45.事件の解決
「私、外を見周りしてこようか?」
ミレニアの屋敷でじっとしておくのもなんなので、言ってみたんだけど。
「なに、その必要はない。今妾の魔力がこの街全体を包んでおるでな。異変があればすぐに分かる」
あれ、もしかして私要らなかったかな、これ。
と思っていたら。
「ふふ。妾がそれを感じとり、すぐその場へ向かったとしても、すでに吸血鬼化は始まっておろう。蓮華、お主の存在は助かるのだ」
この人、すぐに察して言ってくれるよ。
「ええ、むしろ必要ないのは私ですからね蓮華」
なんて兄さんが言ってくる。
これにはミレニアは何も言わなかったので。
「私が必要としてるんですけど、ダメですか兄さん」
と言っておいた。
私の言葉は何故か兄さんには効くので。
「う、いや、蓮華が望むのなら構いませんよ」
その兄さんの態度に吹き出すミレニア。
「くはっ!お主本当にロキか!?」
「五月蠅いですよ」
そう言って横を向く兄さんが面白かった。
「うむうむ、妾もお主の事が気に入ったぞ蓮華。この件が終わっても、もし何かあれば妾に伝えよ。ロキがおるから不要かもしれぬが、妾も力になってやるでな」
なんて言ってくれる。
いや、それはかなり嬉しい。
「ありがとう、ミレニア」
だから、笑顔で心からの礼を言えた。
「う、うむ。お主、心から言っておるな。ロキ、これにやられたな?」
「そういう事です。蓮華には裏が無い。だから、これほどまでに心地良い」
なんか二人が言ってるけど、どういう事だろう?
と考えていたら。
「む、掛かったな。今度こそ逃がしはせぬ、行くぞ蓮華、ロキ」
その言葉にすぐにミレニアにつかまる私。
そして景色が変わる。
ここは、路地裏?
見れば、まだ私くらいの女性が倒れている。
「なっ……ど、どうしてミレニア様がっ……!?」
慌てている奴がいるけど、あいつが犯人だろうか。
でも、今は関係ない、倒れている女性の元に向かう。
「くっ、逃げ!?」
「逃がすわけがないでしょう。私達に見つかった時点で、貴方は詰みですよ」
兄さんがそいつを魔法で拘束している。
あれでは、逃げるどころか、動けないだろう。
コッ
「ヒッ!?」
ミレニアが一歩近づく。
それだけで、そいつの震えが増す。
「下郎が、手間を掛けさせおって。妾に葬られる事を喜べ」
瞬間、とんでもない魔力がこの場を包む。
もはや、そいつは見ていられない程取り乱している。
「お、お許しくださいミレニア様!わ、わわ我も好きでこんな事をしていたわけではないのです!」
「ほぅ、誰ぞ命令されておったのか?」
ミレニアが冷たい目で見ている。
私は、何を言ってもそいつの運命は変わらないだろうなと思った。
「そ、それはっ……」
「フン、ただ衝動を抑えられなかっただけだろうが、下郎が。吸った相手をちゃんと自立させてやっておれば、まだしも……もはや語る言葉は無い。消えよ」
「お、お許……」
ドォォォォン!!
凄まじい魔力の渦がそいつにぶつかったと思ったら、塵も残さず消滅した。
文字通り、何も残っていない。
体が少し震えた。
なんて、凄まじい魔力なんだろうか。
さっきは、あれをぶつけられそうになったのか。
兄さんが居なければ、私はここに立っていられなかったんだな……。
「蓮華、その者の治療は終わったか?」
とミレニアが聞いてくるので。
「うん、『メディカルホーリー』は掛けておいたよ。後は、目が覚めれば大丈夫だと思うけど、なんでこんな時間にこんな所に……」
確か、夜は外に出ないようにしているって聞いていたのに。
「蓮華、人間の中にも、いえ人間の中にこそ、規則やルールに従わない者は多い、そういう事ですよ」
と兄さんが言う。
そういう、ものなのかな。
自分の命が掛かっているのに……。
「さて、これで事件は解決じゃろう。今夜はもう遅い、妾の屋敷で休むが良かろう」
まぁ、家にも兄さんがいるからすぐに帰れるんだけど。
せっかくミレニアがこう言ってくれているんだから、そうする事にした。
兄さんもそう思ってくれたのか、特に何も言わなかった。
そして、ミレニアの屋敷に戻る。
そうしたら、何か知らない人が居た。
「ミレニア様、お帰りなさいませ」
「おお、シャルか、もう終わったぞ」
「はい、流石はミレニア様でございます。まったく、ミレニア様のお手を煩わせるなど、吸血鬼の風上にもおけませんね」
なんて言っているメイド服を着たこの人、もしかしてこの人も?
