35話.ゼウスの先遣隊
蓮華とアーネストをベッドへと運んだ後、リビングに集まった四神。
一人は魔法使いのローブを身に纏う、この世界で知らぬ者は居ない氷の大魔女、マーガリン。
その横に座っているのは、かつて厄災の獣を解き放ち、世界を壊そうとした美しき神、ロキ。
そして対面で腕を組んでいる、かのユグドラシルをして戦いたくない神と言わしめた、女神アテナ。
後ろに控えている神は、最上位と呼ばれる神の父とも呼ばれる神、クロノス。
他の神々ですら驚愕するようなメンツが集まっていた。
「ゼウスの先遣隊が地上に降りてくる、と?」
「ああ。ロキも知っていると思うが、パパの本隊にはオリュンポス十二神と呼ばれる最強の軍団がある」
「アテナもそのうちの一神ですからね、勿論知っていますとも」
「……」
ロキにそう返され、口ごもるアテナ。
見かねたクロノスが、紅茶をテーブルに置いた。
「どうぞアテナ様。お二人も」
「ええ、ありがとう」
「私は結構」
マーガリンは微笑で受け取り、口をつける。
ロキは受け取らず、腕を組んだままだった。
少し喉を潤した後マーガリンは確認の為名前を挙げる。
「オリュンポス十二神……ゼウスを筆頭に、ヘラ、アテナ、アポロン、アプロディーテ、アレス、アルテミス、デメテル、へパイトス、ヘルメス、ポセイドン、ヘスティアで変わりないかしら?」
「ああ、変わっていない。その強さも、な。私の全力は、パパと同等だと思っている。だけど、他の十二神の中にも……近い強さの神は居る」
「ふむ……あの色情魔のゼウスが最近大人しかったのはユグドラシルが死んだと認識していたからだと思っていましたが……?」
「それで合っている。パパに情報が行かないように、ヘラやアレス、アルテミスにも協力してもらっていた。だが……どこからか、情報が洩れてパパに届いたみたいでな。ただ、それも確実性のある情報ではなく、かもしれない、という程度の話が伝わったようでな。なら調べてみるかと部隊を動かす事になったと昨日ヘラが教えてくれた」
「成程……先遣隊程度であれば、仮に襲われても蓮華ならば対処できるでしょうが……」
「私もそう思う。だが……オリュンポス十二神を遣わされると話は変わってくる。先程言った三神とヘルメス、ポセイドンは私と交流もあるし大丈夫だが、残りの神が行くとなると……」
アテナはそこで言葉を止める。
その表情は苦渋に満ちていた。
「フ……まぁ、大丈夫ですよ。例えかのオリュンポス十二神と言えど、私の守るユグドラシル領の内部を知る事はできませんからね」
「ええ、クロノス程の神格の持ち主は例外として、私とロキの結界は強力よ?」
「ああ、二人がユグドラシル領から出ないのなら、私も悩まないんだが」
「「……」」
そこで、二人は黙った。
「お前達は、レンとアーネストにしばらく外に出るなと、言えるか……?」
「「……」」
その場に何とも言えない空気が流れる。
「ま、マーガリン、ここは母親の威厳を示す時だと思いませんか?」
「あー!逃げるつもりロキ!?私二人にそんな事言えないもん!」
「もん!ではありませんよマーガリン!少しの間、家に居るように言うだけではないですか!」
「それならロキが言ってよー!楽しそうなアーちゃんとレンちゃんに、外に出るななんて言えるわけないじゃない!」
ぎゃーぎゃーと言い合う二人を見て、アテナは溜息をついた。
「だから困ったんだ……」
アテナの後ろで状況を観察しているクロノスは、苦笑するしかなかった。
今回ちょっと短いです。いつも読んでくれてありがとうございます。