1話.バーチャルユーチューバー
お待たせしました。
第五章開幕です。この章はスローライフ編となり、ゆるふわなお話が顕著になるかと思いますが、お楽しみ頂けたら嬉しいです。
魔剣ゴエティアの件から二年と少しの月日が流れた。
アーネストは十九歳に、私は十七歳になった。
ヴィクトリアス学園は本来十六歳から十八歳までの三年間、学ぶ場所だ。
アーネストは十六歳の途中から編入学、私は十五歳の時に特例で入学した。
まぁ、母さんの圧力があったのは確かなのだけど、実力は示したので許して欲しい。
特例が続いて、歴代最速で卒業証書を受け取ったし、その上臨時講師になったり、どうしてそうなるのって展開だった。
今ではいつ行っても良いし、いつ講師をしても良い特別講師っていう、全国から数万人が集うマンモス校の超特例枠を作られたんだけど。
ならアーネストもって言ったら
「俺教えるの上手くねぇんだよ」
でバッサリだった。『天才って感覚で説明しがちだもんな』って言ったら、『お前が言うな』って言われた、何故。
話が逸れたけれど、今私とアーネストは、ヴィクトリアス学園の特別室に居る。
目の前には金髪美人ハイエルフで、名前が高級アイスクリームな(失礼)バニラ=ハーゲンダッツさんが優雅にお茶を飲んでいた。
「ありがとうねぇーアーネスト君、レンちゃん。本当に助かっちゃったぁ」
「まぁ、俺ら遊んでただけだけどさ」
「だね。面白かったよバニラおばあちゃん」
私のバニラおばあちゃん呼びに、嬉しそうに笑うバニラおばあちゃん。
何故かこの人は、おばあちゃんって呼ばれたがるのだ。
なんでも、転生前の記憶が影響しているらしくて、高齢で大往生したらしく、その感覚が抜けないらしい。
流石にこんな美人を皆の居る前でおばあちゃん呼びは出来ないので、二人きりかアーネストが居る時くらいなら、と了承してもらった。
だって断ろうとすると凄く悲しそうな顔するので、嫌と言えなかったんだよ……。
っと、また話が逸れてしまった。
今バニラおばあちゃんが言っているのは、VRゲームの事だ。
学園に入学する前から、試作が出来たら、私とアーネストに試してもらっても良い?って聞かれていて、OKしてたんだよね。
で、それをここ数カ月手伝っていた。
あくまでゲームなんだけど、痛覚もちゃんとある。しかも食べたり飲んだりできて、味も満腹感まであるという。
いわゆる、もう一つの世界があるという感じなのだ。
名前はユグドラシルオンラインとするそうだ。ユグドラシル社が独占販売するそうで、ゲーム内のお金をユグドラシル社の製品に限り使う事ができるようにするらしい。
販売日も決まってて、その最終調整として私とアーネストはここ数カ月、ずっとゲームして遊んでたわけだ。かなりやり込んだよ、うん。
で、なんでこのヴィクトリアス学園でその話をしているのかと言えば、ヴィクトリアス学園の選択授業の一つに、このユグドラシルオンラインが組み込まれるからだ。
リアルでは怪我せずに戦い方を学べる画期的な魔道具(VRゲームは魔道具扱いなので)として注目を浴びたのだ。
主に国王様方から。バニラおばあちゃんは何を隠そう、王国エイランドが誇るロイヤルガードの一人。
王様と個人的な話をする機会も多く、話がいったらしい。
加えてユグドラシル社の実質社長で(名義は私とアーネストが社長なんだけど)、ヴィクトリアス学園でも時々臨時講師までしてるという、超忙しい人なのだ。
その超忙しい人が、ヴィクトリアス学園で講師としてユグドラシルオンラインを使って生徒達に訓練をしてくれるっていう形になるのだという。
その話を聞いた時に、何かバニラおばあちゃんが含みのある笑顔だったのが気になるんだけど……気にしてもしょうがない。
「それでね、アーネスト君とレンちゃんはTWITTERはしているかしらぁ?」
「私はしてないよ」
「俺もしてねぇなぁ」
私達だけで使っていたスマホは、実際に文字を打たなくても脳内で考えるだけで送れたり、頭でイメージするだけで画面が出てくるハイテクなものだ。
だけど、その性能をかなり落とし……その機械を実際に操作は必要だけど、他の面は似たような機能のある、元の世界では世間一般的に普及しているスマートフォン、通称スマホは、去年全国に発売された。
その利便性の高さから、あっという間に普及し、今ではアイテムポーチ並みになくてはならない物になっている。
この世界には転生者もかなり居るので、文字通り涙を流しながら喜んでいる人も居た。
当然、LINEや今バニラおばあちゃんが言ったTWITTERというSNS(social networking service【ソーシャル・ネットワーキング・サービス】の略)も普及している。
まぁ私もアーネストも、そういった事には凄く疎いというか……ずぼらなので、メッセージすら見るのが遅いタチなので……。
当然のように、そういう事は手付かずだ。
「やっぱりそうなのねぇ。検索しても見つからないからぁ、予想はしていたけれどねぇ」
バニラおばあちゃんがクスっと笑う。のほほんとしているけど、綺麗だなぁとぼうっと見ていると、意味の分からない事を言い出した。
「ねぇアーネスト君、レンちゃん。バーチャルユーチューバ―になってみない?」
「「へ?」」
突然の言葉に、固まる私達だった。