14話.ギルドからの依頼
カレン、アニスとの特訓を終えて、私は今ギルドへ向かっている。
二人はこの後騎士達への指導があるらしい。
蓮華お姉様にわざわざおいでいただいたのに、と言って悔しそうだったけれど、きちんと仕事を優先するようになったのは成長していると思う。
いや前からそうだったとは思うけど、この子達王様よりも私を優先するみたいな事を平気で言うからね……。国を守る象徴として、それは言っちゃダメなやつだと思うの。
二人との特訓は今後も定期的に行うと約束しているので、そう言って頭を撫でてから城を後にした。
もう17歳という美少女ではなく、美女というのが正しいこの子達の頭を撫でるのは、少し抵抗が……嫌じゃなくて、照れるという意味で……あるんだけど、未だに二人は私に頭を撫でられると嬉しそうにするので、誰の目も無い時は撫でてあげている。
肌触りの良い感触を手に感じて、撫でているこちらも気持ちいいので、ホント嫌ではないんだけど。
そんな事を考えながら、ギルドの前に到着する。
ちなみに、認識阻害の魔法は掛けていない。けれど、狐のお面を顔に付けている。
最近はユグドラシルオンラインの影響か、装飾品を身につける冒険者も増えていて、お面もそのうちの一つ。
なので、別段おかしくは思われないのだ。
まぁ認識阻害の魔法を掛けていても良いんだけど、お互いの認識に齟齬が生じるからね。特にギルドで会話をしないといけない場合とか。
とりあえず中に入って、慣れた足取りで掲示板へと向かう。
左側に張られているのが、魔物の討伐依頼。
右側に張られているのが、採集であったり、護衛であったり、魔物の討伐以外の依頼だ。
魔物の討伐は、間引くという意味でも常にギルドから依頼が張られているので、無くなるという事は無い。
ちなみにここは冒険者ギルドなので、魔物は単に討伐するだけで良い。ギルドカードに掛けられている魔法で、討伐はギルドカードが認識してくれるので、討伐部位を持ち帰らなければならないとかもない。
モンスターハンターギルドでは、同じ魔物の討伐依頼でも内容が異なる。
こちらは魔物の部位を持ち帰る必要がある。素材になるからだ。
魔物の部位は武器、防具、装飾品、魔道具、果ては錬金術の素材等々、使い道がごまんとある。
なので、冒険者ギルドで討伐依頼を受けた人は、その素材をモンスターハンターギルドへ卸す人も多い。
モンスターハンターギルドから直接依頼を受けて納品するよりも安くはなるが、それでも金になるからだ。
アイテムポーチがあるから、皆荷物で悩まされる事はないからね。
収納アイテムなんて滅茶苦茶高いと思うだろうけど……いや、一定以上の重さが入るアイテムポーチからは滅茶苦茶高いんだけど、10kg程度までしか入らないアイテムポーチは、子供のお小遣いでも買える程度の値段だ。
これは、親を失ったりして子供でもお金を稼ぐ必要がある場合の援助目的として、販売しているらしい。
冒険者ギルドの採集依頼では、子供でも可能な、ギルドからすれば赤字でしかない依頼が常時依頼として張り出されている。
これを受けられる人は限定されているので、誰でも受けられるわけじゃない。
Eランク以上であれば受けられないし(最低ランクを脱しているなら他の依頼を受けろって事だね)大人も原則受けられないのだ。
ちなみに市販のアイテムポーチは所有者登録があるので、何個も持つ事は出来ないようになっている。安いからと何個も買う意味は無いという事だね。
見た目通りの容量しか入らないわけだから。
「お願いだよっ!母ちゃんが、母ちゃんが死んじゃうかもしれないんだっ!」
「気持ちは分かるけどねボク……その金額で依頼をしても、誰も受けてくれないよ……?」
依頼を見ていたら、後ろの方で大きな声が聞こえた。
10歳にも満たなそうな少年が、受付の女性へと身を乗り出さんばかりに詰め寄っていた。
その表情はとても必死で……それが分かるからか、女性も困ったようにしていた。
私は静かに傍へと近寄って、話に耳を傾ける。
「いい、ボク。ツクモソウはとても貴重な薬草です。それは入手難易度が高いからなんです。とても高い山の、山頂付近にしか咲いておらず……咲いている場所も崖など危ない所のみ。そんな経緯もあって、依頼料はとても高くなるんです。とても一万ゴールドでは……そもそも、その値段ではツクモソウを売った方が数百倍の値段になりますから……」
「うぅ……でもっ!でもっ……僕にはこれが全財産なんですっ……!お願いしますっ……お願いしますっ……!」
「……はぁ、分かりました。本来は手数料が発生するので、依頼料の上にプラスで頂くのですが……その料金は、お姉さんが負担してあげます。でも……誰も受けてくれなかったら、ごめんね……」
その言葉に、少年は涙を流しながら、「ありがとう、ありがとうお姉さん……!」と言っていた。
受付のお姉さんが依頼を受理し、その紙を掲示板に貼りに行こうとした所を、私が立ち塞がって紙を受け取る。
「え……?」
「この依頼、私が受けるよ」
そう、狐の仮面を少しずらして、笑顔を向ける。
「れ、れんっ……むぐぅ!?」
「しー。それじゃ、受付てくれる?」
「っ!っ!」
人差し指で唇を抑えてそう言ったら、女性はコクコクと上下に頭を振って、受付へと戻った。
「えっと、お姉さんが受けてくれるの?」
「うん。お母さんの治療のために、ツクモソウが必要なんだよね?安心して良いよ、私はこれでもSランクの冒険者だからね」
ニッと笑ったら、少年も可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「Sランクっ……!お姉さん、お願いしますっ……!」
「うん、任された」
やっぱり肩書って大事だなって思う。
私の見た目はとてもじゃないけど強そうには見えないだろうからね。
さて、それじゃ受理されたら生息場所を聞いて向かうとしよう。