。
魔王でも居るのか。
「はぁ……世界を救うって、魔王でも倒すんですか?」
「なっ!?アレを倒すなんてとんでもない!」
どこかのゲームで聞いたような言葉を聞いた。
なんか大事なアイテムを捨てる時に聞こえるあれだ。
「いや、世界を救うって、勇者が魔王を倒すとかそんなんじゃ……」
アーネストが言う。
俺も同じ事を考えたので言わなかったが。
こういう時自分がもう一人いるって楽だな。
「ノンノン。アーちゃんとレンちゃんのイメージがどうかは知らないけど、この世界の魔王はとてもお優しい方だよ」
「「えぇぇ……」」
「うぅんとね、簡単にこの世界の地図を説明するけれど。まず私達人間や亜人、龍人等、様々な種族が多く過ごす大陸が地上と呼ばれてる。で、その大陸から海を挟んだ向こうに存在する大陸が魔界、だね」
その言葉に衝撃を受ける。
「「魔界が同じ大陸にあるの!?」」
「うん?同じ大陸じゃないよ。海の向こう側だよ?」
「いや、そういう感じじゃなくて、なんというかこう……」
そう、俺達からしたら、海の向こう側にある程度だと、同じ大陸なのだ。
なんというか、日本からアメリカ、中国、といった外国という感じで、同じ大陸というか地上というか……そう、地上だ。
「同じ地上に魔界があるんですか?魔界って、なんていうか地下にあるイメージなんですけど……」
「ああ、そういう事。えっとね、地下には冥界があるんだ。まぁ、普通には行けないけどね」
「「!?」」
もはや言葉にならなかった。
この人は今なんと言ったのか。
地下、この大陸の下に冥界がある、と。
「あと空の上には天上界があるよ。そこには天使族とかがいるね」
「「……」」
もう脳のキャパシティを超えそうである。
今日一日でパンクしそうだ。
「ふふ、まだあるんだけど……その様子だと一気に詰め込みすぎたみたいだね。今から軽く食事を作るから、ゆっくり寛いでいて。さっきまで作ってたから、仕上げだけだしそんなに時間はかからないけどね。大丈夫、ここに攻め込んでくるような敵はいないからね」
そう言って階段を降りていく。
そうか、ここは二階だったのかと気付く。
俺達も降りながら話す。
「アーネスト、理解できた?」
「まぁ、なんとなく。想像の斜め上を行ってて、正直脳が悲鳴を上げてる」
「俺も。異世界転生物、結構読んでたんだけど……実際に体験すると、凄いな」
と二人で階段を降りながら話していたら、1階についたあたりでロキさんが近づいてきた。
「お二人とも、あまり慌てられないのですね」
「いえ、これでもかなり驚いてるんですけど……」
うん、本当に。
「そうですか?こんな状況にいきなりなって、発狂したりしないかと思っていたのですか」
確かに異世界転生、召喚は憧れてたとはいえ、自分一人だったならば、不安で潰れていたかもしれない。
マーリンさんの話も全部信じられたか分からない。
でも……。
「信じられる自分がもう一人いるからですかね?なんていうか、余裕があるんですよ俺」
そう答えれた。
そして、アーネストも答える。
「俺もそうかな。まぁ見た目はすっげぇ可愛い女の子になってるけどさ。あーでも、これだけは言っておくな蓮華」
「なんだよ?」
「俺、なんかお前には欲情しないみたいだ」
「……」
「いやホントなんでだろうな?こんなに可愛いのに、普段の俺なら絶対目を逸らすような美少女なのに、ぜんっぜん、その気にならないんだ」
「そんな事わざわざ言わんでもいいわぼけぇぇぇっ!!」
ゴスゥ!!
良い音がする。
「いってぇぇ!!おま、少しは手加減しろよ!本気で痛いんだぞ!お前の力どうなってんの!?」
「知るかぁっ!!」
「あっはははは!成程、確かに貴方達二人なら、不安なんて些細なものそうだ」
ロキさんが笑顔でそう言う。
マーリンさんが来るのが見えたが、今はそっちに意識をやれなかった。
「お待たせ~。料理できたから運んじゃうね~。って、どうしたのロキ?」
「ふふ、見れば分かりますよマーガリン師匠」
「俺もお前には一切魅力を感じないから安心しろ!」
「ひっでぇ!これでも元は俺だろ!?美少女に魅力ないとか言われたら凹むだろ!?」
「むしろ自分に好かれても嬉しくないだろっ!!」
俺達のやり取りを見て、微笑むマーリンさん。
「ふふ、良いなぁこの二人」
そう、呟いていた。
椅子に座り、テーブルに並べられた食事を口に運ぶ。
「美味しい……マーリンさんは料理上手なんですね」
素直に感心したのでそう言った。
すると。
「レン……ちゃんっ!そう、そうなんだよ!私はマーリンなの!ホントレンちゃんってば良い子!」
感極まったようにマーリンさんはそう言った。
「えぇぇ……そこ?っていうか、俺三十五歳のおっさんなんですけど……」
「ノンノン、レンちゃん。元はそうでも、今は違う。認めなさい、今のレンちゃんは……」
「今の俺は……?」
「十三歳のピチピチギャルなんだから!」
「俺十三歳だったの!?」
衝撃である。
アーネストより年下なのか。
精神年齢同じなのに。
っていうかピチピチギャルって男でも言わないのに、綺麗な女性から聞いてビックリだよ。
「マーガリン師匠、話を進めてくれませんか?」
「うっ……人が良い気持ちで居たのにこの弟子は」
「それで、世界を救ってほしいという話でしたけど……具体的に、何をすれば良いんですか?」
それを聞かなければ、なんとも言えないので、まず聞いてみる事にした。
