26話.ミラクル
アーネストに連れられて来た国は、私にとって初めて行く国だった。
シックガウン王国。ユグドラシル領を中心に、時計で言えば六の位置にある国だ。
私がオーブの関係で行った三つの国が、オーガスト、フォース、エイランド。
時計の位置で言うと順番に十二(零)、四、八の場所。
アーネストが行った三つの国が、ツゥエルヴ、シックガウン、テンコーガ。
こっちも時計の位置で言うとニ、六、十の位置にある国だ。
それぞれオーブが設置してある国で、直線で繋ぐと六芒星の形となる。
これは龍脈というマナの通り道の関係で、魔力の吹き溜まりのある位置にオーブを設置する為、これらの国を選んだと母さんから聞いた。
今もオーブは安置されている。点検の為に時々母さんは見ているらしい。
まぁそれはともかく、私にとって初めて行く国。
とは言っても、王都ではなく郊外にある、シルクルという街にやってきた。
「それで、この街に何の用があるんだ?」
「昨日転生者に会ったって話したじゃん?」
「ああ、冒険者ギルドの誰も受けない依頼を片っ端から二人で受けていったんだっけ?」
「そうそう。まだ全部は終わってなくてさ、そのうちの何個かを終らせようとここで待ち合わせしてんだよ」
「成程ね」
そんな会話をしながら、街の中央へと歩いていく。
私は狐のお面をつけているし、魔力も一般人と変わらないように制御しているので、目立つことは無い。
ちなみにこの狐のお面、ただのお面じゃない。
あるダンジョンでペットとして飼う事になった、メタモルフォックス族のタマモが変化した姿なのだ。
タマモは私に凄く懐いてくれているので、外に行くのも一緒に行きたがる。
だけど流石にそのまま連れて行くには目立つので、ならばと採用したのが、私のお面役である。
タマモは私と一緒に居られて嬉しいらしく、キュ♪と鳴きながら頬ずりしてくる。
勿論タマモが変化した姿の為、普通のお面と違って防護能力もあるし、いざとなれば戦闘能力もあるし、何かあればサポートしてもらう事も可能だ。
「ここだぜ。この銅像の前で会う約束してんだ」
見れば、剣と盾を持った男性の銅像がそこにあった。
「この街の前領主の銅像らしいぜ」
「村を守って死んだとか?」
「いや?普通に建てさせただけらしい」
「……」
何かこう、理由があるのだと思ったのだけど。
そして待つ事少し、「おーい!アーネスト!」と言いながら、駆けてくる男性が居た。
「遅いぞチトセ。女の子に待たされるならともかく、男に待たされるのはアウトだ」
「わりぃわりぃ!迷子の子が居てさ、一緒に母親を探してたんだよ」
「そういう事ならしょうがねぇな!っと、午前中だけなんだけどよ、こいつが一緒でも良いか?」
アーネストに言われ、チトセと言われた彼がこちらを向く。
私は狐のお面を外さずに、会釈だけしておいた。
「えっと、お面?」
「あー、ちょっと訳ありでな。信じられる奴だってのは俺が保証するぜ」
「成程、アーネストがそう言うなら大丈夫そうだな。俺の名はチトセって言うんだ、よろしくな!」
「よろしく。私は……レイと言います」
タマモに声が違うように聞こえるようにしてもらい、返事をする。
アーネストはすでにこの街で顔を出しても騒がれなくなっているようだけど、私は来たばかりだし、すぐに帰るし……無用な騒ぎは起こさないに限る。
というわけで、正体は明かさない事にしたのだ。
ちなみにレイとは、王覧試合で使った名前だったりする。
「それじゃアーネスト、今日もよろしくな!」
「おう!まずはこの街での依頼を終らせようぜ。れん……レイが手伝ってくれるのは午前だけだからよ」
「了解!レイさんは戦えるのか?その、言ったらあれだけど、あんま強くなさそうだよな……?」
「ぶふっ……」
チトセさんがそう言ったら、アーネストが吹き出した。
私の表情は見えないだろうけど、アーネストを睨む。
「ゴホンゴホンッ……あー、大丈夫だ、こいつの事は心配しなくて良い。つーか、依頼の中で採集系あったろ?あーいうのをレイに手伝ってもらおうと思って連れてきたんだよ」
「ああ、成程ね。俺も一応知識はあるけど……」
「俺もそうだけど、あくまでそれなりだからな。レイは専門家ってレベルで詳しいからな」
「そうなんだ、それは凄いな!」
いや、薬草の種類とか花の種類はそりゃ分かるけども。
後は錬金術の素材とかも母さんに教えてもらったから、多く覚えたけれど。
……言われてみれば専門家と言えなくもないのか。
なので、コクンと頷いておいた。
「頼りになるね。それじゃ、まずは月見草からだな!」
「え……」
「「?」」
二人がどうしたの?って感じで見てくるけど……いや月見草って、夜になるまでただの雑草と見た目変わらないんだよ。
夜になると月の光を浴びて、光り輝くからこその月見草って名がつけられたんだ。
こんな朝から見つけられるものじゃない。いや普通なら、だけども。
それを伝える。
「マジでか……レイを連れてきた俺、ファインプレイだな」
「自分で言うなよ。でもそっか、だから誰も受けなかったんだな」
ちなみに月見草は錬金術の素材で、武器や防具に光属性のエンチャントを付与できる魔道具が作れる。
他にも用途を変えれば、簡易版の低級光魔法を誰でも使えるようにする魔道具とかも作れたりする。
結構貴重なんだけど、その分生えている場所は限られていて、見つけた人もその場所を滅多な事じゃ教えないらしい。
まぁ、大精霊達と契約してる私には、普通の人には見えない精霊が見えるので……今も、こっちこっちって精霊が指さしてくれている。
精霊は人の話を理解しているからね。精霊からの言葉や意志は、普通の人には届かないけれど。
「ついてきて」
それだけ言って、精霊の案内する場所へと歩いていく。
二人は黙って私の後ろをついてきた。
そして、歩く事30分程。街からそれほど遠くではない森の中。
どうやら迷いの森よろしく、誤ったルートを通ると入口に戻る魔法が掛けられているようだった。
まぁ、私には効果ないんだけど。
というわけで、問題なく月見草の群生地へと到着する。
精霊が指さす草を、ゆっくりと抜いていく。
小さな袋一杯になったので、二人へと向き直り、アーネストへと手渡す。
「お、おお……ありがとな」
「み、ミラクル……!凄いね、彼女。流石アーネストが推すだけの事はあるよ。こんな簡単に、見つけるなんて……鑑定もちゃんと月見草って出てるよ。普通に見たら、俺には草にしか見えない」
転生者ってアーネストが言ってたっけ。だから鑑定なんて力があるのか。
あれ、それなら私の事も分かるんじゃ?
「あ、俺は鑑定っていうスキルがあるんだけど、人には使わないから安心して。そんな失礼な事、しないから」
そう笑顔で言う彼に、アーネストが気に入ったわけが分かった気がした。
「はは。ま、レイには効かねぇと思うけど……それより、次の依頼に行くぜ!」
「了解!っていうか、次も採集依頼だよな?俺居る意味がないな……ごめん……」
「それ言ったら俺もだから気にするな」
「お前は気にしても良いんだぞアーネスト」
と、ついいつも通り言ってしまって、あっ……と思うも、時すでに遅し。
「あはははっ!レイさん、良いね。うん、面白い人だねアーネスト」
「はは、そうだろ?」
なんて頷き合う二人に、私はもう良いかと次の依頼を聞くのだった。