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23話.グリーンドラゴン再び

 冒険者ギルドに、圧倒的な魔力を抑える事なく入る者が居た。

 グリーンドラゴンのグリン、冒険者ランクの制度が見直され、多くの者がランク落ちした中でも、不動のAランク。

 疾風のグリンと呼ばれ、恐れられている冒険者だ。


「……」


 あまり冒険者ギルドに訪れないが、高難易度の依頼を受けて達成しては去っていくその姿に、憧れている冒険者も多い。

 しかし、今日はいつもと様子が違った。

 依頼を見てはいるのだが……それを剥がす様子がない。

 いつもなら、パッと見てパッと依頼表を剥がし、受付へと持って行き、すぐに出て行ってしまうのに、と皆が彼女を見ていた。


「……(もうあの山に行く依頼なんてない、よね。あっても下層の方で終わる依頼のみ……これなら、戻っても大丈夫、かな?)」


 依頼が張り出されている場から離れ、外へ出ようとするグリン。

 そこへ、大男が道を遮るように立ち塞がった。


「待ちな、疾風のグリン。今日こそテメェに引導をわたぐべぁ!?」


 右手を振るい裏拳を当てて、グリンはその大男を吹き飛ばす。

 周りで見ていた者達は歓声を上げた。

 グリンはそれをチラッと見た後、冒険者ギルドを後にしようと外に出た所で……彼女にとっての悪魔と出会う。


「……!……!」


 全身から冷汗が出るのが止まらない。ガタガタと震え、もはや立っているのも辛くなってきた。


「あれ?君、あの時のグリーンドラゴンかな?」


 と、まるで友人にでも出会ったかのように声を掛けられた。


「お、おひさし、ぶりで、す……」


 グリンはなんとか、そう声を出す事に成功した。


「ここで会ったのも何かの縁だし、とりあえず中で飲み物でも注文して話さない?」


 蓮華にそう促され、そのまま中へと入った二人。

 片方は狐のお面を顔に被っている上に魔力を完全に封じ込めている為、一般人と変わらず、目立っていないのに対し。


 グリーンドラゴンことグリンは、その膨大な魔力を封じるという意識がないのか、垂れ流している為、弱い冒険者は離れていても意識を不意に失いそうになっていた。

 テーブル席に座った二人へ、ウェイターが水とメニューを持ってくる。

 蓮華はオレンジジュースを、グリンはサイダーを頼んだ。

 注文してすぐに飲み物を持ってきてくれたので、お互いに少し喉を潤し、話し始めた。


「疾風のグリンって君の事だったんだね。あの時はありがとね」

「い、いえ……お役に立てたなら、幸いです……」


 そうボソボソと声を出すグリン。目の前の存在が恐ろしくて、声を出すのも必死だった。

 そんな折、また冒険者ギルドの中へ、けたたましい冒険者達が入ってきた。


「よーし、今日も稼いだぜ!これで俺達ももうAランクに成れるんじゃね!?」

「俺達『ボーンプレッシャー』に掛かれば、当然の事だな!」

「今日は飲もうぜっ!」


 大声で話す彼らの声も、目の前の蓮華の存在で全く聞こえていないグリン。

 そんな中で、彼らはAランクのグリンが珍しく冒険者ギルドに居る事を目敏く見つけ、目を光らせて近づいていく。

 彼らは、疾風のグリンの事を疎ましく思っていたのだ。

 自分達がまだBランクなのに、ソロで一人先へ行くグリンへの嫉妬と……その美しさを汚す事への欲望が入り乱れていた。


「よぉグリン。俺の事を覚えてるか?もうじきAランクの『ボーンプレッシャー』リーダー、グリコーゲン様だ。当然、覚えてるよな?」


 後ろでニヤニヤとしている男達と共に、グリコーゲンは機嫌よくグリンへと話しかける。

 しかし、グリンは一向に反応を返さず、ただ狐のお面をつけた女性へと視線を向けていた。


「おいっ!俺様を無視するんじゃねぇよ!」

「五月蠅い」

「ぽきゅっ!?」

「ぐぼっ……!」


 グリコーゲンがその顔をグリンへと近づけた所に、グリンは虫を払うように右手を振るい、グリコーゲンを先程のした男と同じ場所へと吹き飛ばした。

 二人のむさい男が、重なり合い倒れる。


「あ、兄貴ぃっ!?」

「テメェ!!」


 と声を荒げる者達へ、グリンは立ち上がり、目に殺気をたぎらせ睨んだ。


「「「「ひっ!?」」」」


 今まで垂れ流していた魔力とは違い、明確に敵意を持って溢れさせた魔力に、冒険者達は腰を抜かす。


「これ以上、この方の前で(さえず)るなカス共……!死にたくなければ消えろっ!」

「「「「は、はいっ!!」」」」


 冒険者達は受付嬢の元へと依頼報告を済ませる事も忘れて、倒れたリーダーを背負い外へと出て行った。

 それを見終えたグリンは、また借りてきた猫のように縮こまり、目の前の狐のお面をつけた彼女へと頭を下げる。

 見ていた周りの者達は、その異様な雰囲気に意味が分からなかった。


 片や凄まじい魔力を周りへと流し、強者である事が一発で分かる。

 片やお面をつけた彼女は、控えめに言っても全然強者と感じない。

 魔力は並み、それも一般人クラスしか感じない。


 だというのに、その強者と一目で分かる彼女が、目の前の一般人を恐れているようにしか見えない。

 ただ、ギルド職員だけは、その理由が分かっていた。

 何故なら狐のお面をつけた彼女は、あの氷の大魔女、マーガリン様のご令嬢で……地上最強と称される人物だと知っているからだ。


「うーん、ここだと落ち着いて話せないね。場所を移そうか」

「は、はい……(解放して、もらえないのですね……)」


 がっくりと肩を落とすグリンに、蓮華は気付いていなかった。

※2022年7月12日修正

世界最強→地上最強


世界だと、全貌を知らない天上界等の他の世界はともかく、地上と交流のある魔界の魔王を含めてしまう為です。

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