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11話.元々の役割を果たす為に

 ユグドラシルオンラインが発売してから、8日が経った。

 人気ヴァーチャルユーチューバーの美月トウカちゃんをはじめ、多くの人達が実況生配信をするなど、全世界から注目され始めたユグドラシルオンライン。

 ユグドラシル社では、急ピッチで製作作業に取り掛かっている。国民の皆が次の販売を待ち望んでいる状態だからね。

 ちなみに予約の第二期分はすでに完売してしまっている。


 そんな中で、私とアーネストは最初の街であるミルネリアの北側にある特別訓練場へと足を運ぶ。

 今日はいよいよ、ヴィクトリアス学園での講義のお時間だからだ。


 特別訓練場は、外の誰でも一緒に入れる共有のフィールドとは違い、IDを登録した人達のみが一緒のフィールドに入れる仕組みだ。

 秘密裏に訓練したい場合とかにも良いのかな。ただし、一般開放されている訓練場とは違い、時間でユルがかかる。

 今回ユルを出してくれるのは学園なので、私達の懐は痛まないのだけど。

 いや別にこれくらい出すよって言ったんだけど、学園長のシオンさんが『とんでもない』と言って受け入れてくれなかったのだ。

 ホント気にしなくて良いんだけどなぁ。


 特別訓練場に繋がる魔法陣の上に立つと、メニューが空中に出現する。

 その中でヴィクトリアス学園と表示されている項目をタップし、認証開始。

 そう時間は掛からずに、その場からワープする。


 景色が変わり、広い空間に訓練場にもあった案山子が等間隔で並んでいた。

 その横の運動場のような砂場に、学生服を着た人達がたくさん集まっていた。

 アバターは現実の服も取り込めるので、この講義ではヴィクトリアス学園の生徒であると分かりやすくする為、着てもらう事にしたそうだ。


 私とアーネストが現れた事で、緩んでいた空気がピシャリと変わったのを感じる。

 軍隊じゃないんだから……とは思ったけれど、彼ら彼女らは本当に強くなる為に学園に通っているんだ。

 誰もが真面目に、授業を受けている。なら、こちらも真面目にしないと失礼だよね。


「へへ、良い空気じゃねぇか」


 アーネストは笑ってそう言う。本来アーネストは講師ではない。

 だけど、前生徒会長にして私の兄という肩書は大きく、また現生徒会メンバーの強い希望もあり、アーネストも講師に加わる事になった。

 ちなみに、現生徒会メンバーはアーネストとタカヒロさんが鍛えたエリク君達だ。

 今日の訓練にも参加したかったそうだけど、学園イベントの会議があるらしく、泣く泣く諦めたらしい。


 皆の前に立ち、見渡す。

 皆真剣な表情で私の方を見ていた。


「おはよう。ヴィクトリアス学園特別講師の蓮華だよ。まぁ、見た目皆違うし分からないけど……初めましての人もいるだろうからね」

「俺は前生徒会長のアーネストだ。俺の事は知らなかったら逆におかしいレベルだけどな?何度も全校集会で顔出してるし。ちなみに、俺も蓮華と同じで一人も分かんねぇぞ。せめて訓練くらい見た目同じにしてくれよ」


 アーネストの発言に皆クスリと笑う。流石に緊張の解し方を心得てるなアーネストは。

 私はそういうの苦手なので、正直助かる。


「ふふ、無茶言わないでアーネスト様。アバターは二人持てないんだからねぇ」


 そう合いの手を入れるのは、この講義のメイン担当のバニラおばあちゃんだ。

 私とアーネストは、時々講義に来るだけだからね。

 その時に配信用に動画を撮って、公開をする。学園生と騎士団向けの配信だね。

 勿論一般公開なので、私をチャンネル登録している人達は普通に気付くだろうけど。


「ちなみに、皆もインストールしたと思うけど、ここでの訓練は実際のステータスとは違って、訓練用のステータスになるよ。それは私とアーネストも同じで、皆と同じステータスだからね」


 その言葉に、少しざわつく。それは予想してなかったようだね。


「はい、まだ蓮華様がお話中です。静かに!」


 パンパンと手を叩き、ざわついていた雰囲気を正すバニラおばあちゃん。

 ちゃんと公私を使い分けているので、講師としている私には蓮華様と言うんだよね。

 キリッとしているバニラおばあちゃんは、普段ののんびりとした姿とは違い、とてもカッコイイ。


「ある程度訓練が進んだ所で、動画でも訓練の仕方を撮って公開する予定だから、復習はいつでもできるからね。自分でユグドラシルオンラインを買えなかった人でも、この訓練用データは貸出してもOKだから、自主訓練をいつしてくれても構わない。使用料は学園が負担してくれるから、いつでも大丈夫だからね」


