表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

460/713

234話.ずっと続く楽しい未来へ

 我が家に帰って、真っ先にリヴァルさんへと報告した。


「そうか……。そうか……!よく、本当によくやったな、お前達……!」


 リヴァルさんは本当に嬉しそうにして、私達を抱きしめた。

 魔剣ゴエティアが消滅した今、もうリヴァルさんが経験した未来になる事はないだろう。

 ただ、原因がソロモンではなく魔剣ゴエティアだった事と、今回私達が魔剣ゴエティアを完全に消滅させる事が出来たのは、初音が協力してくれた事が大きい。

 その点を告げると、リヴァルさんはフッと笑って言った。


「ああ、それは心配するな。私は母さんや兄さんに直接手を貸してもらうつもりだしな。過去で知ったアドバンテージは、有効活用しないとな?」


 そう言って片目を瞑るリヴァルさんは、なんていうか茶目っ気もあって、とても可愛らしいと感じた。

 その後、リヴァルさんはすぐに帰ろうとしたのを、私達は引き留めた。

 色々と理由はあったけど、一番は寂しくなるからだ。

 そりゃ、リヴァルさんは帰らないといけない理由もあるし、本来この時代に居るべき人じゃないのは分かってる。


 だけど……これでさよならなんて、嫌だった。

 そういう意味では、照矢君達もそうだ。この戦いが終わった以上、後は帰るだけだろう。

 まぁ遊園地を完成させて、皆で遊ぶ約束をしているので、まだ先にはなるだろうけどね。


 アーネストが未来に共に行くので、戦い終わったばかりで行くのは負担が大きいとかなんとか理由をつけて、一日だけ先延ばしにしてもらった。

 そしてその日の夜、リヴァルさんと一緒に寝る事になった。


 私が無理を言って、寝転びながらで良いから話をしたいと言ったら、リヴァルさんは了承してくれたからだ。

 それから、リヴァルさんの話を色々と聞いた。

 私が経験した事の無い話はどれもが新鮮で、辛くて、でも心が温かくなるような事もあって……気が付いたら、私は眠ってしまっていた。


「ふふ……疲れていたんだな。お疲れ様、蓮華。そして……ありがとう」


 私の頭を優しく撫でながら、そう言ったリヴァルさんの声はおぼろげながら覚えている。


 翌朝、リヴァルさんを見送る為に家から出ると、ソロモンが頭を地面につけながら土下座していてビックリした。


「本当に!申し訳ない事を!しましたっ!」

「えっと……とりあえず顔をあげて?ずっとそうしてたの……?」


 顔を引きつらせながら、後ろに居るリンスレットさんとアスモ、それにノルンとゼロ、タカヒロさんへと視線を向ける。


「まずは謝罪からさせないとな。今回の件は魔界と地上の仲に決定的な亀裂が入るだけでなく、魔界でも戦争が起こる可能性があった。謝って済む事ではないが、魔王として謝罪しよう。すまなかった」


 そう言って、リンスレットさんをはじめ、皆が頭を下げる。

 これに慌てるわけにはいかないよね。

 リンスレットさん達は、国を代表して謝罪しているんだから。


「母さん」

「分かってるよ、レンちゃん。顔を上げて?リンは一番信頼している腹心を助けに寄こしてくれたでしょう?実際、ノルンとゼロの二人のお陰で対処が出来たのだから。国王達にはある程度伝えているし、後は形式で訪問して軽く挨拶するだけで良いと思うわよ?」