「蓮華、紹介しよう。妾の配下の一人、シャルロッテ=リーズ=カルデロースじゃ。メイド服を着ておるのは、妾の世話がしたいかららしい」
「以後、お見知りおきを、蓮華様」
なんてスカートをつまんでお辞儀してくる。
「こ、こちらこそ。えっと、レンゲ=フォン=ユグドラシルと言います」
その言葉に、ミレニアも驚いた気がする。
あ、そういえば、ミレニアにも名乗ってなかったな。
「あ、あの偏屈が、ユグドラシルの姓を名乗らせるのを許可したのかロキ!?」
え、偏屈?
「ククッ。ええ、そうですよミレニア。驚いたでしょう?」
「驚くに決まっておるわ!お主、何をしたのじゃ!?」
とミレニアが詰め寄ってくる。
「え、ええと、偏屈って母さんの事?」
その言葉に。
「ぶはっ!?か、母さん!?あ奴が母さんなのか!?くはっ……もはや腹が痛い!今日はなんと楽しい日か!」
なんて笑っている。
「ミレニア様がお笑いになるなんて、数千年ぶりでございますね……私も嬉しく思います」
なんてこのメイドさんも笑顔なんだけど、訳が分からない。
と思っていたら、急に真面目な顔をして、ミレニアが言う。
「蓮華、妾はお主の事をまだほとんど知らぬ。じゃが、これだけは言っておこう。マーガリンを母と呼ぶお主は、妾にとっても大事な子のようなもの。何かあれば妾を頼れ。必ず、力に成ろう」
事件解決前も、そう言ってくれたが、今度はそれよりも力強い眼差しで言ってくれた。
なんだろう、私は特別な事は何もしていない。
だから。
「ありがとう。でも、私は母さんに特別な事は何もしていないよ?むしろ、私が母さんから受け取ってばかりで」
って言ったら、なんか凄い優しい表情をされてドキッとした。
「うむ、お主はそうなんじゃろうな。ロキ、今ならお主が何故蓮華と共におるのか、少しだが分かる気がするぞ」
「そうですか。私としても、旧友の貴女にも蓮華が認められたのは嬉しいですよ」
と微笑んで言う。
相変わらずのイケメンぷりだけど、ミレニアはその言葉で赤くなったりはしていない。
微笑んで。
「そうか」
と言っただけだった。
それから。
「皆様方、お食事のご用意が出来ておりますので、どうぞ食卓へ」
とシャルロッテさんが言うので、案内されるまま向かう。
その道中に聞いてみる。
「シャルロッテさん以外にも、ミレニアは配下っているの?」
「蓮華様、我が主を呼び捨てにしているのに、配下である私に敬称など不要ですよ。そして、そのお答えはもちろんです。むしろ、全吸血鬼がミレニア様の配下ではあるのですが」
あ、そっか。
真祖なんだっけ。
なんか、真祖って、孤独な気がしてた。
でもシャルロッテさん、おっと。
シャルロッテが居るから、そうでもないんだろうな。
「分かりました。それじゃ聞き方を変えますけど、シャルロッテのように直属っていうのかな?そういう方は他にいるの?」
って聞いていたら。
「なんじゃ、妾の配下が気になるのかえ、蓮華?」
なんて優しい口調でミレニアが言ってきた。
「あ、うんミレニア。シャルロッテのような人が他に居るのかなって思って」
「ふふ、おるにはおるが、妾の身の回りの世話をするという点でなら、あと一人じゃな」
成程、メイドさんが二人いるのか。
というか、シャルロッテ自体、凄い魔力を感じるんだけど。
多分、今の時点の私よりもはるかに上だ。
なんか、自分の事ある程度強いと思ってたけど、自惚れであったと自覚させられた。
そんな私を見て。
「蓮華、落ち込む事はありませんよ。今貴女は、一種の頂点達を見ているのですから」
なんて兄さんが言ってくる。
「蓮華はまだこれからです。蓮華は必ず強くなります、この私が保証しますよ」
そう優しく言ってくれる兄さんに。
「うん、ありがとう兄さん」
笑顔で礼を言っておいた。
何故か、私やアーネストに礼を言われると毎回照れる兄さんが面白かった。
「フ、ロキの態度も、今なら不思議ではないな」
なんてミレニアが呟いてるのが聞こえた。
それから、美味しい食事をしながら、ミレニアの話をたくさん聞いて
翌朝、ミレニアとシャルロッテ、それに兄さんと別れ、カレンとアニスの家に向かった。
事件の詳細を、ミレニアや兄さんの事をぼかしながら、説明する為に。
それが終わったら、いよいよイフリートの祠だ。
意外な寄り道になったけど、ミレニアやシャルロッテと知り合えたのは良かった。
さぁ、今日も一日頑張ろう。