 その言葉に、皆の目が輝く。ホント訓練したいんだな皆。


「あー、ちなみにお前らはまだ学生だって事忘れんなよ?徹夜で訓練して、次の日寝坊なんてしてみろ、貸し出しが禁止されるかもしれねぇからな?そこんとこ注意して利用すんだぞ」


 アーネストが釘を刺すのを忘れない。

 そう、このゲームは確かに現実では怪我をしないけど、体は『起きている』のだ。目を閉じているけど眠っているわけじゃない為、ゲームからログアウトすると異様な眠気に襲われる事もある。

 そんな長い時間ゲームする人はいないと思う事なかれ。中には48時間ぶっ続けでゲームして、ログアウトしたら眠すぎて爆睡した人が居たのだ。

 なんでそんな事知ってるかというと、その彼は2日間一切部屋を出なくて、不審に思った両親が部屋へと強行した所、丁度バタリと倒れた彼と遭遇し、病院へ連絡。

 目覚めた彼から経緯を聞き取り、理由が判明した。


 ユグドラシルオンラインが楽しくて、ずっとしていたとの事で。

 病院から連絡を受けたユグドラシル社は、即日ゲームは一日一回はログアウトするようにと全国へ放送する事となった。

 笑い話ではあるけど、これ実際想定外だったんだよね。だって、もし起動したままなら、私の魔力に覆われた人に触る事は出来ないんだから。

 なので急遽、ゲーム内のシステムで警告を出す事にした。24時間接続している人には一度ログアウトをするようにシステムがメッセージを送るようにしたのだ。

 これに従わない場合、全ステータス99%ダウンという凄まじい環境の中でプレイする事になるので、一気にそういった人は減ったようだけど。


 後、対策としてゲームをしている時に不調が起こったり、何かがあった時に解除出来るように、ディスペル魔石を造る事になった。

 これは悪用されないように、ユグドラシル社内でしっかりとしたチームを設立して、一部のメンバーにのみ渡す事にしたよ。

 また、各国の騎士団の、インペリアルナイト、ロイヤルガードの方達の認めた方へも、渡しておく事になっている。

 国を代表する人達の認める人達なら信用できるからね。


「さて、それじゃ早速だけど、二人一組になってもらおうかな。あ、その場で端から横の人とペアでね。仲の良い人悪い人関係なく、場所で決定させてもらうよ」


 こういうのは、こっちで決めてあげた方が良いのだ。


「うん、それじゃ向き合ってくれるかな?そう、その状態で顔だけこっちに向けてね。アーネスト」

「おう」


 そうして、私とアーネストも皆と同じように向き合う。


「皆のステータスの中に、スキルが何個かあると思う。その中の、『Vスラッシュ』というスキルをまずは覚えてもらおうと思う」


 この『Vスラッシュ』は、読んで字のごとくVの形に軌跡がなるように斬る技だ。


「まず、スキルとして『Vスラッシュ』を使うね」


 言うと同時に発動させる。アーネストはそれを同じスキルを使わずに同じ軌跡で弾く。

 皆が歓声を上げた。


「今の分かるかな。私はスキルとして『Vスラッシュ』を発動させたけど、アーネストは自分の腕で『Vスラッシュ』を発動させたんだ。で、大事なのはここからでね。スキルとして『Vスラッシュ』を発動させる場合、右上から左下へ斬って、それから左上に斬り上げる流れに確実になるんだ。でもアーネストは、左上から右下に斬った。つまり、決められた動きとは違う斬り方が出来るんだよ」

「「「「「!!」」」」」

「ちなみに、逆から斬ってっけど、システムでは『Vスラッシュ』と認識されてっからな。これはPVPでも使いやすいぜ?システムに頼ってる奴には、これは防げねぇ。この授業を受けてるお前達は、他の奴らより一歩上にすでに立ってるんだぜ?」


 アーネストの言葉に、誰かの唾を飲み込む音が聞こえた。皆、目を輝かせている。


「千里の道も一歩よりってね。それじゃ、まずは皆スキルとして使って、自分でも使えるように練習していこう。ちなみに痛覚はONだよ。大分痛みは減らしてあるけど、痛みがないと覚えないからね」


 皆の顔が少し引きつった気がするけど、気にしない。


「お前って少し母さんに似てきたよな……」


 聞こえない。

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