 軽く笑ってリンスレットさんへとそう言う母さん。


「ああ、すまないな」


 リンスレットさんも、ようやく笑顔を向けてくれた。

 そしてリヴァルさんへと視線を向ける。


「帰るんだな」

「ああ」


 リヴァルさんは短く答える。リンスレットさんも分かっているのか、それ以上は何も言わなかった。


「良ければ、我々も立ち会って構わないか?」

「それは構わないが……」

「なら決まりだな」


 そう言ってノルン達を見ると、皆頷いていた。

 ソロモンは居心地悪そうにしていたけれど、何かをリヴァルさんに耳打ちした。


「!!……そうか。礼を言う」

「いや……僕にはこんな事しか出来ない。未来の僕は、多分魔剣ゴエティアに完全に自我を支配されていると思う。遠慮なく、殺してくれ」


 リヴァルさんはそれには答えず、悲しそうな表情を一瞬した後……歩き出した。

 私達はそれに続く。場所はきっと、初めてリヴァルさんと会ったあの場所だろう。


「アリス姉さん」

「「うん?」」

「あ、あはは。えっと、未来の方の」

「おっと、うっかり」

「あはは!なーに蓮華さん!」


 今のアリス姉さんより一回り小さいアリス姉さんに、伝える。


「リヴァルさんを……ううん。私を、よろしくね」

「!!」


 私には、こんな事しか言えない。勿論、言われなくたってアリス姉さんは力を貸してくれるだろう。

 それも全力で。


「もっちろん!」


 凄く良い笑顔で、返事をしてくれるアリス姉さんに、私もつられて笑う。

 リヴァルさんも足を止め、それを見ていた。

 それも一瞬の事で、軽く微笑んでからまた歩き出した。

 この平和なユグドラシル領の森林を、目に焼き付けるように。


 そして歩く事しばらく。リヴァルさんは足を止めて、こちらに振り向いた。


「……あー、だめだ。湿っぽいのは苦手なんだ。だから、これだけ。ありがとう、皆」


 リヴァルさんが一人一人、視線を向けていく。

 皆、それに合わせて頷き、声を掛けていった。

 それから、その視線が私で止まる。


「蓮華」

「うん」

「家族を、守れよ」

「うん」

「友達を、守れよ」

「うん……」

「それから……。……あー、うん。ありがとな!」

「っ!!リヴァルさんっ……!」


 照れくさそうに、笑って礼を言うリヴァルさんに……我慢が出来なくなって抱きつく。


「絶対、絶対母さん達を助けてね、リヴァルさん……!」

「ああ、約束する。今度会う事があったら……その時は……全員助けてからにするさ」

「うん……!」


 それから、ゆっくりとリヴァルさんから離れる。

 アーネストがリヴァルさんの隣へと並んだ。


「ま、俺も行くから安心して待ってろよ。操られちまった未来の俺に喝を入れてくるぜ。ノルンにもな!」

「ちょっ!私関係なくない!?」


 なんて抗議するノルンに笑いながら。


「それじゃ、しんみりするのもあれだから、これで帰るよ。アリス姉さん、こっちへ」

「はいはーい!この時代の私、この時代の蓮華さんをよろしくね!」

「まっかせて!」


 可愛いアリス姉さん二人が微笑み合う。

 内容が内容だけに、ちょっと照れくさい。


「それじゃ……」

「ちょーっと待った!」

「え!?」


 母さんが驚いた声を上げる。

 あのリンスレットさんすら、驚いていた。

 何事かと視線を後ろに向ければ、アテナとクロノスさんが歩いてきていた。


「リヴァル、水臭いじゃない。私も手を貸してあげるわ。本当はコッソリついていくつもりだったんだけど、敵がソロモンではなく魔剣ゴエティアなら、私が出ても構わないからな!」

