48.大精霊・イフリート
相変わらずの火の中を進む。
「蓮華お姉様、その先を曲がればそこですわ」
カレンが言う。
さて、イフリートとご対面か。
私の勝手なイメージだと、火に包まれたマッチョマンをイメージしてるんだけど。
「二人はイフリートの姿って知ってるの?」
と一応会う前に聞いてみる事にした。
「伝承で残っております資料では、火の化身で、固定した姿ではなかったかと思いますわ」
「はい、そのように伝えられています」
成程、二人も実際に見た事はないわけか。
なら、会えば分かるって事で、進もう。
ぐっ……これはヤバい、氷と水の魔力で覆っているのに、熱を感じる。
二人も同様のようだ。
そして、奥に辿り着く。
すると。
「ようやく来たか!遅いではないか!」
なんてものすっごい大きな声で言ってくる。
「えっと、貴方がイフリート?」
「いかにも!わしが火の大精霊、イフリートである!」
……。
うん、人、なんだけど。
なんていうのかな、すっごくガタイの良い御爺さん、なんだけど。
二人を見ると、ポカーンとしている。
「あの、ホントに?」
失礼かもしれないけど、聞いてしまった。
「フハハ!わしが火に覆われた無形物だと思うておったか!?」
はい、その通りです。
とは言えないので。
「えっと、その……」
「うむ!わしもそう思うぞ!フハハハハ!」
うん、新しいタイプだ。
でも、こういうタイプ、嫌いじゃない。
「はは。イフリート、だったね。私はレンゲ=フォン=ユグドラシル。好きなように呼んでいいよ」
「ほぅ、ユグドラシルを名乗るか。ふむ、すでに多くの大精霊と契りを結んでおるようだな」
分かるんだ、そういうの。
「だが、わしをその他の大精霊と同じと思って貰っては困るな」
何か試練でもあるのだろうか。
「蓮華よ、わしと拳を交えよ!!」
え。
「蓮華よ、わしと拳を交えよ!!」
「いや聞こえてるから!その馬鹿でかい声が聞こえないとかないからっ!」
「おう?フハハ!では構えるが良い!」
うわー、人の話を聞かないよ。
というか、拳でって。
まぁ一応、徒手空拳も母さん、兄さんから習ったけれど……。
しょうがない、強化魔法掛けて、やれるだけやってみるか。
「れ、蓮華お姉様、大丈夫なのですか?」
と不安げに聞いてくるカレン。
「ん、まぁやってやれない事は無いと思う。任せて」
そう言って微笑んで、構える。
「ではゆくぞ、蓮華ぇぇぇっ!!」
一瞬でその姿が消えて、目の前に拳が来る。
それを避けて、こちらも右ストレートを顔面に撃つが、それに拳を合わせてきた。
ガスゥ!!
ズザァッ!!
「っぅ……!拳に拳を当てて吹き飛ばしてくるとか、滅茶苦茶するね」
「フハハハ!こんなものは序の口よぉ!ゆくぞ蓮華ぇ!!」
ヴゥン!
また消える。
足音を捉える。
「そこだぁ!!」
拳を撃つ。
でも、そこにはもう居ない。
「甘いわぁ!」
蹴りを仕掛けてくるが、避ける。
私も場所は分かってるんだ!
そうして、拳と蹴りの応酬が続く。
どうしても避けられない攻撃はガードしているが、これがまた凄くジンジンする。
この熱血漢め!良いじゃないか、やってやる!
「はぁぁぁっ!!」
拳の乱打をぶつける。
でも、全てガードされる。
「フハハハハ!やるではないか蓮華!面白い、面白いぞぉ!!」
ドガガガガガガッ!!
「くっ!!」
「「蓮華お姉様っ!!」」
二人の悲鳴が聞こえるけど、大丈夫。
全部ガードできた。
出来るかわからないけど、よくあの格闘漫画でやってたあれ、試してみるか。
手に魔力を込める。
ブゥゥゥゥン……!!
「むぅ!?」
イフリートが警戒する。
魔力を増大させていく。
「これが受けきれるかイフリート!まさか、避けたりしないよな!」
避けられたくないから、挑発する。
だって、これ避けられたら、多分この遺跡壊れるもん。
初めて使う技だし、威力調整なんてできないし、途中で消せないもの。
「フハハ!!良かろう!受けて立ってやるぞ蓮華ぇ!」
その言葉にニヤッとする私。
更に魔力を込める。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「れ、蓮華お姉様、その魔力量は流石に……」
「し、死にませんか、大精霊様……」
大丈夫だ、きっと。
ソウル使ってないんだし。
なんか、イフリートに汗が見え始めた気がする。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ蓮華よ。まさかそれをわしに撃つつもりか?」
ニッコリと笑って。
「うん。行くよ?『マナコレクト・ブレイカー』!!」
ゴオオオオオッ!!
「まっ!ぐぁぁあぁぁあああ!?」
ドゴオオオオン!!
イフリートが壁までぶっ飛ばされる。
体内の魔力を集めて相手を壊す、だから『マナコレクト・ブレイカー』
うん、今私が考えました。
いわゆる、か○はめ○です。
集めるのは気じゃなくて魔力だけどね。
で、魔法に変換しないで、そのままぶつけてみた。
できるなんて思ってなかったけど、割と威力あったんじゃなかろうか。
ネーミングセンスなんて私に期待しないでほしい。
なんか二人がビックリしてるけど。
アーネストが居たら、語り合えたのになぁ。
今度見せてやろう。
そんな事を考えていると
ガラッ
ドサァ!
「フ、ハハ……お主、とんでもないな……このわしを倒すとは、流石はわしの弟子……」
「いや、弟子になった覚えないからね」
そこはしっかりと否定しておく。
「フフ、照れるでない愛弟子よ」
「照れてないから。むしろ倒れながら何言ってるの御爺さん」
ホントどういう思考回路してるんだこの人。
「ぐふ……」
あ、寝た。
というか意識失ったのか。
「どうしよう、二人とも」
流石にこんな展開になるなんて、予測できるか!
その言葉に二人は。
「と、とりあえず、回復魔法を掛けてあげては如何でしょうか、蓮華お姉様」
と遠慮がちに言ってくるカレン。
ああそうか、自分達が大精霊に近寄って良いのか、判断できずにいるのか。
「二人とも、変に遠慮しなくて良いよ?大精霊は私の友達で、カレンにアニスも友達。そこに差なんてないよ。だから、ね?」
その言葉に嬉しそうに笑ってくれる。
「わかりました、では私達が回復魔法をお掛けしてみますわ!」
「はい、やってみます!」
と言ってくれる二人。
うん、良い子達だよね。
そして、目を覚ます御爺さん。
「うぅむ……そうか、お嬢ちゃん達が癒してくれたのか、ありがとうのぅ」
「い、いえ、とんでもありませんわ」
「は、はい」
やっぱり萎縮しちゃってるか。
でもしょうがないのかな、この世界の人達にとって、大精霊って伝説の存在なんだもんね。
「それでイフリート、私の勝ちみたいだけど、これで契約はできるの?」
「ふむ?何の事じゃ?契約なら最初からしておろう?あの戦いは、わしの趣味じゃ!」
ドーンと後ろに爆発でも起きるイメージが視えそうな言い方をしてくる御爺さん。
もう爺さんで良いや。
「爺さん、熱血すぎ……」
「フハハ!お主ものぅ蓮華や!」
「私は違うわー!!」
叫んだ私だった。
とにもかくにも、これでイフリートとも契約は終わった。
とりあえず、王都・フォースに戻ろう。
なんか、今までで一番疲れる大精霊だったなぁ。




