30話.太陽の姫
王国ツゥエルヴの第一王女、リリア=ツゥエルヴ。
容姿端麗にして才色兼備、その上大の大人が束になっても敵わない実力者。
ウチの姫様完璧がすぎる。
そう思い、自身の部屋にあるリリアのポスターへと祈りを捧げるのは、今やリリアの筆頭近衛騎士となった佐藤徹……彼は過去に『ウロボロス』十傑三強の一人、神雷の刃"徹"と呼ばれ恐れられていた。
早朝から身嗜みを整え、神に祈るが如く祈りを捧げる姿はいっそ神々しくもある。その対象がアイドル然とした可愛い女の子の姿でなければ。
「では、行ってまいります」
そう最敬礼をし、部屋を出る。これは彼の日課である。
「トール隊長!おはようございます!」
「隊長!今日もカッコイイっスね!」
「おはよう。褒めても訓練の手は抜かんぞ」
「当然っスよ!リリア様の為、引いては国の為にも訓練は疎かにしないっス!」
同じ隊の部下が意気込んでいるのを、おでこを軽くついて窘める。
「馬鹿者。国の為、を最初につけろ」
「あっ……、す、すんません」
「まぁ、気持ちは同意しておいてやる」
「隊長……!」
そんな会話をしながら、リリアの部屋の前に着く。
部屋の前で待機する二人の兵がドアの前から横へと移動する。
それを確認し、ドアの前でノックを二回。
「……」
応答がない。次は三度ノックをするも、同じく応答がない。
なので、お決まりのように彼は「失礼致します」と言い、ドアを開ける。
通常であれば、例え返答がなくとも、王族の部屋に勝手に入る事など許されない。
だが、兵士達は止めない。
そう、もはやこれは彼らの日常だからだ。
「我が姫、朝でございます」
「う~ん……とぉ~る~?」
「はい、トールでございます我が姫。侍女も傍で控えておりますから、まずはお着替えください」
「あとよじかん~」
「それではお昼になってしまいます、我が姫。朝食は我が姫の大好物、コンソメスープをご用意しておりますので、どうか料理長を喜ばせると思って、食べる為に起きてはくださいませんか?」
「コンソメ!?起きる、起きるわっ!」
「ぐふぅっ……(吐血)」
「こちらをどうぞトール様」
「ま、毎度毎度すまない」
「いえ、トール様のおかげで姫様が確実に起きてくださいますので、こちらとしても助かっております」
侍女から渡されたハンカチで口元を拭うトールを、侍女達は嫌な顔もせずに対応する。
そう、これもまた日常の一つなのである。
そしてリリアの朝食も終え、騎士達の訓練を始める。
これにはリリアも混ざる為、騎士達全員の士気も必然高くなる。
守る対象ではあるが、共に戦う仲間でもある。
権力を笠に着る事もなく、全員に分け隔てなく接する彼女は、その容姿と相まって絶大な人気を誇る。
「さぁトール、今日もやるわよっ!」
「はい、我が姫」
しかし、何事にも例外は存在する。
リリアはトールの事を特別に取り計らっており、それを隠す事もない。
トールもまたそれは自覚しており、だからこそリリアには指一本たりとも触れようとはしない。
勿論リリアから触れてくる場合は別だが、自分からは決して触れようとはしない。
その事を周りの者達は知っており、安心して任せているという理由もある。
何よりも、国王夫妻が信頼している事が大きいのだが。
午前の鍛錬を終え、午後。
比較的ゆったりとした時間の流れになるが、今日はいつもとは違った。
「う、嘘ッ!?ほ、ほんとに!?」
突然、リリアが大声を上げて立ち上がる。
「はしたないですよ姫様」
侍女がやんわりと窘めるが、効果が無い事は侍女も分かっており、可愛い顔が輝いているのを見て溜息をついた。
「はぁ、姫様は可愛いのが罪です……これでは本気で怒れないのですよ……」
なんて毎回零しているのだが、それを聞いた他の侍女も同じ気持ちの為、何も言えないのだった。
「どうかしたのですか、我が姫」
「れ、れれれ……」
「ああ、蓮華様がいらっしゃるのですか?」
「蓮華様がいらっ……て、なんで分かるのよトール!」
「我が姫がそこまで驚くような事といえば、蓮華様絡みの事くらいかと愚考致しました」
「ぐぬぬ、流石は私の栄えある親衛隊第一号ね!」
「お褒めに預かり」
こんなノリでもきちっと騎士の礼をするトールに、侍女達は苦笑してしまう。
本当にこの二人はブレないな、とこの光景を温かい気持ちで見守っていた。
「それで、蓮華様はいつ?」
「今日!この後よ!」
「「「「「えええええっ!?」」」」」
トールと侍女達の声が重なったのは、致し方ない事だった。
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