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32話.そうして一日が過ぎる

「えっと、その……蓮華お姉様、今日はお泊りとか、ダメですか?」

「ゴフッ……!」


 ちなみに徹君ではない。いや徹君も被害受けてるけど。

 また侍女達に介護されてる徹君を横目に、両手を胸に抱いてプルプルと小鹿のように震わせながら、一世一代の大告白のように一生懸命、言葉を発したのが分かるリリアちゃんの方に視線を戻す。


「え、えっと、私は構わないんだけど、ご両親が認……」

「あらあらまぁまぁ!蓮華様が良ければ、是非娘をお願いします~!」

「うむ、蓮華様ならば私達も安心だ。トールや侍女達がリリアを守ってくれているが、それでもいつも寂しい思いをさせてしまっている。蓮華様さえ良ければ、娘と一晩過ごしてくれると嬉しい」


 唯一の逃げ道だった両親の問題があっさりとクリアされ、私の意思次第となってしまった。

 私はふぅと溜息を軽く吐いて、リリアちゃんの頭に手を乗せる。


「了解、今日は一緒に寝ようかリリアちゃん」

「っ~!!はいっ!大好きです蓮華お姉様っ!」

「ととっ」


 その場から凄まじい勢いで抱きついてくるリリアちゃんに、後ろに倒れそうになるのをなんとか耐える。

 小柄な彼女だけど、威力はダンプカーが突撃してくるみたいな衝撃だ。


「良かったわねリリアちゃん。そうだアナタ、マーガリン様にご連絡差し上げないと。きっと心配なさるわ」

「おお、それもそうだな」


 そう言うリリアちゃんのご両親へ、私は待ったをかける。


「あ、大丈夫ですよ。母さんとは魔道通話できるので」

「「「魔道通話?」」」


 リリアちゃん含め、王様と王妃様も首を傾げた。

 あ、そっか知らないよね。


「ユグドラシル社で販売を始めたスマートフォンはご存知ですよね?」

「勿論だとも。今や一家庭に一台と言わず、人数分持っているのではないかな」

「ええ。最初はエイランドに本社があるだけだったので残念でしたけれど、今は全ての国に支部が建てられて……皆感謝しておりますのよ蓮華様」


 王様と王妃様はうんうんと頷きながら肯定する。

 販売店は全国に多く展開していたけれど、本社はエイランドだけだったので色々と不便があったのだ。

 皆が皆『ポータル』を使えるわけじゃないし、『ポータル石』もお高いからね。

 魔道列車もあるけど、移動に時間は掛かる。

 なので、いっそのこと一国に一社、支部を建てようとなったのだ。

 それぞれの王様とのやり取りで、是非にとの返事が来たのですぐに取り掛かった。


 その反響は絶大だった。ユグドラシル社はユグドラシルオンラインで稼いだお金も利用できる事から、市民の間で圧倒的な人気を誇っている。

 ユグドラシル社のスマホ一台あれば、それを翳すだけで買い物の決済が行えるのも大きい。

 ユグドラシル銀行も創設し、ユグドラシルオンラインのお金も現実世界のお金として貯金出来るようになっているのだ。

 そんなこんなで、市場はユグドラシル社が独占し始めていた。


「スマホを通して会話できるのも、マナを利用してるんだけどね。スマホを魔力媒体として誰でも行使できるように術式を組んでるから会話できるんだ。その術式を編み出したのは母さんだから、私とは媒体となるスマホがなくても、マナを使って直接脳内でもやり取りできるんだ。その通称を魔道通話って呼んでてね。スマホと違って誰でも出来るわけじゃないけどね」


 説明が長くなってしまったけれど、皆感心しながら聞いてくれた。


「というわけで、母さんには知らせておいたよ。ゆっくりしておいでって。アッカルとリリンによろしくねって」

「やったぁ!」

「おお、マーガリン様からそのような……ありがたい事です」

「うふふ、マーガリン様にそう言ってもらえるなんて、嬉しいですわ」


 王様と王妃様は本当に嬉しそうにそう言う。地上の国王様と王妃様は、私が知ってる限定だけど……皆母さんの事を慕っている。

 それは、子供の頃からの付き合いがあるかららしいけれど、詳しい事は聞けていない。

 皆、思い出を宝物のように大事にしているのだと思う。

 だからこそ、リリアちゃんとの思い出になるように、ご両親は許可を出したのかもしれないね。


「蓮華様、少し宜しいですか?」

「徹君?良いよ、何かな?」

「ありがとうございます。先程のスマートフォンの事なのですが……機能を真似し、模造品を安く提携しようとする他会社が出来てもおかしくないのでは……?」


 ああ、元いた世界みたいに、競い合うみたいな形の事を懸念しているのかな。


「そうだね……例えばなんだけど。ユグドラシル社のスマホはユグドラシル社の製品を買う時に、そのスマホでも売買できるようになってる。でも、他社のスマホだとそれは出来ない」

