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225話.世界を侵食する魔剣の対抗策

 アーネストと共に、闇に覆われつつあるサンスリー城を上空から見つめる。


「城内の人達は?」


 アーネストは首を振る。今から助けに行っても、もはや手遅れだろう。

 あの闇は、触れた物を闇の中へと吸収している。

 それをエネルギーとしているのか、闇の範囲が広がる速度が上がっている。


「あの闇には、魔法が効かない。かといって放置していたら、この世界を全て飲み込むまで止まらないかもしれない」

「クス。そうでしょうね。あれはそういう魔剣ですもの」

「え?」


 私はありえない声を聞いて、一瞬呆けてしまう。

 だって、私達のすぐ後ろに初音が居たから。


「おまっ!?」


 驚きすぎて言葉を失ってアーネストを見ると、ポリポリと頭を掻きながら、溜息をつきながら言った。


「いや、こいつ、別に俺達を殺す事が目的じゃなくて、楽しいからちょっかいかけてたって言うしさ……あの魔剣ゴエティアがしようとしてる事は、初音も気に入らないっつーから、なら手を貸せって試しに言ったら、オーケーが返ってきたんだよ。俺もビックリだよ」


 ああ、うん。初音が自分の興味のある事にしか執着しないのはなんとなく分かってたけれど。


「クスクス、一時休戦、一時共闘と参りましょう蓮華」


 とても胡散臭い。後ろからバッサリ攻撃してきてそうな匂いがぷんぷんする。


「あらあら、信じてもらえないなんて悲しいですわ」

「今までの行いのどこに信じられる要素があるんだ!?」


 思わず怒鳴ってしまったけれど、初音は堪えていないのか、クスクスと妖艶に笑う。


「あー、まぁ蓮華。多分こいつ、嘘は言ってねぇと思うぞ」

「アーネスト……」

「なんなら、こいつは俺や蓮華とまだ戦いたいと思ってるだろうけど。だけど、優先順位がハッキリしてるってだけで」


 そうアーネストが言ったら、初音の目が怪しく光る。


「ええ。私としても……アレは許せませんの。だから、協力致しますわ。終われば、ここは去りましょう。約束致しますわよ蓮華」


 ……怪しい、怪しいけれど……初音の戦力自体は魅力的だ。

 あの闇の対処をどうすれば良いのか、皆目(かいもく)見当もつかないけれど……初音なら何か知っているかもしれないし。


「……分かった。一時休戦だ」

「ええ、よろしく蓮華、アーネスト」

「そんで、どうする?ノルンとゼロは母さん達の所に言いに行ってくれたんだよな?」

「うん。母さん達なら、対策を知ってると思うから。私達はサンスリー王国に居る人達を、避難させた方が良さそ……」


 ピピっと脳内に音がする。意識をそちらに向けると、スマホにLINEでメッセージが届いていた。

 カレンから、そしてリリアちゃんから。


"事情はノルンさんから聞きました。民達の避難は私達にお任せください"


 と、一字一句違わずに二人から来ていた。

 うん……私はもっと、仲間を信頼すべきだよね。


"頼むよ"


 私は短く、そう返信する。見れば、アーネストも満足そうな顔をしていた。


「あら、あれは……アリスティアではありませんこと?」


 初音の言葉に、視線を向ける。そこには、信じられない数の人達を指先一つで空中にピラミッドのように浮かせながら、こちらへ向かってくるアリス姉さんと……


「「オシリス!?」」


 私とアーネストの声がハモる。ソウルを構えようとして、アリス姉さんが慌てて声を荒げた。


「ま、待って待って!オシリスは敵じゃないの!」


 その言葉に、私はアリス姉さんが説得に成功したんだと理解した。


「えっと、アリス姉さん。オシリスの事も気になるんだけど、この人達は……」

「サンスリー城の中に居た人達だよー。あのままじゃ取り込まれちゃうから、先に助けに行ってたんだよー。蓮華さんやアーくんなら、そっち優先して欲しいって言うかと思って。えっと、違った?」 


