223話.VSゼクンドゥス&初音①
「「おおおおっ!」」
私の振るうソウルを、槍で切り払うゼクンドゥス。
初めて出会ったあの時も、ゼクンドゥスは槍を使っていたが、この槍は以前の槍とは違う。
「クク、分かるか蓮華!いい、言わずとも視線で察せるとも!我が愛槍、ゲイ・ボルガ。我が師、スカアハより授かりし神器が一つ!」
凄まじい速度で突き、払い、斬ってくる。その全てを見切り受け流すが、その際に魔力が体へと侵入してこようとするのを防ぐ。
ゲイ・ボルガ……元の世界ではゲイボルグって呼ばれてた有名な武器を連想してしまう。
確か、敵を逃さず命中する、稲妻のような速さで敵をまとめて貫くって効果だったと思うけど……このゲイ・ボルガも同じとは限らない。
もっと別の力が隠されていても不思議じゃないし、警戒はしておいた方が良さそうだね。
「成程ね。でも槍が泣いてるよ、自分の力じゃない他者の魔力で戦っている事をねっ!」
「フッ!武器に意思などあるものか蓮華。まぁ、そう信じる蓮華は愛い奴だと思うがな」
背筋がゾワッとした。そっか、これが鳥肌か。
「うん、さっさと倒すねゼクンドゥス」
「うぉぉっ!?ククッ!流石は蓮華、今の俺とも互角に戦えるとは驚きを隠せんぞ」
私の結構力を込めた一撃を、槍で受け止めるゼクンドゥス。
槍に纏っている魔力量が桁違いに多く、そのまま斬り捨てる事が出来なかった。
「だが、今で互角ならば……勝負はやはり、俺の勝ちだ」
ゼクンドゥスの口角が不気味に上がる。心底愉悦を感じているかのように。
「ククッ……見えるだろう蓮華。今も継続して俺に流れる魔力が。俺の体は適宜自身の魔力に適応させ、変換させている。つまり、一時的な増強ではなく……俺の力として定着させているのだ」
「!?」
「仮に今、この魔力の流れが止まろうとも……俺が弱体化する事は無い。正に取り込んでいるのだからな!」
魔法や魔術で一時的な身体能力の向上を用いているのだと理解していた。だけど、違った。
ゼクンドゥスは、大量の魔力を自身の力へと変換していたのか!
「蓮華、お前が素晴らしい力に磨きがかかっている事は知っていた。以前の俺では、最早足元にも及ばないであろう事も、な」
「……」
時の世界で強くなった事をゼクンドゥスは知らないはずだ。だけど、私を見て本能的に理解したんだと思う。
「だから、この方法を取る事にした。当初は、ただ借りるだけのつもりだったのだがな。その場合は、この魔力をそのまま利用し、一気に仕留めるつもりだった」
「急激な力の負荷は、体も精神も耐えられるものじゃないぞゼクンドゥス」
「知っているとも。この方法はあまり使いたくは無かった。魔神の体を持つ俺とて、莫大な力をその身に一気に受ければ、体が崩壊する。だから、こうして時間を掛けて取り込んでいるのだ」
「!!」
会話をしながらも、私は攻撃の手を緩めてはいない。
ゼクンドゥスは私の剣閃を防ぐので精一杯だった。
けれどそれが、段々と反撃の数が増えてきている。
「さぁ、踊りを続けようではないか蓮華。少しづつ、その速度にも慣れてきたところだ。そろそろ俺がリードしてやらねば、男として立つ瀬があるまい?」
最初こそ少し様子見をしていたけれど、今では割と本気で隙を狙っている。
だと言うのに、ゼクンドゥスは全て防ぎきる。
アーネストの方を見れば、初音と互角に渡り合っていた。
「蓮華に聞いてた通り、やっぱ強いなお前っ!」
「ふふ、貴方もとても良いですわ。その魔剣も、かなり使いこなしている模様ですわね」
アーネストの二刀の長剣を、初音の二刀の短剣が流れるような動作で弾く。
体力の消費的には、アーネストの方が大きいと思う。
けれど、アーネストは繰り返す戦闘でも息切れを起こしていない。
それはあの時の世界で、ずっとスタミナをつける特訓をしてきたから。
「へへ、ならこれはどうだっ!」
「っ!?」
アーネストの力が爆発的に増加する。あれは『オーバーロード』を使ったな。身体能力を数倍に引き上げる『オーバーブースト』の効果を、更に倍加する秘術。
アリス姉さんが言うには、アーネストが使う『オーバーブースト』の効果は約3倍。その効果の倍、3×2ではなく、3×3の相乗効果になる。
まぁ数値で言ってもピンと来ないけど……
「くっ!?」
あの初音が、アーネストの攻撃を防ぎきれずに吹き飛ばされた事が何よりの証拠だ。
あの状態のアーネスト、滅茶苦茶強いんだよね。
私もユグドラシルの特性である軽減と自動回復が無かったら押し負けるくらいだし。
というか、アーネストがアレを使うという事は、それだけ初音が強いと認めたって事だけど……
「蓮華よ、ダンスの最中に余所見は無礼だぞ?」
「っと!」
ゼクンドゥスの繰り出す槍を、ギリギリのところで避ける。
それと同時に反動を生かしてそのままソウルで一閃するが、ゼクンドゥスもこれを避ける。
さながら、ワルツでも踊っているかのような形になった。
「クク、そうだ。楽しいぞ蓮華!」
「私はちっとも楽しくないから、さっさと斬られろっ!」
ソウルを縦横無尽に振るが、それを全てゼクンドゥスは見切っている。
くっ……悔しいけど、強くなっている。
「ククッ……どうやら、俺の方が蓮華よりも強くなってしまったようだな?」
口角を上げつつそう言うゼクンドゥスに、私は静かにソウルを下げる。
「む?」
不思議に思ったのか、ゼクンドゥスは半歩、後ろへと下がった。
「そうだね、このままじゃジリ貧になりそうだし。私も力を解放するとしようかな」
「!!」
アーネストに秘術があるように、私だって自身の力にセーブを掛けて戦っていた。
それは、コントロールの訓練の続きでもあったけど……一番は、まだ制御しきれないからだ。
「ゼクンドゥス、お前は強いから……簡単に死なない事を祈るよ?」
「何!?」
そうして、力を解放する。川の水をせき止めていた弁を引き抜いた時のように、魔力が溢れ出る。
「へへっ……蓮華もようやく解放する気になったか。ま、あの城内で解放してたら、生き埋めになったかもしんねぇしな」
「素晴らしいですわ……蓮華、これ程の力を隠していただなんて……ああ、彼に譲るなんてもったいない事をしてしまったかしら……」
金色の波動が全身からボウボウと湯気のように出ている。
体に纏いきれない魔力が、全身から押し出されるように放出される。
ノルンの魔王形態に似ているけれど、これは別に体型が変わるとか、そんな事はない。
「美しい……」
ゼクンドゥスは呆けるように見てそう言った。
「さぁ、第二ラウンドだゼクンドゥス。今の私は、ちょっと強いよ?」