「ああ、成程……つまり、他社が真似をしたとしても、顧客が出来ないわけですね。失礼致しました」


 その返答から全てを察したのか、徹君は下がった。

 そう、他のスマホを他社が作って販売したとしても、それを買う客がいなければ意味がない。

 ユグドラシル社のスマホでなければ買えない、使えないスマホを、果たして買う客が出るだろうかという話だ。

 それでもかなり安くすれば買う人は出るかもしれないが……問題は機能だ。この世界のスマホは電波ではなくマナを利用している。

 そしてそのマナは世界樹から生まれているわけで。

 まぁ、これ以上は蛇足だね。それよりも気になっていた事があるし、この機会に聞いてみよう。


「今更なんだけど……徹君って転生者……ううん、転移者だよね?」

「!!」


 徹君に近づいて耳打ちすると、驚いたものの、どこか納得するような表情で彼は言った。


「はい。私の……俺の名前は佐藤徹です。皆トールと発音するのに、蓮華様は徹と……日本語の発音でしたので、なんとなく察しておりました」

「そっか。良い転移になったようだね?お互いに」


 そう言って微笑むと、徹君も爽やかな表情で微笑んだ。


「はい」


 うん、きっと元の世界でもモテてたんだろうな。そんな印象を受けた。


「うー!とーるぅぅぅっ!蓮華様と何を話してたの!」

「あっ!いや、その!な、なんでもありませんよ我が姫!ね、ねぇ蓮華様!?」

「あはは!どうだったかなー。徹君が呼び捨てにしてくれたら、そうかもしれないねー」

「そんなっ!?」

「とーるぅ!」

「ご、誤解です我が姫!」


 なんて言い合いながら、徹君は必死だったけど、他の人達は笑顔で……王様と王妃様も楽しそうにしていた。


 その後お風呂に入ったんだけど、凄い広い。

 昔に温泉に入りに行った事は何度かあったけれど、それよりも広い。

 こんな広いお風呂に、一人で入るとか……贅沢が過ぎる。流石王家……とか考えながら体を洗い、湯船につかった所で声が聞こえた。


「蓮華お姉様っ!お背中流します!」


 タオルも何も巻いていない、すっぽんぽんのリリアちゃんだった。

 湯気が良い具合に大事な所を隠しているけれど。


「り、リリアちゃん!?」

「はいっ!いつもは侍女が一緒なんですけど、蓮華お姉様が居るから良いって言ったら、渋々だったけど諦めてくれたんです!」


 ああ、そりゃ特別公爵家の令嬢が一緒だと言われたら引き下がるしかないだろう。ごめんね侍女さん達……。


「ふふ、私一人でお風呂に入りたかったんです!あ、勿論蓮華お姉様と一緒にお風呂に入るのも夢でした!」


 なんて言ってくれるリリアちゃんを邪険に扱えるはずもなく。


「それじゃ、まずは体を洗わないとね。一人で大丈夫?」

「え、えっと……もし、良かったら……蓮華お姉様と洗いっこしたい、です……」

「ゴフッ……」


 もうね、威力が半端ないんですよ。これがギャグマンガなら私は鼻血を吹き出してる自信がある。


「う、うん、良いよ」

「やったぁ!」


 天使のような笑顔で喜ぶリリアちゃん(すっぽんぽん)を見て、顔が熱いのを自覚しながら、タオルに石鹸をこすりつけてから優しくリリアちゃんの背中を拭いてあげる。


「ふわぁ……私、しあわせです……」


 こちらからは顔は見えないけれど、多分本当に幸せそうな顔をしているんだろうなぁと思う。

 それから私も背中だけ拭いてもらい(すでに一度洗ってるので、背中だけお願いした)お風呂に入って百を数える。

 八十を数えたくらいでリリアちゃんが限界そうだったけど、なんとか百を数えてお風呂を上がった。


 侍女達が揃って何度も頭を下げてきたけれど、気にしていないと伝えて止めてもらう。

 アイテムポーチからコーヒー牛乳を取り出し飲んでいたら、リリアちゃんが興味深そうに見てきたので一本上げたら、美味しそうに飲んでいた。

 飲み終えた後、目を輝かせてこれが何なのか聞かれたので、徹君なら同じの取り寄せれると思うよって伝えたら、ダッシュで行ってしまった。

 それから数秒後に徹君の吐血する音が聞こえた気がしたけど気にしない。


 そうして今、私はリリアちゃんと一緒のベッドで横になっている。

 まさか本物のお姫様と一緒に添い寝する事になるとは思わなかったよ。

 王様と王妃様も是非そうしてあげてくださいって言うし。


「リリアちゃんは寝る時に何か本を読んだりはするの?」

「ええと、いつもは寝転んだらすぐに寝ちゃいます。でも、今日は蓮華お姉様が居てくれるので、すぐに寝ちゃうのが勿体なくて……」


 なんて顔を赤らめながら言うリリアちゃん。こんな可愛い妹が居たら、なんでもしてあげたくなっちゃう。

 そうか、これが世に妹を持つ兄と姉の気持ち……!

 あれ?兄の気持ち……?そう考えてアーネストを想像したら、スンッてなった。

 その後本当の兄さん(ロキ)を想像しなおして気分を落ち着かせる。

 危ない危ない、アーネストが兄なんて考えたから、気分が氷点下まで下がってしまう所だった。 


 そんな事を考えながら、静かになったリリアちゃんを見たら、すぅすぅと可愛らしい寝息を立てていた。


「ふふ……おやすみリリアちゃん」


 私も目を瞑り、次第にやってくる睡魔に抗わずに眠りへと落ちていった。

いつも読んでくれてありがとうございます。

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