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18話.魔装具を取り戻す(ニア視点)

 カレン様とアニス様のお屋敷から外に出て、バーンズ伯爵家の家老であるジョセフさんに紹介された商人、エゼルフさんの元へと向かう。

 今までが嘘のように、体が軽い。

 全盛期であったあの頃よりも、肉体が強化されているようにも感じる。

 これはツクモソウの効果というよりも、蓮華様の魔法の効果ではないかと思う。


 蓮華様……アルマの依頼を受けてくださり、私を助けてくれた恩人。

 それだけじゃない。蓮華様は、何度もこの地上を救ってくださっている。

 魔界からの侵攻、八岐大蛇の退治、そしてサンスリー王国での悪魔達の殲滅等……大きな事件の全てに蓮華様は関わっている。


 そんな蓮華様から、あのカレン様とアニス様に紹介をして頂けた。

 カレン様とアニス様の事は、インペリアルナイトになられてから何度もお見掛けした。

 バーンズ伯爵家の当主様の護衛で、パーティーに出席した時……彼女達はつまらなそうに、要人の警護をしていた。

 あの歳なら、まだ令嬢達とお茶会などをして楽しんでいる時期だというのに……。


 それでも、その立ち振る舞いは美しく、彼女達の一挙手一投足は、周りにいる要人達の視線を奪う。

 彼女が視線を向けただけで、その先にいた人は赤く頬を染めるのだ。

 実際にその人を見ていたかは不明だけれど。


 昔の事を思い返しながら歩いていると、ついにエゼルフ商会の前に着く。

 中に入り、エゼルフさんに取り次いで貰えるように伝える。

 私の名と、魔装具の件でお話があるという事も。

 少し待つと、以前よりもまるまると太った、歩くごとにふぅふぅと言っている男性が出てきた。


「お久しぶりですエゼルフさん」

「こ、これはこれは。ニア様、ごきげんうるわしゅう……ふぅ、ふぅ……」


 流れ落ちる汗をハンカチで拭きながら、こちらへと視線を向けた。


「こんな所で話すのもなんですな、ふぅ、ふぅ……奥へどうぞ……」

「では失礼します」


 案内された場所は、氷の魔道具で部屋の温度を下げているのか、涼しかった。

 三人は座れそうなソファーに、向き合って腰かける。


「ふぅ、ふぅ……外は暑いですな。まだ火の歴に入る前だというのに……」

「エゼルフさん、今日は世間話をしに来たのではないのです」


 居住まいを正し、エゼルフさんを見る。

 彼はまだ零れている汗を拭きながら、ある物を机の上に置いた。


「これですな、ニア様」


 まごう事なき、私の魔装具だった。


「はい。これを返してもらいに来ました」

「ふぅ、ふぅ。では3000万ゴールドでどうでしょう?」

「なっ!?」


 彼に売った値段は300万ゴールドだ。その値段は、10倍。


「どういう事ですか?私は300万ゴールドで貴方にお売りしたはずですが」

「物の価値は、変わるものです、ふぅ。あの時は、その値段の価値でした。今は、この値段になったという、だけのこと」


 価値が変わるのは分かるけれど、それでも到底納得できる事ではない。

 このお金も、カレン様から預かった大切なお金だ。

 余裕で払えるけれど、それをポンと出すのは違うと思っている。


「分かってます、分かっておりますとも……300万ゴールドを貯めて、買い戻しにこられたの、でしょう?なら、その300万ゴールドと、ある条件で、お売りしても、構いませんよ?」


 会った時から、視線が胸から腰といった場所をウロウロと彷徨わせているこの男の条件など、なんとなく予想がついているけれど……一応聞いてみる事にした。


「条件とは?」

「一年間、私のものになって頂きたい。一年間、私の命令に従うだけで、不足分の2700万は、帳消しに致しましょう。ふぅ、良い条件だと、思いませんか?」


 確かに、普通に考えるなら2700万もの大金を、一年間で支払うのは困難だ。

 けれど、実際の価値がどれ程であろうと、2700万の差というのはこの男の提示額でしかない。


「購入証書を」

「ぐふっ!ええ、ええ。お待ち下さい」


 スキップでもしそうな勢いで奥に行き、購入証書を持ってきた。

 購入証書とは、高額な物を買う時の証明書だ。

 この人がこの値段でちゃんと買いましたよ、と証明するもの。


「いえ、これではなく3000万ゴールドだけの証明書です」

「……え?」


 条件を付け加えられた300万プラスエゼルフに一年間どんな命令も従うという紙を破り捨てる。


「ですから、最初に仰られた3000万ゴールドの購入証明書をお持ちください。お支払いします」

「なっ!?さ、3000万ゴールドを支払えるとっ!?」

「はい、ですので購入証明書を早く。サイン致しますので」

「う、うぅっ……!?」


 何故か中々持ってこずに、口をパクパクとさせるエゼルフさんを睨む。


「じ、実は3000万というのは大負けに負けていましてな……、この条件を飲むなら、3000万という事でして……本来は……」


 後出しでそんな事を言い始めた。本当に……こんな姑息な商人に、私は……。


「分かりました。いくらですか?ちなみに、次に言った額は取り消せませんよ。このメイド服にはウカノミタマの加護がありますからね」

「!?わ、分かっておりますとも……!」


 ウカノミタマの加護とは、商売の神の加護。

 商売とは信用が第一。ウカノミタマの加護を受けている者がそれを宣言し、この額で売る、と言った物をやっぱり辞めた、と言う商人は、商人の神から見捨てられる。

 以降、不運に見舞われるとされている。


「1億ゴールドです。びた一文、負けませんよニア様。ふぅ、ふぅ……」

「はい、どうぞ」

「んなぁっ!?」


 ドンッと大袋を出す。エゼルフさんの表情を見て、ちょっとスカッとしたのは秘密だ。


「それではサインをしましたので、お金をお受け取り下さいね。私は魔装具を返してもらいます」


 そう言って、魔装具を手に取る。手入れが全くされておらず、昔のままだったけれど……懐かしい感触に微笑んでしまう。


「ぐぅ……ぅぅっ!」


 エゼルフさんは悔しそうだったけれど、それだけのお金を手に入れたのだからむしろ幸運だろう。

 魔装具を装着し、外へと出る。

 さぁ、カレン様とアニス様に報告に行かなくては。


「待ちな」


 そう思っていたら、外に出た所で声を掛けられる。

 後ろから出てきたので、恐らくエゼルフさんの雇った者だろう。


「アンタに恨みは無いが、逃がすなと言われてるんでな」


 こんな人通りの多い場所で、阿呆なのでしょうか。

 私は魔装具から剣を召喚する。


「!!多少は傷つけても良いと言われている!魔法を放て!」


 10名ほどの黒装束の者達が一斉に魔法を放つ。

 私は特に身構える事もなく、その魔法を受けた。


「直撃だな。これでもう立っていられまい……」

「もう終わりですね?それじゃ、こちらから行きますよ」

「なっ!?」


 彼らの元へと移動し、首元へと一撃を入れて行く。合計十撃、簡単なお仕事でした。


「くっ……つ、つぇぇ……!?どうして魔法が効かねぇんだ……!」

「それを説明する必要もありませんね。さて、貴方達には聞きたい事があるのと、交渉材料になってもらいます。逃げたら、どうなるか分かりますよね?」

「「「「「ひっ!?」」」」」


 さてさて、この人達をダシに、お金多少返してもらえそうですね。

 カレン様とアニス様に、良い報告が出来そうです♪

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