 アリス姉さんが不安げに言うので、アーネストと顔を見合わせて笑う。


「いんや、正解だぜアリス。サンキュ!」

「そうだよ。ありがとうアリス姉さん」

「!!」


 私達の礼に、凄く良い笑顔になるアリス姉さん。一瞬指先で持ち上げていた人達を落としそうになって、慌てて支え直す姿に吹き出しそうになったけれど。

 いや、支えられてる人達は気が気じゃなかったろうけどね。


「つーか、亜空間に一時的に避難させといたらよかったんじゃないか?ほら、蓮華の『ポケットハウス』みてぇな」


 確かに。あれは『アイテムポーチ』の中にあっても大丈夫だから、安全性も高いし、快適空間なのだ。


「アーくん、蓮華さんに染まってるから忘れがちかもしれないけど、あんなの蓮華さんやマーガリン、ロキくらいしか創れないからね?」

「おう……」


 そうだった、みたいな顔で驚くアーネスト。そういえばそうだったね。


「二人してもう……。一応、国王夫妻は先にオシリスに運んでもらったけどね。後は城内に居たこの人達で全員」

「そっか。国内に居る人達は、カレン達が力を合わせて避難させてくれてる。だから、私達はアレをなんとかしないとなんだけど……」


 今もサンスリー城を包みこもうと、闇がどんどんと浸食している。そう時間が掛からずに、城も溶け込んでしまうだろう。


「アレは魔法も魔術も効果がありませんものねぇ。今のままでは、お手上げですわね」


 そう言う初音にちょっと驚くけど、それ以上に驚いている人が一人。


「は、はは初音ぇっ!?」

「「「「「うわぁぁぁぁっ!?」」」」」


 今度こそたくさんの人達を落っことすアリス姉さん。

 ちょっと!?シャレにならないんですけど!?


「おっと。アリスティア、お前のドジな所は変わらないようだな」


 落ちる人達をオシリスが魔法の泡のようなもので包みこみ浮かせる。

 助けられた人達は全員、凄い安堵した表情をしていた。


「ご、ごめーん。だって、初音が普通に居るからぁ……」


 まぁ、うん。私だっていきなり敵だった人が仲間内に居たら驚くだろうし。


「クス、アレを処理するまでの一時共闘ですわ。よしなに」

「こいつ絶対何か企んでるよ蓮華さんー!」


 私と同じ見解のアリス姉さんに、笑ってしまいそうになる。


「まぁ、心外ですわアリスティア。私は善意で協力してあげていますのに」

「絶対嘘だー!」


 ぎゃいぎゃいと言い合っているアリス姉さんと初音に苦笑しつつ、オシリスへと視線を向ける。

 すると、ぎこちなくはあったけれど、優しく微笑んでくれた。

 ぐっ……この人、いや神か。神だから当然かもしれないけど、見た目がイケメンというか絵画なんだよね。

 兄さんもそうだし、美男子率が半端ない。


「とりあえず、俺はこの者達をユグドラシル領へと運ぶ。力を貸して欲しい事があれば言え、お前には借りがあるからな。出来る事であれば、力を貸そう」

「!!」


 そう言って、アリス姉さんには何も言わずに、ユグドラシル領へと飛んで行った。


「何がどうなってんだ?」


 アーネストが思案顔で言ってくるけど、私もなんとなくしか分からない。

 さて、それよりも……


「アリス姉さん、初音、そろそろストップだよ。アリス姉さんの機転で、幸いまだ被害は少ないけど……あの闇をなんとかしないと」

「う……そうだね。初音が信じられないけど、そっちが優先だね……」

「クス、そうですわね。アリスティアが信じてくれなくて悲しいですけれど、そちらが優先ですわね」


 まだ言ってる。本当に水と油だなぁこの二人。

 アーネストと二人溜息をつきながら、二人に聞く。


「アリス姉さん、初音。二人ならこの闇の対処法、知ってるんじゃないの?」

「方法は二つありますわ」

「だね。一つは、あんまりお勧めできないけど」


 やっぱり、流石だ。私とアーネストでは、方法なんて全く分からない。

 ユグドラシルの知識があれば、分かったのかもしれないけれど。


「まず一つ目は、魔剣ゴエティアを地面から引き抜くのですわ」

「え?それだけで良いの?」


 それなら、あの時破壊しようとせずに、引き抜いていれば終わったのか。


「それだけ、じゃないよ蓮華さん。あの魔剣は魂を汚すの。今大地を浸食している闇を、一身に受ける事になるんだよ?」

「!!」


 それは……うん、自我が塗りつぶされてしまうかも、しれない。


「現実的じゃねぇって事か。引き抜いても、闇に浸食されてまたぶっ刺すのがオチだな」

「そういう事だね」


 アリス姉さんがうんうんと頷く。成程、これがお勧めできない理由か。


「それじゃ、もう一つは?」

「それは……」


 初音がクスっと笑って言う。

 それは、私達だけではとてもじゃないけれど、無理な方法だった。

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