224話.いつから私が近接型だと錯覚していた?
「ククッ……凄まじい魔力だ蓮華。待っていろ、すぐに追いつ……」
「貫け」
「うぐっ!?」
ゼクンドゥスが何か言っている間に、魔法を放つ。今のは初級魔法の『ファイア』を、超高密度に圧縮してレーザーのように放った。
「大精霊、召喚」
「「「!!」」」
私はゆっくりと陸地から浮かぶ。その背後には、水の大精霊ウンディーネ、火の大精霊イフリート、風の大精霊シルフを召喚している。
「ふふ、大精霊同時召喚とは、レンも成長していますね」
「フハハハ!流石は我が弟子!」
「うんうん、レンちゃんならボク達全員同時も出来ると思うけどね!」
大精霊達がにこやかに言うのを背中で聞きながら、私は命令する。
「さぁ皆、好きにやっちゃって良いよ。補佐は私がする」
「「「!!」」」
その言葉に驚いたのは少しだけ、すぐに微笑んで、大精霊達は手を翳す。
「『メイルシュトローム』」
「『ファイアーストーム』」
「『ウインドトルネード』」
「なにぃっ!?」
水、火、風の特大精霊魔法がゼクンドゥスを襲う。
大精霊の直接使う魔法は、精霊魔法と呼ばれる、魔法より一段上の力。
例え同じ魔法の名前であろうと、威力は桁違いに上となる。
「うぉっと!?蓮華!こっちまで巻き込むきか!?」
見れば、アーネストと初音はこちらから距離を取っている。
「お前なら避けれるだろー。フレンドリーファイアには極力気を付けるけど、当たったらごめーん」
「お前なぁ!?」
とりあえずアーネストには謝っておいて、私は精神を集中させる。
私の後ろ、大精霊達の更に後ろ。
空に浮かぶ魔力の弾丸をイメージし、具現化していく。
それに気づいたゼクンドゥスが口を呆けさせる。
「な、なんだ、それは……!?」
その数、ざっと千個。
全属性の魔力の弾丸を空に浮かべ、いつでも発射できる状態で静止させている。
これは、母さんが闘技大会で見せてくれた魔法。
「さぁ、大精霊達の魔法を避けながら、これが避けられるかゼクンドゥス!『サウザンドエレメンタルバレッタ』!」
「ぬぅぉぉぉおおおぉっ!!」
機関銃のように降り注ぐ弾丸の嵐を、ゼクンドゥスは最初こそ避けれていたが、行く手を大精霊達の魔法に阻まれ直撃を受ける。
さぁ、追撃だ!
"我が主、いつでも!"
「ソウル、ガンモード」
刀状態のソウルを、二丁の銃へと変形させる。
「喰らえゼクンドゥス!『ダブルアームクイックドロウ』」
私の魔力を込めた、魔力の弾丸。トリガーを引き、魔法の乱れうちを受けているゼクンドゥスへと発砲する。
「えげつねぇ……」
それを見たアーネストが零した一言はしっかり聞こえたけど、気にしない。
さぁ、とどめと行こうか。
「合体だソウル。行くぞ!超魔銃『アルティメットリボルバーカノン』」
先程までが機関銃だとするならば、これは波動砲だ。二丁の拳銃を一丁の大口径に変形させ、特大のエネルギーを放つ。
「ぐぅぅぅぁぁぁぁっ!!れん、げぇぇぇぇっ!!」
ディーネとシルフの合体魔法で途中から身動きを封じられているゼクンドゥスに、避ける術はない。
ゼクンドゥスは魔力の結界を張ったけれど、一瞬で破っている。
どれだけ外から補強しようが、ユグドラシルの魔力量の方が多い。
私の体内の魔力量と……この世界全体に満ちているマナは、同等。
なら、この世界に満ちているマナの力を借りれば、単純に私の魔力は2倍になる。
神界最強と言われていたユグドラシル、その魔力が2倍だ。どんな奴だって、耐えられるわけがない。
ゼクンドゥスの魔力が大分薄くなったのを感じ、魔法を止める。
