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231話.蓮華VS初音

 今の私は大精霊の加護を失った状態で、いつもなら身近にあるユグドラシルのマナの力による増幅も使えない。

 けれど、時の世界での特訓の成果もあり、自身の内にある魔力は大分扱えるようになっている。

 母さんによる魔力の封印もほとんどを解き、ユグドラシルの『特性解放』も半分程度までは進める事が出来た。

 だと、言うのに……!


「あらあら、その程度ですの?」

「くっ!」


 初音の二刀による完全な攻撃と防御を、崩せない。

 対二刀流において、私はアーネストと特に時間を割いてきた。

 多種多様な攻撃方法とその対処方法を、数えきれないくらいの模擬戦で体に馴染ませてきた。


「クス、型通りでつまらないですわよ蓮華。ほら、隙ありですわ」

「ぐぅっ……!」


 初音の右手の短剣は攻撃に、左手の短剣は防御に使われていた。

 けれど途中から、それが完全に入れ替わる。まるでダンスのリズムが変わるかのように、流れが一気に変化する。


 アーネストは二刀流でありながら、右手の剣がやはり強かった。

 それは、アーネストが本来右利きだからだと思う。

 だけど初音にはそれが無い。恐らく、両利きなんだ。


 右利きでも、左手も同じくらい、もしくはそれ以上に扱えるように出来る人も居るだろうけれど。

 初音はそういうタイプではなく、完全にどちらも主軸に扱えるんだと思う。


「クスクス。ゼクンドゥスと戦った時の力は出せませんの?ああ、あれは大精霊の力を借りたからこそ、でしたの?それでしたら、興醒めですけれど」

「挑発には乗らないよ。それに、私もまだ本気を出してるわけじゃない。スロースターターなんだよね、私」


 そう言って、初音と一旦距離を取る。

 すでに擦り傷で一杯だけれど、ユグドラシルの『特性』の一つである自己治癒によって、少しづつ傷が塞がっていく。


「それを聞いて安心しましたわ。では、もう少し強く行きますわよ!」

「!!」


 凄まじい速度でこちらへと向かってくる初音を、ソウルで切り払う。

 初音はそれをジャンプしてくるりと一回転し、私の後ろへと着地したかと思ったら、そのまままた突っ込んでくる。


 それをもう一度切り払うと、今度は右手の短剣で軌道を変えられる。


「しまっ……」

「喰らいなさいな」

「……なんてね」

「っ!」


 準備していた『ライトブレード』で切り払う。

 初音が態勢を崩した隙を逃さず、今度は魔法で追い打ちをかける。


「『ライトニングアロー』『フレイムスピア』『アイシクルランサー』『タイタンフィスト』」

「ふっ……!」


 雷の矢を初音はバックステップで避け、炎と氷の槍を切り払い、頭上からくる大地の拳を見極め避ける。

 そこへ私は『ワープ』し後ろから強襲を仕掛けたが、それすらも防ぐ。


「クス、中々良い連撃ですわ蓮華」

「全部防いでおいて、よく言うよ……!」


 ソウルと初音の短剣が鍔迫(つばぜ)り合うが、初音にはもう一刀ある。

 すぐさまその刃が向かってくるので、後ろへと跳躍する。


「逃がしませんわよ」


 が、すぐに初音は追いついてくる。

 キンキンキンと金属と金属のぶつかり合いの音が鳴り響く。

 いつの間にか私は、初音とここまで互角に戦えるようになったんだと、変な気分になった。

 この高揚する感じ。私は、強くなってるんだという実感。

 知らず口角が上がっていたのか、それを見て初音が笑みを零す。


「クス……楽しいでしょう、蓮華」

「!!」

「分かりますわ。自分の力についてこれる者と戦える。それを楽しいと感じるのは、普通ですわ。強者とは孤高なもの……貴女は恵まれていますのよ、蓮華」


 そう言う初音が、ほんの少し……寂しそうに見えた気がするのは……


「さぁ、もっとですわ!この程度ではないでしょう蓮華!」


 凄まじい怪力で、ソウルを斬りつけるのではなく、叩きつけてきた。滅茶苦茶楽しそうに。うん、絶対気のせいだな!


「ぐっ……!お前も剣より殴った方が強いってタイプかっ!」

「あら、私の持つ武器は特殊な効果を持つ以外は、私を強化してくれませんもの。魔力かオーラで包むなら、武器なんてなんでも良いのですわ。それこそ、素手を強化しても変わりありませんもの」


 初音の手が、鋭利な刃のように変形している。

 こいつは人型の姿を取ってはいるけれど、やはり人間じゃない。


「剣を扱うよりも、素手は速いですわよ。さぁ、防げるかしら蓮華!」

「!!」


 初音の右手を、凄まじい魔力が覆っている。かと思えば、左手はオーラが込められている。

 魔力とオーラは反発しあう為、相性が悪い。

 だと言うのに、初音はそれを同時に扱っている……!


「くっ……!」


 凄まじい速度で繰り出される乱打を、ソウル一本で防ぎきる事は出来ない。

 距離を取ろうにも、初音は逃がしてはくれないだろう。

 なら……!


「ソウル!籠手モードだっ!」

「!?」


 ソウルを刀から籠手へと変形させ、両手に身につける。ソウルの魔力+私の魔力を込めた、武闘家スタイルだ。


「これで、どうだぁっ!」

「ちっ……!?」


 私の本気の右ストレートを、初音は両腕をクロスして防御するが、そのまま後方へと吹き飛んでいく。

 この世界に壁があるのか分からないけど、そのまま待つなんて事はしない。

 飛ばされた初音へと跳躍し、追いつく。


「喰らえぇっ!」

「ちぃっ……!」


 初音も『ワープ』で瞬間移動するが、私も『ワープ』を使い追いかける。

 このマナが無い場所では、魔力を追うのも難しくは無い。

 瞬間移動を交互に繰り返しながら、お互いに拳を当てて行く。


「はぁぁっ!」

「ふっ……!」



「おいおい……滅茶苦茶な戦いしてんなあいつら……」

「アーくん!余所見してないで、そこ抑えててねー?」

「おっと、わりぃ」


 アーネストとアリス姉さんがゼクンドゥスを助けようとしてくれているのを確認する。

 まだ時間が掛かりそうだ。なら、やはり私が初音を倒すしかない!


「隙ありですわ、蓮華」

「ぐぅ!?」


 少し余所見をしたのがいけなかった。初音の手刀を避ける事が出来ず、直撃する。


「さぁ、繋ぎますわよ!」


 そこからは連続攻撃を叩きこまれる。

 防御を間に入れる暇もなく、凄まじい速度で繰り出される攻撃をなすすべもなく受けた。


「どこまで耐えられるかしら?」


 そう言って、最後に凄まじい魔力の塊をぶつけられ、私は後方へと吹き飛んだ。


「ぐっ……っぅ……」


 大ダメージを喰らった私は、一瞬意識が遠くなりかける。

 フラフラと立ち上がり初音に視線を移す。彼女は妖艶に笑いながら、全身から黒い魔力を迸らせ……こちらを見ていた。


 まるで底の見えない初音に、初めての戸惑いを感じる。

 私は、初音に勝てるのか……?

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