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230話.狙いは元から

「その名はもう捨てたよ初音。今の私はアリスティア……ただのアリスティアだよ」


 そう言って、アリス姉さんは細剣をブンッと振るう。初音を斬る為ではなく、何かを断ち斬るかのように。

 初音はそれを見て、クスっと笑った。


「分かっていますわ。ただ、似ていると言いたかったのですわ。オーディンが元から強かったわけではない所も、成長して多くの神々を追い抜き、神々の最上位にまで駆け上がった所も」


 そう言って、私を見る。その表情は、どこか楽し気に見える。


「そして……精霊達を従えた所も。蓮華、貴女はオーディンそっくりなのですわ。その生い立ちは違えど、あり方が、ですわ」


 初音がクスリと笑いながら、こちらを見つめる。私はそれに、素直に答える事にした。


「そっか、それは嬉しいね。オーディンについては、知らないけど……アリス姉さんにそっくりだと言われるなら、私は嬉しいな」

「蓮華さん……」


 そう、私にとってアリス姉さんが過去にどうしていたかなんて、どうでも良い。いやどうでも良いって言ったらあれだけど、過去で何をしていても気にしない。

 私にとってのアリス姉さんは、いつも私の事を気に掛けてくれて、大切にしてくれる大事なお姉ちゃんで。

 大切な、家族だ。その真実だけで何も要らない。


「過去なんてどうでも良い。私にとって、アリス姉さんはアリス姉さんだ。仮に過去に大罪を犯していたとしても……私はアリス姉さんの味方だ」

「蓮華さん……っていやいや!私悪いことなんてしてないからね!?良い話な感じで私を悪者にしないでね!?」


 あれ?今の流れだと、そんな感じなのかと。


「ぶははっ!」

「クスクスクス。そういう流れに持って行った私が言うのもあれですけれど、蓮華は純粋ですわね」


 アーネストと初音にまで笑われる。えぇぇ、私良い事言ったはずなのに、とても恥ずかしいんだけども。


「ただ、そうですわね。善も悪も……いえ、この場合は正義と悪と称しますわね。この正義と悪は、相対する場合、どちらもが正義であり、どちらもが悪なのですわ」

「「!!」」

「……」

「だから、自身が正義だと、間違っていないと思っている事が、相手側にとってもそうだとは限らないという事……それを忘れてはいけませんわよ」


 初音の言葉に、アリス姉さんの表情が曇る。

 言葉の意味は分かる。経験をした事は無いけれど……そういう話を読んだ事はある。

 それでも……


「私は過去に何があったのか知らない。だけど、これだけは言える。アリス姉さんが何かを行ったとしたら、それはきっと悩みに悩んで、それで出した答えなはずだ。それこそ、自分の正義を信じて、ね。だから……アリス姉さんの選んだ事を、もし後悔させるように言っているのなら……それ以上の言葉を聞くつもりは無い」


 そう言って、ソウルを初音へと向ける。


「クス……」


 初音は微笑んで、それ以上言う事を止める。

 ただ、その体から発する魔力が、より強大になる。


「誤解を与えてしまったようですから、これだけは言いますわね。私は、蓮華にとても興味があると、言いたかっただけですわ」


 その言葉と同時に、凄まじい悪寒を感じた。

 全身がブルっと震え、鳥肌が立つかのようなあの感じ。


「ここでは大精霊の加護は無く、ユグドラシルの加護は落ちますわ。さぁ、蓮華の力、私に見せてごらんなさいな」


 初音が初めて、構えを見せる。二刀の短剣を逆さまに持ち、柄の部分から魔力の刃が出ている。


「アーネストとアリスティアには、コレの処理をお願いしようかしらね」

「「!?」」


 初音の足元から丸い影のような物が出現し、そこからドプッという音と共に、人型の何かが吐き出される。

 黒い泥が少しづつ地面へと溶けていく。

 するとそこには……私を庇って、闇に溶けていったゼクンドゥスの姿があった。


「大分闇に汚染されていますから、それを吐き出させる必要がありますわ。お願いしても良いですわね?」

「……私がやるしかないね。でもこの術は結構制御が難しいから、アーくんの助けが要るよ」

「チッ……しゃぁねぇ。こいつには蓮華を救ってもらった借りがあるからな」


 アーネストとアリス姉さんがゼクンドゥスの方へと向きを変える。


「こっちは任せな蓮華。お前は初音を頼む。こっちが先に片付いたら、援護に行くぜ」

「蓮華さんはこいつを助けたいんだよね?言わなくても分かるから、聞かないよ。何もかも初音の手のひらの上で腹が立つけど、蓮華さんの手でボコボコにしちゃって!」


 二人の言葉に苦笑しつつ、私は初音を見る。

 もしかして初音は、ゼクンドゥスを助ける為にあんな行動に出たんじゃないだろうか。

 私やアーネストでは、恐らく魔剣ゴエティアの闇の支配に打ち勝てない。

 だけど、元から闇の耐性が高い初音なら、効かない事を見越して……なんて、考えすぎだろうか。

 それに、私には初音があの『特性』を本当に欲しがっていたとは、どうしても思えない。

 全てただの表向きの理由にしか思えなかった。


「クス、ようやくですわね蓮華。やっと、貴女と一対一で戦えますわ」

「……」

「その目、素敵ですわね。エメラルドグリーンの澄んだ瞳。その美しさは、女神ユグドラシルの生き写し。もう戦う事の出来ない彼女に変わって、貴女と本気で戦いたかったのですわ」

「私と戦う為に、こんな手の込んだ事を?」

「有体に言えば、そうですわね。貴女は理由がなければ戦わないタイプの人でしょう?」


 そう言われれば、そうかもしれない。特訓とかで戦う程度なら全然構わないんだけど、初音が言うのはそうじゃないだろう。


「さぁ、戦いますわよ蓮華。楽しい時間を過ごしましょう?」


 今までだって凄い魔力が初音の体から溢れ出ていた。

 それが、更に吹き荒れる。

 今までの魔力は、ただ抑えきれていない分が勝手に漏れていただけとでも言うかのように。

 ただでさえ強かった初音に、今は魔剣ゴエティアの力まで吸収していっている。

 短期決戦じゃないと、時間を掛ければ押し負けるかもしれない。


「行くぞ、初音っ!」


 私はソウルを構えて、初音へと跳躍する。


「クス。さぁ、踊りましょうか!」


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