2話.え?普通に嫌ですけど
バニラおばあちゃんの言うバーチャルユーチューバー。
あんまりSNSの事には詳しくない私だけど、元の世界ではテレビに次ぐメディアとして注目されていたのがユーチューブっていうんだったかな。
そこに動画を投稿して広告収入を得る人々の事をユーチューバーといったはず。
確か、実際の自分ではない、3Dキャラクターを使って動画を投稿するのが、バーチャルユーチューバーだったはず。
だから、そのキャラクターを動かしたり話したりするのは男でも、見た目や声が女の子。その逆も勿論あって、私にはあまり理解できない界隈のお話だった。
私がこれだけ知ってるのも、友人がそのバーチャルユーチューバーだったからだ。
勿論男なんだけど、3Dは可愛い女の子だったし、歌ってみただったり踊ってみただったり、色々な配信をしていたのを見せられた。
私には分からなかったけど……本当に楽しそうに説明してくる友人を見て、私も楽しくなったのを思い出した。
あいつがもしこの世界に転生ないし転移してたら、滅茶苦茶嬉しそうにバーチャルユーチューバーになってる気はするけど……まぁ、そんな事あるわけないよね。
「バーチャルユーチューバーって言うのはねぇ」
「あ、一応知ってます」
「蓮華が知ってるって事で、俺も知ってる」
まぁうん、精神が分かれる前の知識だからね。日本に居た頃の知識なら、私達に差異は無い。
「それなら話は速いわねぇ。それでね、まずはTWITTERアカウントを作って貰って、それから動画配信サイトに登録を……」
「ちょっと待ったちょっと待った」
「どうしたのぉ?」
「なんか当たり前のように受ける感じで進んでますけど」
「嫌なのぉ?」
「え?普通に嫌ですけど」
「「「……」」」
少し間があった。
「嘘ぉ!?若い子って、こういうの好きなんでしょぉ!?」
心底ビックリという感じでバニラおばあちゃんが言う。
いや、若い子に限らず好きな人は好きだろうけども。
「私中身はおっさんなので……」
「まぁ俺も見た目詐欺っつぅか……」
私達は目を逸らす。それを見たバニラおばあちゃんは慌てて謝るので、笑ってしまった。
「うぅ、話の展開が想像と違っちゃったわぁ……」
悲しそうにそう言うバニラおばあちゃんに、私達は何も言えない。
きっと、知らなかった私達が喜んで登録しようとすると思ってたんだろう。
「うーん……お金は別に要らないし、有名になりたいわけじゃないし、人との付き合いも得意なわけじゃないし……」
「え?」
「え?」
前半はバニラおばあちゃん、後半は私だ。
何故か驚いた顔で私を見るバニラおばあちゃん。
「お金はまぁ、分かるわぁ。ありえない事だけれどぉ、正直これから稼ぎがゼロでも問題ないでしょうしねぇ。有名っていうのはもう、手遅れだけどぉ……」
「ぐふぅ……」
「ぶはっ……」
胸を抑えて苦しむ私を見て、吹き出すアーネストが憎い。
「でも、レンちゃんが人付き合いが苦手って、意外だわぁ」
「私、趣味が花を育てたりするガーデニングだよ?基本一人で居る事が好きだったくらいだよ。今はもうコミュ障とまでは言わないけどね」
「コミュ……?」
おっと、バニラおばあちゃんには馴染みのない言葉だったかな。
ドライアドに協力してもらいながら育てた庭園は、今では色とりどりの花が咲き誇っている。
同じ時期に咲くはずの無い花たちが、美しくも華やかに埋め尽くす姿は壮観だ。
それを見ているだけでも、一日過ごせるよ私は。
アーネストも元私だけあって、花は大好きなんだよね。
二人揃って、寝転がって過ごした事もある。途中で大精霊の皆やアリス姉さんも来たので、結構な人数でごろごろしてたんだけども。
大精霊が集まってるせいか、精霊や妖精達も近くに集まってきて、幻想的な風景になってた気がする。
母さんがご飯で呼びに来るまで、その時間は続いたからね。
「そうなのねぇ……なら、これは頼めないわねぇ……」