大精霊達には元の場所へと戻ってもらった。久しぶりに魔法を使い放題でスッキリしたようで、嬉しそうな感情が伝わってきたよ。
地面に転がっているゼクンドゥスの元へと近づく。
「ぐ……ふ……れん、げ……お前、は……近接タイプでは、無かった、のだな……」
「あー、まぁ私自身は刀で戦うの好きだけどね。私って本来魔法使いだから、後衛タイプだよ?でも、魔法使いが近接戦闘も出来ないんじゃマズイよね?」
そう言ったら、ゼクンドゥスは苦しそうにしながらも笑い出した。
「くっ……ハハッ……そう、か……。やはりお前は、いい、女だ、な」
「どうせ分身体なんだろうけど、ここでとどめを刺させてもらうよゼクンドゥス」
「いや……これは、本、体だよ、蓮華。流石に……魔力を、受け取る、依り代が……分身体、では……不可能、だ」
苦しそうに息も絶え絶えでそう言うゼクンドゥス。でもその顔は何故か、満足しているように見える。
「なんで、笑ってるんだ?今から、殺されるのに」
「クク……そうか、笑って、いたか。……ふむ、望んで、いた……展開では、なかった、が……愛した存在に、消されるのであれば……悔いは、ない……」
「……」
「俺は、お前に、惚れた。だから、手に、入れたかっ……た……俺は、この方法しか、知らぬ……からな……」
そう微笑むゼクンドゥス。こいつのしてきた事は、許せる事じゃない。
だけどそれが、愛からくる……相手の気を引こうとしたと考えるのなら……いや、それでもやっぱり許せないな。
それでも、一度そう考えてしまうと、このまま殺す事をためらってしまった。
私は甘いんだろうな。
ゼクンドゥスに向けていたソウルを下げる。
「……もう今後、私に関わらないなら、見逃してやる」
「!?」
「どこになりとも行け。私に惚れたって言ったな、私はお前なんて大嫌いだ」
そう言って背を向ける。それでもまだ、私にちょっかいを掛けてくるなら……その時は、容赦しない。
「……蓮華……。……!!危ない、蓮華!」
「!?」
少しの油断。私とゼクンドゥスは、戦いながら知らず知らずのうちに、城に近づいていたんだ。
地面から這い上がってきていた魔剣ゴエティアの闇に気付くのが遅れた。
「ゼクンドゥス!?」
「……気に、するな、蓮華……」
私を包みこもうとした闇だったが、ゼクンドゥスが私を抱きとめ、まだ闇の及んでいない場所へと放り投げてくれた。
けれど、その為ゼクンドゥスは闇に捕らわれる。
元から傷だらけで魔力もかなり消耗しているゼクンドゥスに、逃れる術はない。
「待ってろ、今助け……」
「無駄だ、蓮華。この、魔剣ゴエティア、は……全てを、飲み込む。蓮華、お前の、力は……極上、の……餌と、なる……」
「!!」
少しづつ闇に沈み込んでいくゼクンドゥス。
私は居ても立っても居られなくなり、アーネストがソロモンを助けたように飛び込もうとして……ゼクンドゥスが手をひらげて止めた。
「よい、蓮華。愛した女、を……守って、死ねるのだ。長き、永遠にも等しい、生で……これ程までに、恋焦がれたのは……初めて、だった。ああ、我が生涯に……一片の……悔い、なし……!」
そう言って、満足げに微笑んで……ゼクンドゥスは闇へと溶け込んでいった。
「蓮華!何してんだ!早くこの場から逃げるぞ!」
「……ああ」
私は今、どんな表情をしているのだろうか。
憎むべき敵だった。だけどあいつは、本当に私の事を愛していたんだと思う。
そんな本気の想いをぶつけられたことなんて、今まで無かった。
あいつがもし、魔族のやり方じゃなくて……人間のやり方で……いや、言っても詮無き事だね。
だから、これだけは言っておくよ。最後の身を挺して助けてくれた事にだけは。
ありがとう。