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229話.初音の思惑

「「「初音!」」」


 突然の初音の行動に困惑する。


『それだけ、じゃないよ蓮華さん。あの魔剣は魂を汚すの。今大地を浸食している闇を、一身に受ける事になるんだよ?』



 アリス姉さんが言っていた事だ。あのままじゃ初音がっ!


「クスクス、私がこの程度の闇に、支配されるとでもお思いだなんて、悲しいですわね」


 見れば、魔剣ゴエティアが震えている。あれは、初音を支配しようとしているのだろうか?

 けれど、初音は微動だにせず、魔剣ゴエティアを掴んで離さない。


「『王の元に集う』という特性が発動している間は無効化されますけれど、今なら通じるのは教えたでしょう?」


 初音の目が、黄金色に輝く。見る者全てを魅了するかのようなその瞳に、声が出せなくなる。


「クス。その特性が、欲しかったんですの。(つど)う者が、(うば)う者に勝てる道理は無くってよ?」


 思い出した。『暴食(GLUTTONY)』……スキルや特殊な力を奪う力。

 元々は大罪の悪魔であるベルゼブブが所持する強力なスキルだ。

 ただ、ニガキ君が言うにはベルゼブブは生きているらしい。だから、どうやってその力を得たのかは分からない。


「生まれたての貴方は、皮の無いみかんのようなもの。身を守る術の無い赤子程度、ぺろりと平らげて差し上げますわ。『暴食(GLUTTONY)』」


 初音の腕から、どす黒い何かが噴き出る。それが魔剣ゴエティアを包みこんでしまう。


「させるかぁっ!」


 それを見て、アリス姉さんが飛び出した。

 その細剣で初音へと斬りかかる。


「クス、もう遅いですわ。油断、しましたわねアリスティア」

「くっ!」


 私とアーネストは展開についていけず、棒立ちだった。

 それでもアリス姉さんの行動で目を覚ましたかのように、意識がハッキリとする。


「流石に魅了は効きが悪いですけれど、思考を鈍らせる程度は貴方達でも受けましたわね。私とあれだけの時間一緒に居たのですから、当然といえば当然ですけれど」

「どういう、つもりだ」

「あら、簡単ですわ。私はこの魔剣……まぁもうただの棒きれと同じですけれど。この力が欲しかっただけですわ」


 下をぺろりとさせて、魔剣ゴエティアであった物を放り投げる。

 金属音はせず、ただ大地へと転がる。

 まるで、死体を放り投げたかのように。


「さて、これで共同戦線は一応終わりですわね。約束通り、今回はこのまま退いても良いのですけれど……」

「はいそうですかって逃がすとは思わねぇよな?」


 アーネストはネセルを構えたまま、初音を睨む。


「クス、それも勿論構いませんわ。私は面白い事には手を抜かないつもりですの」


 初音の全身から、黒い魔力がボウボウと迸る。

 魔剣ゴエティアの蓄えていた力を、全て自分の糧としたかのように。


「それでは、遊びましょうか。目的はお互いに達成できたのですから、これは余興のようなものですわ」


 そう言ってクスクスと笑う初音。


「悪ぃ、俺が初音を同行させたせいで、こんな事になっちまって」

「言うなよアーネスト。私だって、初音が一時的にとはいえ仲間になってくれるなら、心強いとか思っちゃったんだから」


 二人、初音を睨みながら構える。

 そこへアリス姉さんがこちらへと跳躍してきた。


「もぅ、だから何か企んでるって言ったのにー!」

「「ごめんなさい」」


 最初からずっと警戒していたのはアリス姉さんだったので、謝るしかなかった。


「まぁ過ぎちゃった事は仕方ないね。それより、初音にあの力が定着する前に、倒さないとマズイ事になるよ」

「「!!」」

「あの魔剣ゴエティアの特性は、発動方法が自我を失う事だから、そのまま初音も発動出来ないと思う。でも、効果を調整して発動させる事は、初音なら可能かもしれない。そうなったら、こいつは神々すら手に掛けるよ、自分の欲望の為にね!」


 アリス姉さんの言葉に、初音は何も言わない。

 ただ、その黄金色の目をすぅっと薄め、アリス姉さんを見つめる。


「アリスティア、一つだけ訂正するとすれば……私は神々などに興味ありませんわよ。持って生まれた完全なる存在、なんて……とても、とてもつまらないですわ」

「「「!!」」」

「その点で言えば、私はユグドラシルの思想に共感致しますの。弱者は良いですわ。弱者はもがき、苦しみながらも強者への憧れを持ち、嫉妬、羨望に支配されながらも懸命に生きていますもの。そうやって強くなった者を……こう、ぷちっと踏み潰すのは、とても楽しいと思うでしょう?」

「「「……」」」


 途中までは共感できそうだった初音の話。だけど、最後で台無しだ。

 やはり初音とは、分かり合える事はないのだろうか。


「その点で言えば、貴方達はとても良い。元は弱者でありながら、特別な力を得た者達。弱者に力を見せつけるのは楽しいでしょう?生殺与奪の権利を得た気持ちは最高でしょう?自分の気分次第でなんでも出来るのが強者の特権ですわ」

「「……」」

「弱者達は群れをなし、強者を弱者と同じテーブルにつかせるでしょう?それは、弱者も集まれば強者となるからですわ。集まった弱者達が強者となると、少数の強者も従わざるをえなくなる。それが弱者達の生存戦略なのですから、面白いですわよね」


 どうして私達が『転移』した事を知っているのか、それすらもどうでも良いくらいに……頭に血が上る。


「私はそんな事考えた事も無いよ」

「ふふ、そうかもしれませんわね」


 頭の中は熱くなっているのに、言葉は冷静に出せた。

 そんな私に対して、初音は意外にもそのまま受け止めた。


「だから、面白いのですわ。全知全能なる神々の多くは、自分達以外の存在をゴミと同等にしか思っていないのですわ。その神々の肉体を継いだ蓮華、貴女はむしろ人間寄りの思考をしてますもの」


 それは、そうだろう。体はともかく、私は人間として生きてきたのだから。


「……昔、の話ですけれど。人間と神のハーフの神が居たのですわ。その神は、成長しない神という特性から、人間の成長するという特性を引き継ぎ、多くの神々の強さを抜いていきましたわ」


 その話は、聞いた事がある。確か……


「その神が、最後はどうなったのか……気になりますわよね?」

「……」

「時間稼ぎはそこまでだよ初音。その体に馴染むまでに、その力を取り除くよ!」

「クス、あら残念ですわ。なら、抵抗させてもらいますわよ?」


 ……初音の話。それは恐らく……私達の元の世界であった、オージン……多く知られた名では、オーディンだ。

 彼は、ユグドラシルの根元にあるミーミルの泉の水を飲むことで知恵を身に付け、魔術を会得した。片目はその時の代償として失ったとされる。

 そんなオーディンは、半人半神だとされていたはずだ。


 そこで、彼の最後を思い出す。

 確か最後はラグナロクにて、ロキの息子であるフェンリルによって飲み込まれる結末を迎える。


 ……これをそのまま辿るとするならば。もしかして……いや、そんなはずはない。


「貴女も本気で来て下さると嬉しいですわ。ねぇ、アリスティア……いえ、オーディン」

「「!?」」

「……」


 アリス姉さんはその言葉を、否定も肯定もしなかった。

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