と残念そうにスマホを仕舞おうとするので、一応話を聞く事にした。
「これからヴィクトリアス学園でユグドラシルオンラインを使って講義をするのだけど、アーネスト君とレンちゃんに戦い方の動画を配信して貰えたらって思ったのぉ。動画を見ながらなら、各自で復習もできるし……なにより、二人の力がこの世界では皆と一緒でしょぉ?だから、二人も楽しめるんじゃないかと思ったのぉ……」
そこまで聞いて、私達は顔を見合わせた。
バニラおばあちゃんは、私達の事も考えてくれていたんだね。
自分の仕事だけでも手一杯で忙しいだろうに、そんな中でも私達に何かしてあげたいって思ってくれている。
なら、その気持ちに応えないのは、男じゃないだろう。
「ふぅ、分かったよバニラおばあちゃん。ただ、何をどうしたら良いとか、私には全く分からないから、教えてね」
「はぁ、しょうがねぇなぁ。俺も全く分からねぇから、教えてくれよな」
「ほんとぉ!?やったぁ!嬉しいわぁアーネスト君!レンちゃん!」
そう言って私達二人を抱き寄せハグするバニラおばあちゃん。ぐぅ、抱きしめられるのは慣れているけれど、やはり恥ずかしいわけで!
アーネストも耳まで真っ赤だ。
「よーし!それじゃ、まずはTWITTERのアカウントを作成しましょうねぇ!二人ともスマホを出してねぇ!」
滅茶苦茶テンションの高いバニラおばあちゃんの説明を受けながら、TWITTERアカウントを作成する。
登録名って早いもの勝ちな所があるので、大抵短い名前で登録とかできなかったりする。
なのに、@rengeという超短い名前で登録出来てしまった。
「うふふ、製作元はユグドラシル社ですものぉ。その名前で登録できないようにしてたのよぉ?驚いたぁ?」
この人職権乱用してますけれど。
蓮華@renge
0フォロー1フォロワー
あれ?今登録したばかりなのに、フォロワーが1ある?
「うふふ、レンちゃんの1フォロワーゲットォ♪」
バニラおばあちゃんかいっ!
「っと、それじゃ俺も蓮華をフォローしとくか」
「あー、なら私もアーネストとバニラおばあちゃんはしとくかな」
「うぅレンちゃん、やっぱりアーネスト君が先なのねぇ……」
「それ大事なの!?」
「後はぁ、動画配信をするチャンネルを登録しないとねぇ。ちょっと指示を出すから、待っていてねぇ」
そう言って、バニラおばあちゃんが凄まじい速さでスマホをタップしている。
その間、なんとなくフォロワーのバニラおばあちゃんのアイコンをタップしてリンクを飛ぶ。
バニラ=ハーゲンダッツ@banira=ha-gen
35フォロー13,855,521フォロワー
「おわぁっ!?」
「ど、どうした蓮華!?」
「バニラおばあちゃんのアカウント見たら分かる……」
「お、おお?……うおぉっ!?」
あまりのフォロワーの多さに二度見してしまった。
流石バニラおばあちゃん、元の世界なら芸能人とかと同じ存在だもんね。
にしても、1385万フォロワーって。
ちなみに、このスマホが普及しているのは地上の12国だけだ。
魔界には普及していない。ノルン達は持っているけどね。
バニラおばあちゃんは騎士団向けのコメントを残しているみたいで、結構真面目なアカウントだったのが意外だった。
「おお、美味しそうな飯だな」
と思ったら、今日の簡単な夕食ってタイトルで写真が。
こういうのなんて言うんだっけ。とりあえずイイネだけしておこう。ハートマークが赤色に変わる。ああ、懐かしいなこれ。
アーネストも同じツイートにイイネしておいたようだ。イイネリストの上に載ってる。
そうしてバニラおばあちゃんの用事が終わるまで、適当にツイートを見て周るのだった。
あれ?なんか知らない間に、フォロワーが増えてる?ツイートも何もしてないんだけど。
蓮華@renge
2フォロー982フォロワー
アーネスト@a-nesuto
2フォロー865フォロワー