「はい、その通りですアテナ様」

「ええっと……良いのか?」


 リヴァルさんが苦笑しながら答える。予想だにしない援軍だもんね。


「良いに決まっている。そもそも、未来の蓮華は今の蓮華の先だからな。どう成長させれば良いかの見本になる。帰ってきてからの蓮華の育成は任せなさい」

「えっ……」


 私は急に冷汗が止まらない。どういう事なの。

 そんな私を見て、アーネストが吹き出す。


「ぶはははっ!こりゃ負けてらんねぇな。未来の俺を助けて、戦い方学んでくるとすっか!」


 笑いながらそう言うアーネストに、少し落ち着いてきた。

 いやアテナの考えがまるで読めない。


「そうか。力を貸してくれると言うのなら、断る理由は無い。アテナ、それにクロノス、ありがとう」

「気にするな。それこそ、水臭いと言った言葉の通りだ」

「私はアテナ様に従っているだけですので、お気になさらず」


 執事のように一礼するクロノスさんに苦笑するリヴァルさん。

 そしてもう一度、皆を見渡して……


「ありがとう、皆」


 そう言って、リヴァルさんとアリス姉さんにアーネスト、アテナにクロノスさんの姿が消えた。

 で、感傷に浸っていた数秒後、アーネストだけボロボロになって表れた。どういう事なの。


「蓮華、か?それに皆……そうか、あん時から時間、経ってねぇんだな……」


 アーネストがボロボロな事、そして少し身長が伸びている事から……未来で戦ってきたんだと分かった。

 きっと、精霊樹の世界から帰ってきた時と同じなんだろう。

 母さん側を初体験したって事だよね。


「アーネスト、どうだったんだ?」


 なので色々聞きたい事はあるけれど……そう聞く事にした。

 すると、アーネストはニカッと白い歯を見せて笑いながら、親指をグッとしてこちらへ向けてきた。


「よくやった!アーネスト!」


 私はアーネストへと飛びつく。それはつまり、リヴァルさん達は皆を助け出し、魔剣ゴエティアに勝ったという事に違いなかったから。


「とっとっとぉっ!?」


 フラフラとして、アーネストはそのまま私に押し倒される形になった。

 かなり力を失っているようで、立つ事すらやっとだったのかもしれない。


「シャッターチャンスよロキッ!」

「分かっていますとも!」

「おい、お前ら……」


 母さんと兄さんが阿呆な事を言っているのを、リンスレットさんが呆れて止めている。


「ったく、お前はやっぱ子供だよな蓮華」

「なにおぅ!?」

「はは。ま、俺はそんなお前が好きだけどよ」

「え?」

「え?」


 私の漏らした「え?」に、アーネストも「え?」と答える変な空気に。

 その後、私達は笑い出す。


「あはは。さて、詳しい話は後から聞くけど……とりあえず寝たいんだよな?」

「おぅ。もうめっちゃ疲れたぜ。母さん、なんか飯作ってくれよー」

「もっちろん!それじゃ、帰って腕によりをかけて美味しいご飯作ってくるね!ロキ、手伝って!」

「仕方ありませんね。って引っ張る必要はありませんよマーガリン!?」


 珍しく兄さんが母さんに引っ張られていく。

 あの、一番纏めなきゃいけない人達が一番最初に居なくなっちゃったんですけど。


「さて、私とソロモン、それにアスモとタカヒロはこれから国を周らねばならん。その間ノルンとゼロを頼んで良いか蓮華」

「あ、うん!それは全然構いませんよリンスレットさん」


 そう言ったら、リンスレットさんは穏やかに微笑んでくれた。


「それじゃ行ってくるぞ。迷惑をかけるんじゃないぞノルン、ゼロ」

「分かってるわよ!子供か!」

「了解」

「子供はいくつになっても子供なんだノルン。ではな」

「会長、また後でお話がありますので」

「俺にはねぇんだけどなぁ!?」

「ククッ……そう言うなアーネスト。こいつはこいつで、本気で心配していたんだぞ?」

「ぐっ……タカヒロさんがそう言うなら、仕方ねぇな……」

「ナイスフォローですよタカヒロ。後でアスモちゃんポイントを一つ上げますね!」

「いらんわっ!」


 うん、この人達はホントいつも通りだな。ソロモンが何か言いたそうにしてたけど、結局俯いてしまった。

 そうしてリンスレットさん達もこの場から居なくなる。


「そういえば、アテナとクロノスさんは?」


 誰も気にしていないみたいだったから、アーネストに肩を貸しながら聞いてみる。


「あぁ、あの二人はリヴァルさんの秘術なしでも帰れるらしくてよ。一緒には帰らなかったんだよな。つーか、あの神ごっついわ。勝てる気がしねぇ」


 アーネストがそこまで断言するのか。思わずゴクリと唾を飲み込んでしまった。


「ま、俺も未来の俺から色々と剣技を学んできたし、今なら蓮華にも負けねぇぜ?」

「む……聞き捨てならないな。なら、一晩休んだら勝負といくか?」

「おお、望む所だぜ!」

「あら、なら私達も混ぜなさいよね。今回混ざれなくて消化不良なんだから」

「アーネストがあれからどれだけ腕を上げたのか、気になるな」


 不敵に笑う二人に、私も笑う。

 フラフラなアーネストを支えながら、私達は家へと向かう。


「ふふっ、ご飯楽しみだね蓮華さん!」

「うん。母さんの料理は最高だからね」


 まだ朝のひんやりした空気が気持ち良い。

 アーネストは恐らく眠ってしまうだろうから、ノルンとゼロと一緒に何をして過ごそうかな。

 なんとなくスマホを見たら、また通知が+99になっているのを見なかった事にした。


 照矢君達は今カレンとアニスの家に招待されているから、それ関係のLINEがたくさん来てそうな気がする。

 皆で遊園地を作る予定だし、大精霊の皆にも協力してもらおうかな。


 未来を想うと気分が明るくなる。

 とりあえず、まずは朝食だよね!


「いでぇ!?蓮華!もっと丁重にだなっ!」

「男の子だろー!」

「蓮華にだけは言われたくない事を!」

「なにおぅ!?」

「アンタ達は……」

「あはははっ!」


 またくだらない事でぎゃいぎゃいと言い合う私達。それを見て呆れるノルン。

 アリス姉さんは楽しそうに笑って、ゼロは苦笑している。

 私達はきっと、ずっとこんな感じで暮らしていくんだろうなと、そう思う。


 今日も楽しい一日になりそうだね。

お読み頂きありがとうございます。

これにて、第四章魔界編が終わりとなります。

2020/05/01日から書き始めて、今日までで234話とかなり長くなってしまいましたが、ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました。


五章も変わらず読んで頂けると嬉しいです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 成長して少し大きくなったアーネストだとおうっ!? これは……効きます。 あ、第四章完結おめでとうございます。おつかれさまでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