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36話.それくらい構わないよ?

 目が覚めたら自分の部屋だった。

 すぐ傍に置いてあったポッドからコップへと中身を注ぎ、飲んでみると冷えたお茶だった。

 全身に行き渡るのを感じるくらい、美味しい。


 ふとアーネストはどうしたんだろうと思い、部屋に行こうと廊下へ出た所で、アーネストと鉢合わせした。

 お互いに顔を見合わせて苦笑する。考える事は同じだった。

 それから揃って下へと降りてリビングへ入ろうとした所で、話し声が聞こえて立ち止まる。


「いてっ!?急に止まるなよ蓮華……」


 恨みがましい目で見てくるアーネストへ、指先をちょいちょいとリビングへと向ける。

 アーネストは私の頭の上から覗き込むようにリビングを見た。

 おい、いくら私より背がちょっと高くなったからって、そういう見方をするんじゃない。


「母さんと兄貴に、アテナとクロノスか?なんか深刻そうな顔してんな」

「うん。何があったんだろう?」


 なんとなくその場に足を踏み入れにくく感じたので、そのまま聴覚を強化して会話を聞こうとする。

 しかし会話の内容が聞きとれない!文字化けした言葉を読んでいるかのように聞こえて、全く分からない。


「ぐぅ、結界が張ってある。家の中なのに厳重な……」

「ユグドラシル領全域に高度な結界張ってあって、まず入れねぇのにな……多分、癖だろこれ……」


 アーネストと一緒に溜息をつく。

 もうらちがあかないので、そのまま入る事にした。


「「「!!」」」


 クロノスさんは苦笑しながら礼をするけど、母さん達は気付いていなかったのか、驚いた表情をしていた。

 珍しい。よっぽどの事があったんだろうか。


「おはようって言うのもあれだけど、目が覚めたよ」

「ったく、本気でガードして気絶させるとかどんだけだよアテナ」


 アテナは苦笑しつつ、真ん中に座っていた場所から端へと寄って、手をポンポンとソファーに置いた。

 隣に座れって事だろう。アーネストと顔を見合わせてから、私達もソファーに座る。左側に私、真ん中にアーネスト、右側にアテナの順だ。

 クロノスさんはアテナの後ろで立っている。この人、いや神か。この神が座っている所を見た事がないんだけども。

 偉い神様だと聞いたけど、何故に従者のような真似をしているんだろう。


「ほら、言いなさいよロキ」

「いやいや、マーガリンこそ……」


 考え事をしていたら、母さんと兄さんが肘でつつき合いながら何か小声で話している。

 アテナを見れば、額に手を当てて溜息をついていた。


「「?」」


 私とアーネストは何が何やら分からないので、静かに待つ事にした。

 二人をじっと見ていると、視線に気づいたのか……突然立ち上がり、座っていたソファーを後ろへ蹴り飛ばした。

 ガンッ!という音ともに、壁へと衝突する。

 いや何してるの?って思うよりも先に、母さんと兄さんが正座したのでそっちの衝撃の方が大きい。


「か、母さん?」

「兄貴?」

「アーネスト、蓮華……!」

「ごめんなさいっ!本当にごめんなさいっ!申し訳ないんだけど、しばらくユグドラシル領から出ないで欲しいの!」


 なんだ、そんな事か。二人が深刻な顔してるから、一体何事かと思ったよ。


「うん、良いよ」

「あいよ。ならしばらくは家で遊ぶか蓮華」

「そうだな」

「え……?」

「い、良いのですかアーネスト、蓮華」


 二人が拍子抜けというか、驚いた表情でこちらを見てくる。二人のこんな姿、久しぶりだななんて思いながら。


「それくらい構わないよ?母さんと兄さんが何の意味もなくそんな事言うわけないし」

「そうそう。どうせ俺達の為なんだろ?ま、別に家でも仲間達に連絡は取れるし、ユグドラシル領は他の国より広いわけだし、探検するのも悪くねぇよな蓮華」

「あ、それ良いな。確かに、家の周りは色々と見て周ったけど……他国に近くなる所はまだ行った事なかったし」


 なんてアーネストと話していると、アテナが笑い出した。


「はは。良い信頼関係を結んでるなロキ、マーガリン。心配する事なかったじゃないか」

「そうですね……では理由も話しましょう。二人は知っておく必要があるでしょう」

「ロキ!別にこんな事知らなくても……!」

「いいえマーガリン。これは避けては通れない問題なのですよ。今は凌げるかもしれない、けれどいずれ直面する。その時に、知っているのと知らないでいるのとでは大きな差が生まれるでしょう」

「それは……」


 何の事を言っているのかは分からない。

 けれど、兄さんは私達の事を思って、知らせようとしている事。

 母さんは私達の事を思って、知らないで済むなら知らないで良いと思ってくれている事。

 それだけは分かる。


「良いんだ母さん、ありがとう。でも、私は、私達は……知らないでいるより、知っていたい」

「おう。俺もそうだぜ。何か問題があるなら、知っておいた方が対策が取れるし心構えも出来るしよ」


 そんな私達の言葉に、母さんと兄さんは笑った。

 吹き飛ばしたソファーを元の位置に戻し、そこに腰かけてから、ゆっくりと理由を話してくれた。


 天上界の至上神ゼウスが、ユグドラシル……いや、その化身である私を狙っている事。

 また同じ魂を持つアーネストもその際に狙われる可能性が高い事。

 それらを順に話してくれた。

 そして、ユグドラシル領内であれば、他の神が来ても隠す事が可能で、居場所を知られる事もないようで。

 今回は偵察を主にした先遣隊が派遣されるから、恐らく何も情報を得られずに帰るだろうとの事だった。


 そこまで聞いて、やっと兄さんの言っている意味が分かった。

 確かに、今を凌ぐならユグドラシル領内で生活を送っていれば大丈夫だろう。

 けれど今回の情報が届いたのと同じように、いつ知られるか分からない。

 問題の先送りでしかないんだ。

 だからこそ、見つかった時の為に……私達は神々に対抗できる力をつけなければならないという事。


 そうか、だからアテナは本気の一撃を私達に放ったのか。

 今の力量差を覚えさせる為に。


「アーネスト、ユグドラシル領を探検しながらさ、特訓しないか?」

「お、またなんか面白い事考えたな?付き合うぜ」

「お前ならそう言ってくれると思ってたよ。それでね、母さんと兄さん、それにアテナにも協力してほしいんだけど……」

「もっちろん!私ならいつでも大歓迎だよ!」

「ええ、二人の力になれるなら、なんでもしましょう」

「ああ、構わないぞ。むしろ今回の事を防げなかった負い目もあるからな」


 母さんと兄さんはいつも通り、喜んで協力してくれる。

 アテナも、別にそれはアテナのせいじゃないし、むしろ私達の為に隠れて守ってくれていた事に感謝しかないのに、そんな事を言う。

 でもそれを伝えても、きっとアテナは言葉通りに受け取らない。

 だから、後でこちらから礼を返していこう。

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