12話.独立する姉妹
「「はぁっはぁっ……はぁっ……」」
「よし、これくらいにしようか。二人ともお疲れ様」
その言葉に、二人は背中合わせに座り、足を延ばす。
王国フォースのインペリアルナイトマスター、カレン=ジェミニとアニス=ジェミニ姉妹だ。
今私達は、王都フォースのお城の地下……の更に地下にある、特別訓練室を借りて、手合わせを終えたところだ。
というのも、あの魔剣ゴエティアの事件が終わった後に、私の腕が上がりすぎている件について詰め寄られたので、正直に時の世界の事を話した。
カレンとアニスも似たような場所で訓練したとはいえ、あくまで似たような場所でしかない。
追いかけて追いかけて、それでも届かない背中に、二人は諦め……るなんてコトもなく。
可能であれば、その場所を使わせて欲しいと言ってきた。
まぁ二人なら良いかと、母さんに話を通したら普通に許可が出たので、あの成長しなくなる魔道具を二人に渡し、絶対に外さない事を念入りに伝えてから、時の世界へと見送った。
指南役としてミレニアが付き添ってくれないかなぁと声を掛けたら、心よく許可してくれたので(二人は青い顔になったけどきっと気のせい)シャルと一緒の四人で時の世界へと入って行った。
数分としないうちに出てきて、二人だけでなくミレニアとシャルまで、更に強くなってる気がしたのは気のせいじゃない。
「よい世界を創ったのじゃ。案は蓮華とアーネストが出したのじゃろう?また使わせて欲しいのじゃ」
「うん、ミレニアならいつでも大丈夫だと思うよ」
そう言ったら、ミレニアは嬉しそうに微笑んだ。
ちなみに、成長しなくなる魔道具は改良が加えられ、見た目が成長しないだけではなく、歳を取らなくなるようになったそうで。勿論あの時の世界限定でだけどね。
実質的な不老になる上に、時の世界に居ればこの世界の時間は全く経たないので、いつか他の理由で利用価値がありそうだと思う。
「本当に、全く時間が経っていないのですわね……」
「はい、カレンお姉様。あんなに、長い時をあの場所で過ごしました、のに」
二人の言葉は、とてもよく分かる。長く居れば居る程、その違和感は強くなるだろう。
「お帰り、皆。実感湧かないだろうけど、皆がその扉をくぐってから数分しか経ってないから、今日は始まったばかりだからね」
私がそう言うと、皆顔を見合わせて苦笑したのは面白かった。
それから、二人が私と戦いたいと言うので、そのまま戦ったんだけど……いやぁ、この二人もう人間辞めてるよ。
大精霊の力を私と同等に使いこなしているし、剣術もほぼ互角ときている。
カレンとアニスの魔力は私よりかなり低い。それは大抵の人はそうなんだけど、それでも大精霊の魔力はかなり高い。その魔力を、自身の力として80%近くを引き出している。
通常、精霊とシンクロ(同調すること。同調率が高いほど、力を引き出せる)する%は2,30%であるとされている。
精霊でそうであって、大精霊ともなれば、10%ですら難しいとされる。まぁ大精霊と契約した人は一握りらしいので、そういった魔術書にもおおよそとしか載っていないけれど。
その同調率が80%を超えているのである。もはや精霊憑依すら可能なくらいのレベルだ。
そんな二人が、凄まじい連携で攻めてくるのである。
まさに阿吽の呼吸とも言えるタイミングで、二人の息がピッタリなのだ。
お互いがお互いに、次にどう動くかを完全に理解している。それはもう、言葉を発する必要すらないレベルでだ。
カレンの剣を私が防いだ後どうカレンが動くかを完全にアニスは把握していて、カレンの動きに合わせて大鎌の攻撃がくる。
本来隙の大きい大鎌なのに、アニスは体全体を使って流れるように攻撃を仕掛けてくる為、一撃を放った後に二撃目が隙も無く飛んでくる。
流石に連撃が続くと僅かな隙は出来るのだが、それをカレンが完全にカバーしている。
本当に強い。二人と初めて戦った時も強いと思ったけれど……今の二人は、二対一なら私よりも強いかもしれない。
そう感じるくらいに、強くなっていた。
勿論、私だって簡単に負けるつもりは無いけどね。
今のはあくまで、私が私であるまま戦ったら、の話だし。
と、以前の事を思い出していたら、二人が視線をこちらへと向け、微笑を浮かべながら話しかけてきた。
「やはり、蓮華お姉様はお強いですわ。大分近づけたと思ったのですけれど……まだまだ余裕がありますものね」
「はい、蓮華お姉様は凄い、です。そこに痺れます、憧れます」
二人は肩で息をしていたのが、少しづつ落ち着いてきたようだ。
「二人も流石だよ。私はもう手加減はしてないからね?勿論、本気ってわけじゃないけど……それでも、通常に戦う中での本気は出してるから」
その言葉に二人は苦笑する。それから、少し沈黙が場を支配する。
カレンは真剣な表情をして、居住まいを正して私に向き合った。
「蓮華お姉様、聞いて頂きたい事があります」
「うん?」
アニスもカレンの横に立った。その表情は、カレンと同じように真剣だ。
「私とアニスはジェミニ家から廃嫡されました。よって、家を出ました」
「え……えええぇ!?」
廃嫡ってあれだよね、家から捨てられたって事!?
インペリアルナイトの、それもマスターの冠を継いでる二人を廃嫡とかありえるの!?
「誤解しないて頂きたいのですが、廃嫡は親からの命令ではありません。あの糞親がそんな事を言うわけがありませんわ。これは私達の独立です」
「く、糞親……?」
「はい。ここには私とアニスしかおりませんし、包み隠さずお話します。蓮華お姉様には、聞いて頂きたいのです」
それから聞いた話の内容は、貴族あるあると言えばその通りなんだけど……その本人からしたら、たまったことではない事だった。