25話.家に帰って
グリンと別れてから、街を歩き出店を楽しんでいたら、日が暮れてきたので『ポータル』で家のすぐ傍の泉へと飛ぶ。
『ワープ』だと効果範囲外で使用できないんだよね。こればかりはいくら場所のイメージが明確に出来ていても無理みたいだ。
まぁ、『ポータル』も『ワープ』も魔力使用量は微々たる物なので、気にならないけれど。
「お帰りなさい蓮華さんっ!」
玄関を開けたら、アリス姉さんがジャンプして抱きついてきたので、しっかりと受け止める。
香水を使っていないのに、ジャスミンのような優しい華やかな香りがする。
「あ、レンちゃんお帰りー!晩御飯もう少しで出来るからねー!」
「分かったー!ありがとう母さんー!」
台所から聞こえる母さんの声に、返事をする。
アリス姉さんが抱きついたまま手洗い場へと向かい、石鹼で手を洗ってうがいをしておく。
そのままリビングへ行くと、アーネストがミラヴェルと腕相撲をしていた。
「ぐぎぎぎぎっ……!うごか、ねぇっ……!」
「どうしたアーネスト、私の細腕にすら勝てないのか?」
やっぱり凄いなミラヴェル。私は昨日アーネストと腕相撲で勝負したけど、負けちゃったんだよね。
「ねーねー蓮華さん、ユグオンで攻略に詰まったダンジョンがあるんだけど、教えてー!」
なんてアリス姉さんが言ってくるので、ソファーに座って会話を楽しむ事にした。
ちなみにユグオンとは、ユグドラシルオンラインの略称だ。
最初ユグドラと略そうとして、特別公爵家に不敬だと議論になって、ならユグオンにしようとなったとかなんとか。
私やアーネストが出かけている間、アリス姉さんは家でずっとユグオンで遊んでいるらしく、話を聞くとかなりレベルが上がっているようだ。
今はアテナとパーティを組んで、ランキングの最上位を目指しているらしい。
ランキングとは、ダンジョンを攻略した時に貰えるポイントで、トップ1000までの名前が掲示板で表示されるシステムの事だ。
速く攻略すればするほどポイントが貰えて、攻略ダンジョンが多いほどその差も大きくなる為、タイムアタックを何度も繰り返し速く攻略する人も居れば、次のダンジョンにすぐに向かう人も居る。
アリス姉さんとアテナは後者のようで、次々とダンジョンを攻略しているらしい。
ただ、今日挑んだダンジョンがどこにもボスが見つからず、撤退を余儀なくされて困っていたようだ。
皆で食事をして、アーネストとの報告会(今日何をしてたかをお互いに話すだけ)も終え、後は寝るだけ。
王都フォースで買った、ラベンダーの匂いのする入れ物をベッドの傍にある机の上に置く。
アロマテラピーって言うんだっけ?この世界には転生者が多いだけあって、元の世界であった色々な物が商品化されているんだよね。
そういえば、アーネストは今日転生者と出会ったらしい。
意気投合して、冒険者ギルドでパーティーを組んで依頼を片っ端からこなしていたらしいけど、何やってるんだか。
まぁ人の事言えないかな、私は。
「おやすみなさい」
誰に言うでもなく、私はそう呟いて目を瞑る。
良い匂いがするからか、いつもよりも眠りにつくのが早かった気がする。
そして翌日、皆で朝食を取ってから、午前中はのんびりと家で過ごしていた。
カレンとアニスはインペリアルナイトマスターなだけあって、物凄く多忙なのだ。
むしろ、あれだけの時間を捻出するのも大変だったはずだ。
それでも、仕事を片付けて時間を作るんだから、凄いと思う。
スマホで連絡すると、昼からならと返事が来たので、お昼前にグリンと別れた喫茶店に行くつもりだ。
ちなみに、グリンは特に用事も無いので、のんびり本を読みながらここで(喫茶店の事)時間を潰しておくので、いつでも良いですと言っていた。
待たせるのもあれだから、少し早めに出るつもりではあるけどね。
「あれ?蓮華さん今日は出かけないの?」
「ううん、昼から出かけるよ。アリス姉さんは今日も?」
「うん!楽しいよユグオン!」
溢れる笑顔にこちらも笑顔になってしまう。
アリス姉さんが楽しんでいるなら、なによりだ。
「お昼まで時間あるなら、蓮華さんも一緒にやる?」
「ううん、もうレベル差が凄いだろうから、邪魔になるよ。アテナと攻略するんでしょ?楽しんできて」
「蓮華さんと一緒なら、別に攻略は後回しでも……」
「アテナも居るんだし、そっち優先で良いよ。攻略組って呼ばれてるんでしょ?」
「あはは……」
アリス姉さんとアテナの作ったクラン、『識欲の女神』は、ユグオンのトップクランの一つで、攻略組と呼ばれているらしい。
そりゃ一日中ゲームばかりしてる人達が集まれば、トップクランにもなるだろうけど。
あ、ちなみにクランとは、ユーザーが集まって大人数の仲間になるというか、そんな感じのシステムだ。
クランのランクによって所属できる人数に上限があるので、入りたくても入れないなんて人も出てくる。
アリス姉さんが部屋へと戻るのと入れ違いに、アーネストが二階から降りてきた。
「あれ?お前がまだ居るなんて珍しいな」
「今日は昼までゆっくりしてようと思って」
「そうなのか?なら、午前中は俺に付き合わねぇ?」
「良いけど、昼前には帰るぞ?」
「オーケーオーケー!」
そう笑顔で言うアーネストに苦笑する。
しょうがない、少しだけ付き合うとするか。