「うん。世界、というより、この地上を救ってほしいんだ。この地上は、世界樹が安定させている。けれど……後約二年後、この地上に安置されているオーブの効果が切れる。その前にオーブに力を注いで、一部のオーブを取り換えてほしいんだ」
「そのオーブが世界樹に繋がっている、という事ですか?」
「その通りだよ。樹脈、龍脈とも言われるけど、その力が集中している場所。そこにオーブが安置されているんだ。けれど、その受け皿となるオーブにも力を注がなければ、周りの力に押し潰されてしまう。そしてオーブに力を注ぐことができるのは、世界樹の力を継いだレンちゃんだけ。取り換える事ができるのも、自身の魔力が全くなく、干渉する事の無いアーちゃんだけなんだ」
「そのオーブがそのままだと、どうなるんですか?」
一番聞かなければいけない事を聞いてみる。
「地上は世界樹のマナの恩恵を受けれなくなる。この地上は魔術によって様々な恩恵を受けて生活をしているの。それが一切の支援がなくなれば……人々の生活は崩壊する」
そのあまりな事に、言葉を失った。
話はまだ続く。
「そして、人々は世界樹の近くでしか生きられなくなる。そうなるとどうなるか……まず、世界樹の場所を巡って戦争が起こるだろうね。ま、この場所の事だけど。で、その争いは次第に大きくなり、中には世界樹を無くそうとする輩も出るかもしれない。そんな血で血を洗うような事になる可能性が大だね」
「「……」」
「あくまでも可能性だよ。けれど……」
言葉を言い終わらせずに言う。
「やるよ。俺達がそれをしたら、大丈夫なんだろ?」
「……ありがとう」
そう微笑んで、言ってくれた。
「それで、そのオーブは力を注ぐ事と取り換える事をしたら、何年くらい持つんですか?」
「千年大丈夫と言われているね」
成程。
ただ、一つ気になった。
「なら、千年前のそのオーブに力を注いだ人の子孫とかって居ないんですか?」
「……レンちゃん、大事な事を伝えていなかったね。世界樹の子はね、子供を……産めないんだ。正確には、身籠れない」
「そうなんですか、それは助かります」
「軽いねレンちゃん!?」
いやだって、俺元ノーマルな男ですから。
男を好きになるとはどうしても思えなかったし。
「あー、だから俺欲情しなかったのかな?」
なんてアーネストが言ってるけど。
俺もアーネストを好きになるなんてないだろうと思う。
友としては別だけど。
「うーん。アーちゃんがなんでレンちゃんに欲情しないのかは分からないけど、多分レンちゃんが町に行ったら……」
「い、行ったら……?」
ゴクリと喉をならす。
「まず間違いなく、通り過ぎる人達は男女関わらずチラ見するんじゃないかなぁ、あはは」
「う、嬉しくない……」
「俺普通で良かったかも……」
なんてアーネストが言っているのを恨めし気に見ながら言う。
「まぁ、分かりました。それで、もう一つの疑問として、あと二年もあるなら、今から行けば良いんですか?」
「ううん、二人が今のまま行ったら、魔物に殺されてしまうかもしれないからね。一年はここで私から修行を受けてもらうよ。この世界の事も色々教えてあげたいしね」
い、一年も。
魔物もやっぱりいるんだな。
というか、残り一年になってしまうのだが、良いのだろうか。
その一年も、元の世界換算で良いんだろうか。
考え込んでいると、笑って言ってくれる。
「大丈夫大丈夫。一年もあれば、私の修行を受けた二人なら簡単に終わるよ。オーブの設置場所は六ヶ所だし、これこそが二人を召喚した理由なんだけど、オーブの半数はヒビが入っているんだ。そのまま力を付与しても、壊れるからね。だから、取り換えしか行えないのもあるんだ。その為二手に分かれて行ってもらうけれど、二人なら三か所づつだからね、余裕余裕」
「「!!」」
その言葉にハッとなってしまった。
そうか、俺達は二人一緒に行動する事しか考えていなかった。
気遣ってくれたのか、マーリンさんが穏やかな表情で言ってくれた。
「大丈夫。君達は二人とも、とても強くなれるから。この偉大なる大賢者、マーリンが保証するよ」
「ロキさん、マーリンさんて凄いんですか?」
素で聞いてしまったのは、無理もないだろう。
いや、色々と凄いのは分かるんだけどね。
俺を召喚してる事からも。
マーリンさんが心なしかしょんぼりしてる気がした。
その言葉に驚いた顔をしたロキさんだったけど。
「ええ。マーガリン師匠は本当に凄い方ですよ」
と優しく微笑んだ。
同じ男なのに、少しドキッとしてしまった。
この人はかなりイケメンだ。
さぞモテる事だろう……と思ってから、思い出した。
「そういえば、ロキさんは人間じゃないんでしたっけ」
最初の自己紹介の時に、そう言ってたんだよね。
すると、ロキさんはなんでもない事のように答えてくれた。
「ええ、私は神族ですからね」
もはや驚きを通り越して呆れるばかりである。
「あっはははは!二人の驚いた顔は面白いなぁ」
なんて言ってマーリンさんは楽しそうだったけれど。
「マーリンさんもどうせ人間じゃないんでしょ?もう驚かないですよ俺」
アーネストが言った。
俺も同意見だ。
なのに、マーリンさんが言う。
「えぇぇ……私はちょっと長生きなだけの人間だよぉ……」
「「!?」」
今日一番驚いたかもしれなかった。
「ぷっ……くくっ……!」
ロキさんがめっちゃ笑ってた。
それから、俺とアーネストの修行が始まった。