233話.帰ろう
母さんの創った世界から外に出ると、母さん、兄さん、そしてオシリスが談笑していた。
こちらに気付いた母さんと兄さんが破顔する。
「お帰りアーちゃん、レンちゃん、アリス」
「よく無事で。心配していましたよアーネスト、蓮華」
「またロキは自然に私を省くんだからっ!」
「お前なら心配は要らないと思っているんだろう。信頼の表れだアリスティア」
「ぐぅ、そういえばオシリスが居るんだった……」
アリス姉さんの百面相に、私とアーネストは笑い出す。つられて母さんと兄さんもまた笑う。
「さて蓮華、私がこれからオシリスによって切り取られた部分の時間を戻します。魔力の流れをよく見て、覚えなさい」
「はいっ!」
兄さんの一挙手一投足を見逃さないよう、真剣に見つめる。
すると、兄さんが頬を軽く染めながら少し照れたように言う。
「そんなに見つめられると照れますね……」
「……」
兄さん。母さんとアリス姉さんは相変わらず笑ってるし、オシリスに至っては硬直しちゃってるんですけど。
「兄貴、真面目にやってくれよ……」
なんて言いながらも、アーネストも笑ってるけど。
「ふふ、冗談ですよ。では、行きますよ蓮華。『ワールドタイムリムーバー』」
兄さんが失われた大地へと手を翳す。
兄さんから放たれた魔力が、大地全てを覆い……魔力が弾けたかと思ったら、少し前に合った風景が、そこにあった。
「す、すっげぇ……元通りになった……」
アーネストが口をあけながらポカーンとしている。
これが、時の秘術……魔法って、火を起こしたり凍らせたり、化学でも出来る事を魔力で行うってイメージが以前は強かった。
けれど違うんだ。魔法っていうのは、錬金術のように有から有に変化させるものではなく、無から有を創り出すもの。
元の世界でのイメージから、魔法は想像力って分かってはいた。
けれどそれは、それすらも単なる想像でしかなく。本当の魔法というのは、こういう事を言うんだと思う。
「やっぱり凄いな、兄さんは」
そう零すと、耳聡い母さんが詰め寄ってきた。
「レンちゃん!?ロキ『は』なの!?母さんはやっぱり凄くない!?」
「いぃっ!?お、落ち着いて母さん!勿論母さんも凄いからっ!」
「ほっ……」
いや、ほっじゃないからね。そんなに凄い形相で聞く事じゃないでしょ。
ほら、オシリスがもう完全に固まってるじゃないか。
兄さんもクツクツと笑ってるし、全くもう。
「と、とりあえず。もう大丈夫な事を知らせないとね。それに、避難させた人達も戻さないといけないし」
母さんが場をまとめようと発言するのを、じーっと見つめる。
途端に挙動不審になる母さんに溜息を零してから、我慢できずに笑う。
母さんもそれを見て安心したのか、頭に人差し指を当てて何かブツブツと言ってる。
多分、各国の王様達に連絡を取っているんだろう。
「さて……アーネスト、蓮華。貴方達はどうしますか?」
兄さんが聞いてくるので、アーネストと顔を見合わせてから、答える。
「「帰るよ(ぜ)」」
そう答えたら、兄さんはニッコリと笑った。相変わらずのイケメンスマイルでドキドキしそうになる。
国の事は、カレン達に任せれば良い。
元々私達は手助けしないって事になってたし、これ以上出張るのは違うだろうからね。
ノルンやゼロ、アスモとも会って色々話したいけど……想像以上にあの世界での戦いは疲労したみたいで、体が重い。
スマホの画面を目の前に起動し、脳内で考えた事を画面に埋めて送信する。
直接手で打たなくて良いのは楽だよね。これが進んでいくと、いつか人は全く動かなくなるんじゃないだろうか。
なんてね。
「皆にはスマホで大雑把に送っておいたから。後から色々詰め寄られそうだけどね……」
「はは、お前はしょうがねぇだろ」
「何言ってるんだ。お前だってアスモから後日絶対に伺いますからねって連絡きてただろ」
「……あいつ、同文を蓮華にも送ってんのかよ……逃げ場がねぇ。それも狙ってんなあんにゃろう……」
「いい加減、答えたらどうだアーネスト?告白されたんだろ?」
「俺は断ったよなぁ!?」
そうだった。
ただ、アスモが諦めてないみたいなので、私は応援するつもりだけど。
勿論アスモをね。
「さて、俺はこれで行くとする。蓮華、それにアーネスト。アリスティアを救ってくれた事、友として礼を言う」
オシリスが真剣な表情で、私達に頭を下げた。
「私は、私が助けたくて助けたんだ。だから、礼なんて要らないよ。それに、オシリスには今回助けてもらったから……こっちこそ、ありがとう」
きっと、何を言ってもオシリスは受け取らないと思う。だから、こっちも感謝してるって事を伝える事にした。
どうやらそれは正解だったようで
「……そうか」
と破顔した。くぅ、顔面偏差値が高いんですよ!こうなったらアーネストを見て落ち着こう。
「な、なんだよ蓮華?」
ふぅ、落ち着く。イケメンなわけではなく、不細工でもない、普通の顔立ち。
私の周り、美男美女だらけで冷静になったら落ち着かないんだよね。
「なんか知らんけど、俺は今貶された気がすんだが?」
鋭い、流石元私。
「あはは。相変わらずだね二人とも。とりあえず、私達は一旦帰ろっか!後は地上の人達がなんとかするでしょ!神々はとっとと退散だよ!」
アリス姉さんが元気にそう言うので、私達は頷く。
「オシリス!」
「……なんだ?」
こちらに背を向け、今まさに飛び立とうとしたオシリスをアリス姉さんが呼び止める。
「……また、遊びに来てね?」
もじもじと、恥ずかしそうに……普段のアリス姉さんからは考えられない姿を見た。
か、かーわーいーいー!!
な、なにあれ!?なにあれ!?アリス姉さんの形をしたアリス人形みたい!?(語彙力の無さ)
「フ……分かった。次は、ゲイオスやレイハルトも共に、な」
そう言って、今度こそオシリスは飛んで行った。
「……うん、待ってるよ」
そう言うアリス姉さんは、まるで恋する乙女のように……
「次は、絶対私が勝つんだからね」
瞳をギラつかせていた。うん、恋する乙女はそんな目しない。
「なんつーか……この短い間に、色々ありすぎてキャパオーバーだわ、マジで」
アーネストがそう言うのに頷きつつ、私は母さんと兄さんを見る。
二人とも私の視線に気が付いて、微笑みを向けてくれる。
……良かった。母さんと兄さん、それにアリス姉さんを守れた。
そして……
「ん?どした蓮華?」
親友を、守る事が出来た。
「いんや、なんでもない。さ、帰ろっか。ユグドラシル領へ……私達の家へ」
「「「おおー!」」」
母さんとアリス姉さん、アーネストが笑顔で片手を上げる。
兄さんは声こそ上げなかったけれど、微笑みながらも頷いてくれる。
ああ、私はこの家族が大好きだ。